第2話
ピピピピピピ
午前7:30。パソコンで昨日の"黒宮 怜"の配信を見ながら、パンと卵かけご飯という炭水化物オンリーの朝食を食べていると、とある人物から電話がかかってきた。
配信を止め、スマホを手に取る。
「お、おはようございます⋯⋯今時間大丈夫ですか?」
音量が小さかったので急いでスピーカーボタンを押す。
聞き慣れた声だ。パソコン横においてあった眼鏡ケースから眼鏡を取り出し、掛けながら答える。
「はい、大丈夫ですよ。四宮さん」
「あのですね、桜見さん⋯」
私の名前は
そんな彼女がなぜ私に電話をかけたのか。それは、私は彼女のマネージャーだからだ。
パソコンの画面を配信映像から黒宮 怜のスケジュール帳に切り替える。
「はい、何かありましたか?あ、まさかしばらく休みたいって言うつもりですか。もう少し頑張りましょうよ」
「いや〜あのぉ、そうではなくてですね、実は私、その、誰かとコラボしたいなぁ〜って」
一瞬固まったのち、詳しい話を聞こうと身を乗り出し、質問の態勢に入った。
「あの、大丈夫ですか?その、いろいろと⋯」
彼女、黒宮⋯いや、四宮は根っからの陰キャということを私は知っている。
初めて会った時から人見知りを発動しすぎていて、最初に二人で本社近くの居酒屋に飲みに行った時も会話が弾まず地獄だったのを今でも鮮明に覚えている。また、同じレオレインの同期や先輩とコラボをさせようとしても一向に断られ続け、結局コラボしたのは最初の顔合わせの一回限りということになっていたのだが⋯何があったんだろうか、彼女からコラボしたいと言われるとは。
「だ、大丈夫です!私、思ったんです。今のままじゃだめだって、同期の人達と肩を並べたいって!」
「そ、そうですか」
「はい!だから最初の目標、3D化を達成するために、誰かとコラボしたいんです!」
“3D化”その言葉を聞いて、飲んでいた牛乳を吹き出しそうになった。
またもや彼女から出ないであろう言葉が出てくるとは。
そもそも同期と肩を並べたいって、初めて聞いたな⋯ずっと思っていたことなのだろうか。気づけなかった。
ずっと、彼女はこれからも今まで通り一人で配信をするものだと思っていた。そんな彼女が今、新たに成長しようとしている。
それを止める理由はない。
「分かりました。コラボ相手、こちらで探しておきます。」
「えっ、本当ですか!?」
「はい、最初は多分、私の担当している人になると思います。」
私は彼女のマネージャーだ。そして、それプラス他にもVTuberを抱えている。その数計3人。
とりあえずめぼしいのは、うん、あの人だな。
「⋯あ、ありがとうございます!」
「いえいえ、四宮さんがやる気になってくれて嬉しいですよ。一緒に3D化、目指しましょう!」
「は、はいっ!」
と言っても、普段はぐーたらしている彼女のことだ。ふと気持ちが変わってもおかしくない。「やっぱ恥ずかしいからやだ〜」とか。うん、想像できるな。
⋯よし、そうなる前に畳み掛けるか。
「そうですね、じゃあやる気もあることですし、早速今日今後の方針について話し合いましょうか」
「えっ、今日ですか!?」
「予定、入ってましたか?」
「い、いえ、本社ですよね?分かりました。何時からですか?」
よっしゃ、取り付けた!これはいける!
「何時からでも良いですよ、お好きな時間を決めてください。」
「えっと、じゃあ1時からって、大丈夫ですか?」
「1時ですね、分かりました。ではまた場所が取れたらお知らせします。」
「はいっ!ありがとうございました!」
ツーツー
「⋯ふぅ、」
背もたれに寄り掛かり、肩の力を抜く。
彼女の気が変わらなくてよかった。多分、私が思ってた以上に本気なのだろう。これは、こちらも頑張らなくては。
朝食を食べ終え、シンクに皿を入れる。
椅子に座り、パソコンの画面をスケジュール帳から会議室を予約するためのサイトへと変える。
運よく1時〜4時までの間、会議室を予約することができたので私は一息つき、出かける準備をし始めた。
「ふぅ〜」
無事にマネージャーへの連絡を済ませた私は、ソファに倒れ込んだ。
あぁぁ、電話ちょっと緊張した〜。でも相手は桜見さんだったし、大丈夫だった!
桜見さんも協力してくれることになって、いやぁこれもう3D化できるんじゃない?⋯って、そんな甘くないよなぁ〜
野菜ジュース一本を冷蔵庫から取り出して飲む。作るのがだるいからと野菜ジュース一本生活を続けた結果、見事に習慣化されてしまった。
さてと、昼までまだ時間あるし、あっ、配信見よ!ひょっとしたら未来でコラボするかもしれないし!
そう思いながら、パソコンの前に座り、レオレインの公式サイトを開く。現在配信中のタブを見ていると、とある人物が目についた。
—“青宮 晴”。
昨日の配信でちょうど登録者数30万人を突破したらしく、今日は朝早くからお祝い配信をしているらしい。
すごいなぁ、まだ入って1年、いや半年も経ってないでしょ。追いつかれて、追い越されてしまった。
悔しい。けど、私はここからだ。自分のペースで、頑張ろう!そう、決意した。
「あ、ていうかもうトレンド入ってるんじゃ?」
ふと気になってスマホを開き、トゥイッターを確認する。
「青晴 30万人突破」「レオレイン」「VTuber最速30万人突破」
案の定早速トレンドになっている。ていうかVTuber内最速なんだ、すごいな⋯
素直に感心しながら他のトレンドも見てみると、ふと気になるキーワードがあった。
「青晴 好きな人」「青晴 告白」
んん?好きな人、告白、って、え、何言ったの?青晴何言ったの!?
好奇心に駆られ、トレンドの部分をクリックする。
すると、ついさっき、数分前〜今までのコメントがズラッと表示された。そのまま下にスワイプしていく。
皆、青晴が告白した、と騒いでいるようだった。
どんだけ下にスワイプしても、数分前からしか無いことから、きっと今やってる配信で告白?したんだろうけど、え、マジモンの告白!?
え、誰々!?
しかしどのコメントを見てもその相手の名前が載っていない。きっと名前は言っていないんだろう。
気になる。めちゃ気になる。
いやぁ、なんていうか、その、恋愛話を聞いてみたい。
今まで人と全然話してきてないから、当然恋愛話なんて、もう小学生以降の記憶がない。
ネットで色々な恋愛話を聞くことはあったけど、自分とは全然関係ない人だし、恋愛なんて私とは縁もゆかりも無い話題だからあんまし興味もなかったんだよなぁ。
でも今は違う。確かに会ったことはないけど、他人、とまではいかないと思う。だって、同じ事務所だし!
自分と関連がある人の恋愛話はとっても楽しい!面白い!
さっそく私は彼女の配信動画を見るべく、検索をかけた。
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