偽りの鉱石

棚守 垂

プロローグ

 広間のソファに落ち着かない男が一人座っていた。ソワソワと周りを見渡しながら何かを今か今かと待ち望んでいる。十分ほどして廊下から急ぎ足が聞こえこの部屋の前でその足音が止まる。ノックもそこそこに一人のメイドがドアを開け男を見つけた。

「お産まれになりました」

その一言は男が待っていた言葉だった。男は弾かれるように広間を出て、少し離れた場所にある寝室へと駆け、寝室へと飛び込んだ。ドアに傷が付くのも気にせず乱暴に開ける。ベッド取り囲むメイド達が驚いたように顔を上げ男を見る。が、男はメイドたちの驚きを知らずか気にせずかドカドカとベッドまで辿り着いた。

ベッドの上には息も絶えだえで汗にビッショリと濡れた女が腕の中に白いシーツの塊を抱きしめていた。

「ローサ、大丈夫か?」

男は女、ローサの頬に右手を触れながら問いかけた。ローサはその手に自身の手をのせ微笑んでみせた。

「えぇ、疲れたけど私もこの子も無事よ。ヴォルフ」

ローサは腕の中に抱きしめていたシーツの中身をそっとヴォルフに見せた。中をのぞいてヴォルフは息をのんだ。初夏の暑さも、秋の肌寒さもを知らぬような綺麗な淡い翡翠の瞳と静かに目があった。

「綺麗な翡翠の子よ。百年ぶりに産まれた石に祝福された子」

そう告げるローサからその子を受け取り、抱き上げたヴォルフはつぶやいた。

「よろしくな、リオ」

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偽りの鉱石 棚守 垂 @TanamoriSUI2744

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