THE GALACTIC CONFLICT:第一動乱編

SACKY

プロローグ

アラメス連合軍のガロス艦隊――その本隊は前線から遠く離れた宙域で展開していたが、大型機動空母1隻と、強襲揚陸艦を含む2ユニット構成(1ユニット=5隻編成)の分遣隊が、グロズ帝国の前哨基地ノルヴァック制圧任務にあたっていた。


作戦開始と同時に、艦隊は敵基地近郊の低軌道へ接近。


先行して投入された偵察機が、静かに上空を旋回する。


パイロットはレーダーの反応に目を走らせながら、肩の力を抜いた。


「……妙に静かだな。地対空の気配もない。こっちは歓迎されてるのか?」

通信には、わずかに笑みを含んだ声が乗った。


グロズ帝国の前哨基地ノルヴァックは、まるで無人島のように沈黙していた。

沈黙が、かえって異様な緊張感を醸し出していた。まるで獲物を待つ捕食者のように。


高射砲も、電磁妨害も、熱源反応すら検知されない。


まるで――敵がこの基地を放棄したかのようだった。


艦橋に報告が届く。


「第1偵察機、上空に敵の反応はなし。目視でも構造物に活動の兆候はありません」

ガロス・ディーレン中将は、指で顎を撫でた。


「ふん。奴ら、我々の戦力に恐れをなして逃げ出したか……」

その瞬間だった。


「っ!?熱源反応――真下からッ!!」

偵察機のパイロットが叫ぶ間もなく、地表の裂け目から閃光が突き上がる。


隠された地対空ミサイルが射出され、偵察機を一撃で捕らえた。


機体は軌道を外れ、炎を引きながら沈んでいく。


「第1偵察機、撃墜されました!」

艦橋が騒然とする中、ガロスは静かに椅子から腰を上げた。


「……第二、第三偵察機、撤収を命じろ」

ガロスは低く命じ、副官に目をやった。


「こちら艦橋、第二・第三偵察機に通達。即時、索敵中止。帰還せよ」


「……チッ、安っぽい演出だ」

「駆逐艦、巡洋艦――艦砲斉射準備。目標、基地防衛ライン。撃て」

「了解、艦砲射撃を開始!」

次の瞬間、アラメス連合艦隊の艦砲が一斉に咆哮を上げた。


金属の嵐が、グロズ帝国の沈黙を砕き始める。


高射砲・対地砲台・機関銃陣地・装甲車両など、上陸作戦の妨げとなる防衛設備へ集中砲火を浴びせた。


轟音が地面を抉り、砲台の支柱がひしゃげて崩れていく。


防衛ラインは音を立てて崩壊していった。


その後、空母艦載機による航空支援が展開された。


マコト・ヴァイスの機体からAGM-21《ホークビーク》が射出される。


――地対空兼用の操縦型誘導ミサイルで、固定砲座や軽装甲車両など、中・小型目標の精密破壊に特化した兵装だ。

弾道は砲塔をわずかに逸れていた――管制モニターを見ていた者たちは、外れたと判断した。


だが彼の指先がコントロールレバーを微かに押し込み、軌道をわずかに修正。


ミサイルは高射砲の旋回軸に命中し、砲塔は黒煙を上げながら静かに崩れ落ちた。


「よし、上陸戦は予定通りに進め」

ガロスは前線報告に頷き、指揮官としての冷静な判断を下した。


制空権を確保した後、強襲揚陸艦が降下を開始。


