You Must Not Meet Her -決して出会ってはならない彼女-

天使の羽衣

第1話Where It All Begins

 「ついてきなさい!」

声を荒げて服を引っ張ってくる赤髪の女。

俺は死にたくないからついていっているわけだが、進むにつれて、木々はまるでこちらを飲み込むように生い茂っていた。まるで森が生きていて、俺たちをどこか見えない場所へと導いているようだった。

茶番にでも付き合わせられているのかと思いながら聞こうとした瞬間あたりが突然明るくなった。

地面には芝が生えており、人工的に作られた空間みたいだった。

赤髪の女は言った。

「ついたわよ!ここが私たちの拠点となる場所よ!」

そういい指をさした先にはボロボロの校舎がたっていた。

……これ、本当に俺たちの“拠点”なんだろうか。俺は、思わず目を細めてしまった。

「おい……俺らが住む拠点なのか?」

「そうよ!見た目はぼろいけど中に入ったら快適なんだから」

「そうか……」


俺は赤髪の女の話を半信半疑で耳に聞き入れた。

案内されるがままに校舎の中に入った。


が、中も想像通りだった。


廊下の天井からは外の太陽の光が小さな隙間から漏れていた。

そして、極めつけは窓がないことだった。

夏はなくても困らないが冬が絶対死に瀕する寒さをしているんだろうなと思いながら年季の入った廊下を進むと校長室と書かれた看板が見えてきた。

そして、赤髪の女は校長室へと入っていった。

俺もつられて入っていく。中には、四人の男女がいた。

「紹介するわ!」

赤髪の女は年季の入った校長室の椅子に座りながら言った。

「まず、ずっと腕立て伏せしてるのが鈴木健太。筋肉バカね」

「よろしくお願いします!」

健太は筋肉を見せびらかすように挨拶をした。

「壁の隅で腕を抑えている女の子は佐藤あかねよ」

「漆黒の扉は開かれた……」

「よろしくねー」

もしかして俺やばいところに入ってしまったのではと二人の時点で思った。

「そして、銃を磨いている男の子が東輝固切あずまだいやもんどよ」

「よろしく頼む」

「そして、机の上でまじめに勉強しているのが元『能力者』で落ちこぼれの生沼凛よ」

「話しかけないでもらわないか」

「最後に……!」


「まてまてまて!」


俺は思わず、声が出てしまった。

赤髪の女と周りの人たちは驚きながら俺のほうを見た。


「なんか……個性豊かすぎませんか?このメンバー」

赤髪の女はくすっと笑い言った。

「ふふっ……そうねまだこんな個性豊かな子がいっぱいいるわ!そして、私が白羽みさねよ!この「能力者対抗隊」を作った張本人よ!」


自分で張本人というんだ……

少し戸惑いながらも頭の中で受け流した。

みさねは、椅子に座りながら腕を組んで言った。

「で、名前聞いてなかったけどあんたはなんていうの?」


……確かにここにくるまで一度も名を名乗っていなかったなと思った。

普通の自己紹介でいいだろと思い、少し声を張って言った。

「新垣恭太です」


名前を言った後、謎の気まずい空気が部屋を支配していた。

皆、俺のほうを見て黙り込む。

耐えかねた俺はもう一言言った。

「……あのなんですか?この空気」

みさねは、立ち上がり俺の前まで来て肩を優しくたたいていった。

「地味なのよ。自己紹介が」


この人、俺の中で最悪だった想像をそのまま言葉にしやがった……

今まであまり目立たずに生きてきた俺が元気はつらつな個性のある自己紹介などできるはずないだろー


そんなことを心の中で思っていると、この部屋で一番きれいで清楚な見た目をしている生沼凛が言った。


「ださ……」



ださっ……ださっ……


俺の心は完全に折れた。

その場で膝から崩れ落ち意気消沈した。


そんな俺を横目にみさねは好調の椅子に座りなおして言った。


「今日は恭太君が加わってくれたことだから、あれやりましょう」


あれ……?なんなんだあれとは


「新人歓迎会と言うことで食堂にとつるわよ!」


食堂にとつる……?


普通に食堂の入り口から入って食券を買って食べればいいんじゃないのか?

もしかして、俺の常識が通用しないのか…?


「おっと!恭太君、疑問を感じている顔をしているわね?」


「はい。普通に食堂……」


俺がしゃべっていると、生沼凛が口にタオルを詰めてきた。


突然のことで驚いたが生沼凛はどこか怒っている顔をしていた。

「あらら……凛を怒らせちゃったわね?凛、今の状況を説明できるかしら?」


「はい。承知しましたみさね様」


みさね様!?あの女にそんな尊敬しているのか……

少し感心していると生沼凛の説明が始まった。


「まず、私たちがいるのが旧校舎です。もう誰も使われていない廃墟です。そして、本棟がここから二キロメートルほどの場所にあります。そこには、能力をもっている優秀な生徒たちが集まる「エレメント学園」があります。そこへの入学条件はただ一つ。『特別な能力を持っているか』です。例えば、水を操れるや光を出すことができるなど……条件は様々です」


今の一通りの説明を聞いてなんとなくわかった。

俺たち「無能力者」は学園入ることも許されないというわけか……


「食堂に入るのも一苦労ってわけか」


「そうね……ってなんでしゃべれてるのよ」


「口に詰めたタオルが詰め具合甘かったので」


そんなことを話していると突然ぶつぶつと壁の隅で言っていた佐藤あかねがぼそっと言った。


「新垣君……君に家族はいるの?」


突然の質問に、なぜか胸の奥がざわついた。


「あぁ、いるさ。お父さんとお母さん、そしてお姉ちゃんがね」


すると、あかねは眉ひとつ動かさずに、静かに言った。


「……でも、あなたの後ろには、“もうこの世にいない人”の気配があるの」


背中をぞわりと何かが撫でた。空気が、一瞬にして変わった。

それは部屋全体の空気の雰囲気が変わった。

みさねは半笑いしながら言った。


「冗談言わないでよ!もうあかねったら。いないでしょ?恭太君」


……俺にはだれにも言えない過去がある。


それが決して親しくなった人。恋人になった人でさえ言わないと覚悟を決めていた。


「……いないです」


「ほらねー」


みさねは部屋の空気を換えようと声を上げて言った。


そのあと、皆何もなかったかのように話し始めるのだった。


あとがき


お久しぶりです

ここまで読んでくださりありがとうございます。

今回のお話はどうでしたでしょうか。

主人公と仲間たち。そして、能力を持つ者たちによって配偶が違うのが結構物語の鍵になるかもしれません。


ちなみに、主人公たちがいる旧校舎には食堂がありません。

なので、食堂にとつるのは日常です。


また次回お会いしましょう。  by天使の羽衣



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