誰かこの話のオチを考えて下さい!

@snailchan

不完全短編小説

 僕たちは、毎日階段を登る。冷静に考えてみると、一体1年間で何段の階段を登っているのだろう。不思議なことに、同じ回数行っているはずである階段を降りることについては、そのように考えない。

 なぜ僕にとって、登ることばかりが意識されるのだろうか。

 僕の年齢らしく青春っぽく考えれば、まだ「何者」でもない僕の始まったばかりの長い人生、「登る」という行為が、意識的にしっくりくるのかもしれない。使い古された言い方をすれば「大人の階段を登る」ってやつだ。

 別の案として、僕の性格らしく俗っぽく考えれば、身も蓋もないのだけれど、登るたびに僕の体に負荷と、噴き出してくる不快な液体が流れるからだろう。

「はぁ…はぁ…」

 汗だくで階段を登る僕の所属する教室は、7階建ての建物の6階にある。毎朝学校が始まる前に、ここで体力を削られるのだ。加えて今年は暑い。いや、今年もと言った方が正しいかもしれない。

「やっと5階だ…あと、ちょっと…」

 僕がヒィヒィ言いながら階段を登り続け、踊り場に差し掛かると、頭の後ろに何かが落ちた音がした。どうやら上から降ってきたらしい。落ちた物に視線を移すと、それは2冊の本だった。

 「上から降ってきて落ちてきた物」が、思ったよりも安全な物だったので安心しつつ、それを落としたであろう「落とし主」にも安心させようと、まずは僕の無事を示すために上を見上げた。しかし、そこには誰もいなかった。問いただしても、何の返事もない。残ったのは2冊の本だけだ。

「え…僕が拾う流れ?」

 他人の落とし物を拾うくらいには、善良な学生である僕は、汗が本に落ちないように丁寧に2冊の本を拾い上げた。それぞれの本のタイトルは以下のようであった。

『風と共に去りぬ』

『猫と共に去りぬ』


−−−−−−−−−−−−−−−−−

「なんか…意図的なものを感じるね…」

 そう言うのは、クラスメイトの氷町恋複さん。メガネを掛けた小柄な女子だ。僕が話す数少ない女子でもある。本が好きということを知っていたので、今朝あったことを話してみたのだ。

「『風と共に去りぬ』は知ってたけど、調べてみたら『猫と共に去りぬ』の方はイタリアの童話作家の本なんだって」

 この話をしたら、氷町さんがスマホで検索して教えてくれた。

 この2冊の本の組み合わせは、タイトルが似ている。その点に「落とし主」による選書の意図を僕も氷町さんも感じていた。

「『風と共に去りぬ』のタイトルだと寂しいイメージになるけど、『猫と共に去りぬ』だとなんだか可愛いね」

「じゃあ、落とし主はわざと落としたってことなのかな。わざわざ僕の頭に当たりそうに。」

「あ…ちゃんと危なかったと思ってるんだね。淡々と話すから何とも思ってないのかと思ったけど…」

「まあ、当たってても、別にどうしようというつもりはないけど。でもどうして落とし主は、こういうことをしたんだろう。やっぱり、この組み合わせの意図は気になるよ。」

「うーん…少なくとも気づいて拾って欲しいという目的がありそうだよね」

 などと僕らは、一旦探偵のように考えてみる。その一方で、僕は今回の犯人を確信していた。犯人は今目の前にいる氷町さんだ。なぜかといえば、この2冊の本の裏面にある貸し出しカードを見ると、氷町さんの名前があるからだ。

 問題は、彼女の意図だ。僕が貸し出しカードの存在を知らないと思っているのだろうか。いや、一緒に本を借りに行ったこともあるし、そんなことはないだろう。つまり、彼女は僕に対して承知の上でしらばっくれているということだ。

「とりあえず、僕はこの2冊の本、昼休みに図書館に持っていくよ。このまま持っているわけにもいかないし。」

「うん。私も一緒に行っていい?乗りかかった船だし。」

 色々と疑問は残るが、何にせよ図書館に行けば色々と分かるかもしれない。だから、僕は氷町さんとお昼の約束をした。そして、そろそろチャイムがなるからと、氷町さんは自分の席に戻っていった。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

昼休み。

2冊の本を持って教室とは別棟の階段を登り、図書館へ入ると、エアコンが効いたひんやりとした空気と静けさを感じた。学校の中にありながら、ここは喧騒から離れている。

入るなり、氷町さんは迷いなく図書館のカウンターに向かっていった。

「先生の言った通りでした!」

そう言うと、奥から図書館の先生が出てきた。僕は「図書館の先生」としか認識していなかったけれど、胸に「図書館司書 時雨」とあるから、この人は時雨先生と言うのだろう。中性的で優しそうな人だ。なんとなくこの人が喫茶店で本を読んでいるイメージが浮かんだ。

「先生の言った通り、〜〜!」

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