まず支援装甲車が展開され、後方からB.A.兵(バイオニック・アーマノイド兵)部隊が続いた。


――強化外骨格と人工筋肉を備えた人型兵器で、前線の主力を担う新世代歩兵である。


一体の特殊任務用B.A.兵が、前線から離れた岩山地帯へとスラスターバイクで進んでいく。

狙撃兵――ラゼル・クレインである。


「マグロック解除」

背中の重厚な兵器が、シュンという音とともに彼の腕へと滑り込む。


彼は携帯型レールガンに榴弾を装填し、出力を調整。


グロズ帝国基地の主要入口にある装甲シャッターの上部を正確に狙撃した。


コイルが金属の悲鳴を上げた瞬間、重力の塊のような反動が装甲をきしませ、周囲の空気すら震えた。


あの反動を生身で受けていれば、肩の骨が砕けていただろう。


B.A.兵の外骨格と衝撃吸収構造がなければ、到底扱えない兵装だった。


シャッター上部に命中した榴弾が爆発し、ロック機構が破壊される。


支柱がたわみ、シャッターは悲鳴のような音を立てて倒れた。

むき出しの突入ルートが、鋼鉄の奥から現れる。


戦線後方では、一人の新兵が小型輸送ユニットを背負い、激戦下で孤立していたB.A.兵の元へ駆けつけた。


「ここまで来たら、死ぬ気で走れ!」

新兵ルークは、背中に輸送ユニットを背負ったまま、瓦礫を越えて走る。


その先に、孤立して動けなくなったB.A.兵がいた。


「くそ、こんな鉄の塊のために俺が……」

だが彼は止まらなかった。


仲間が移動する間、このB.A.兵が時間を稼いでくれたことを、ルークは知っていた。


敵弾が飛び交う中で弾薬を届け、その機体が戦列に復帰する。


直後に響いた爆音が、彼の足元を揺らした。振り返る間もなく、熱線が背を焼き、ルークの姿は瓦礫の向こうに消えた。


彼の脳裏には、かつての訓練中に笑い合った仲間の顔がよぎっていた。


基地内部通路に銃声が響き渡った。


アラメス連合のB.A.兵が一斉に銃を構え、敵影に向かって12.7mm弾を撃ち込む。低く重い銃声が鼓膜を打ち、閃光が装甲の継ぎ目を走った。


正面にはグロズ帝国のB.A.兵。屈強な装甲に身を包み、こちらの射撃に動じることもなく、同様に重火器を構えて応戦してくる。


「被弾確認、肩部装甲が砕けた!」

先頭の一体が叫んだ直後、銃撃がその左肩を捉えた。装甲が爆ぜ、内部のサーボユニットが露出する。関節が破壊され、腕がだらりと垂れたまま動かなくなった。


返すように、アラメス連合側の射手が一瞬の隙を狙って発砲。12.7mm徹甲弾が、グロズ帝国兵の右膝関節に命中。機体はよろめき、膝をつく。


「詰めろ! 距離を詰めて突入する!」

指揮官の叫びと同時に、アラメス連合兵たちは障害物もない直線通路を一斉に駆け出した。


その瞬間、何人かの兵のヘルメット内に荒い呼吸が響く。緊張と恐怖が、鋼鉄越しにも滲み出ていた。


その瞬間、さらに火線が交差する。銃弾が床をえぐり、壁面に火花を撒き散らしながら、前進する兵の装甲をかすめる。反響する衝撃音のなか、敵味方の距離がみるみる縮まっていった。


グロズ帝国の一般兵が目の前のアラメス連合B.A.兵に、最後の抵抗として非常脱出用の斧を振り下ろした。


刃は命中したが、分厚い複合装甲に阻まれて跳ね返された。


一撃では破れず、二撃目を振る前にB.A.兵の拳が兵士の腹部を捉え、彼は吹き飛ばされた。


近接戦においてさえ、“人間の武器”ではこの機体に太刀打ちできない――それが現実だった。


直後、弾薬が尽きたアラメス連合B.A.兵の一部は、グロズ帝国B.A兵との距離を一気に詰め、白兵戦へと移行する。


押さえ込みの中で、腰に差したレーザーソードを展開した。


レーザーソードのスイッチを入れると、白い光刃が走った。


「押し当てて焼く、それがこの刃の正体だ……!」

その言葉通り、B.A.兵は敵の腕を掴み、組み伏せた上でレーザーを押し当てる。


照射部位を焼き続けるには、至近距離での接触と姿勢の維持が不可欠。


“受け”の概念は存在せず、最初に封じた者が勝つ――それがこの戦いのルールだった。


アラメス連合のB.A.兵は、格闘技術の中でもグラップリング(組み技・関節技)に特化したスタイルを採用。


タックル → 関節固定 → 照射という一連の流れを、確実に遂行する集中力が要求された。


一方、グロズ帝国のB.A.兵はサンボ(帝国式の実戦格闘術)を採用。


足払い・崩し・高精度照射で応戦し、格闘戦では拮抗していた。


この一連の動作は、格闘技術の精髄であり、実戦での勝敗を分ける鍵だった


数の上では、アラメス連合が優勢だった。


各機が互いに死角を補いながら、次々とタックルと関節技で敵を押し倒していく。


個々の動きは荒削りでも、集団としての連携が、帝国兵を徐々に圧倒していった。


地上にねじ伏せられたグロズ帝国のB.A.兵たちは、レーザーソードによってやがて次々と動きを止める。


最後の一体を取り囲み、複数の兵が静かに構える。


複数のB.A.兵が一斉に飛びかかり、グロズ帝国兵の両手両足を四方から押さえつけた。


地面にねじ伏せられた装甲が軋んだように震え、抑え込む兵士たちの呼吸が荒くなる。


「……動くな!」

一人が低く唸り、腰のレーザーソードを展開。


白い光刃が走り、ためらいなく帝国兵の左脇腹に突き立てられた。


装甲の隙間に押し当てられた刃が内部構造を灼き切り、帝国兵の機体が激しく痙攣する。


焼け爛れた内部から煙が立ちのぼる。数秒後、動きは完全に止まった。


それはまるで、抵抗を許さない集団処刑のようだった。


グロズ帝国B.A.兵を制圧完了と同時に、周囲のアラメス連合B.A.兵たちは即座に次の行動へと移った。


「突入用意、制御区画へ接近!」

指揮用の通信が走り、B.A.兵の一部が前衛に立ち、残る歩兵部隊――通常の装備を持つ一般兵がその背に続いた。


厚い防壁を破砕したのは、B.A.兵の背部に搭載されたブリーチングハンマーだった。振り下ろされた衝撃がコントロール室前の強化扉を歪ませ、次の一撃でヒビが走る。


「行くぞッ!」

扉が破られると同時に、アラメスの兵たちが一斉に雪崩れ込んだ。


B.A.兵の巨体が先導し、その背後から飛び込んだ銃を構えた歩兵たちが、コントロール室内のグロズ帝国兵たちに銃口を向ける。


だが、そこに抵抗の意思はなかった。


グロズ帝国側のコントロール室要員たちは、椅子から立ち上がることなく、茫然とした顔で前線の崩壊を受け入れていた。


B.A.兵に囲まれ、銃を構えた敵歩兵に睨まれても、誰一人として反撃の構えを見せる者はいない。


「……降伏する。命は奪わないでくれ」

指揮官と思しき男が、震える声で言った。


アラメスの兵士が素早く制圧に入り、通信端末を封鎖、武装を解除し、捕虜確保の処理へと移行する。


制圧完了の報告が通信に流れた瞬間、戦場の空気は静かに変わった。


そこには、勝利の歓声も、敵意の残滓もなかった。


ただ、長きに渡る消耗戦の中で、一つの戦場が静かに終わりを迎えたのだった。


名もなく倒れた兵たちは、確かにこの地に存在していた。


その姿は記録にも残らず、語られることもない。


だが――彼らの歩みを、B.A.兵たちは忘れない。


静かに立ち上がったB.A.兵たちは、無言のまま残骸を越え、次の戦地へと歩を進める。


その背に振り返る者は、誰一人としていなかった。

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