寝取ってハーレム王! ~残念イケメンがモブ主人公の青春を破壊する。
猫野 にくきゅう
第1話 ハーレム王、誕生の瞬間
「青山、学年一位だぞ!」
無造作に伸ばした髪が肩で揺れる。
伊達メガネの奥に広がるのは、いつもと変わらない教室の喧騒だった。
中学校の廊下。
張り出された試験結果を前に、担任がやけに興奮した声で俺の名前を呼んだ。だが、大した感慨はない。
これまでもずっと一位だった。
いつものことだ。
俺は他人に興味がなかった。
人からどう見られているかなんて、気にも留めない。髪が伸びてくれば適当に自分で切る。肩まで伸びたおかっぱ頭を維持。人付き合いが煩わしくて他者と距離を取る為に伊達メガネをかけていた。当然、友達はいない。
クラスに戻ろうとすると、声が聞こえた。
いや、声というより、こちらに聞こえるように放たれた悪意の塊だ。
「あいつ、勉強ばっかしてんだぜ」
「知ってる。休み時間も勉強ばっかで、友達もいないんだぞ」
「まじか? つまんねーやつ」
ここまでは、いつものことだ。
気に留める必要などない。
俺はこれまでもずっと、こういった嘲笑や陰口を無視し続けてきた。
しかし、その日の言葉は違った。
「何のために生きてるんだよ。あいつ」
その一言が、俺の胸に鉛のように突き刺さった。
あいつらの存在も、悪口を言われたこともどうでもよかった。だが、「何のために生きているのか?」という問いに対する答えが、俺には出なかった。
俺は、何のために生きてるんだ?
勉強はできる。
もともと頭は良かったし、家でも学校でも勉強ばかりしていたから、成績はいつも一番だ。勉強ばかりしている俺を心配して、母親に運動するように言われてからは、朝晩に走るのが日課になった。
走って、勉強する。
それだけの毎日。
だが、その生活に、確固たる目的はなかった。
何のために生きているのか分からなかった。
夏休みに入り、俺は漫画喫茶に入り浸るようになる。
薄暗いフロアに、古本独特の匂いが充満している。俺はひたすら、これまで触れてこなかった漫画という世界に没頭した。
自分の人生の参考にしたかったのだ。
そこには、俺の知らない人生の形が無数にあった。
ある主人公は世界を救い、ある主人公は強敵を打ち倒し、またある主人公は仲間と共に高みを目指していた。
様々な漫画の主人公たちの姿が、俺の思考を鮮やかに彩った。
彼らは皆、明確な目標を持っていた。
俺の望みは何だろう。
人間の三大欲求から考えてみるか。
「食欲」「睡眠欲」「性欲」。
食欲と睡眠欲は満たされている。
ならば残るは性欲、となると……。
俺は目の前の恋愛漫画を閉じた。
そして、確信した。
『ハーレムを構築する』
これを、俺の人生の目標とする。
そして、その目標を達成するためには、論理的な戦略を立て、同じ考えを持つ仲間を集めることができる。
不安は全くなかった。
俺ならできるはずだ。
やってやる。
秋が過ぎ、冬が過ぎ、そして春になった。
俺はこの田舎町から出て、県外の高校に進学することにした。
成績は十分だし、家は資産家で余裕のある暮らしをしていたので、高校からの一人暮らしもあっさり許可して貰えた。
その間、一人暮らしするための準備として、料理も練習した。包丁の使い方から、火加減の調整まで、全てを論理的に分析し、完璧にこなした。
春休み、俺は親の用意してくれた新しいマンションに引っ越した。
家の方付けを終えると、まず向かったのは美容院だ。
無造作に伸びっぱなしだった髪を、短く、おしゃれに切ってもらう。鏡に映ったのは、まるで別人のような、爽やかなイケメンだった。
人との距離を取る為にかけていた、分厚い伊達メガネも外した。
これですべての準備は整った。
後は目標に向かって突き進むだけだ。
俺は高校デビューする。
高校に入学した。
新入生として登校し、体育館へ向かう。
入学式では、生徒を代表して挨拶をする義務があった。
学年トップの成績だった俺の、いわば通過儀礼だ。壇上から見下ろす生徒たちの顔は、俺にとってはただの記号だった。
しかし、彼らが俺の「ハーレム」を構成するかもしれない存在だと思えば、少しは興味も湧く。
生徒代表の挨拶を終え、拍手の中、俺は自分のクラスへと向かった。
知り合いは一人もいない。
周りの女子から、俺に向けられた視線の熱を感じる。
生徒を代表して挨拶したからだろう。
ちょっとした有名人だ。
担任の教師が来て、ホームルームが始まる。
「それじゃ、まずは自己紹介から始めましょうか。出席番号順に……青山くん、一番前だから、トップバッターお願いね」
一番前の席に座る俺は、クラス全員に宣言するために振り向いた。
そして、抑えきれない高揚感とともに、自己紹介を始める。
「俺の名前は青山漣。この青春学園には『ハーレム』を作りに来た。高校生活の目標はハーレムを作ることだ。――ハーレム王に、俺はなる!!」
クラス中が静まり返る。
困惑、嘲笑、驚愕。様々な視線が俺に突き刺さる。
そんな中、誰かがヤジを飛ばした。
「ハーレムって、誰をメンバーにするんだよ?」
俺はクラスメイト達をゆっくりと見渡した。
そして、その中で一番可愛らしく、俺の「ハーレム」にふさわしいと直感した一人の女子生徒を指さした。
「まずは、君だ」
俺に指名された女子生徒――
白石莉子は、顔を真っ赤にして叫んだ。
「ごめんなさい!」
即答だった。
俺の完璧な計画が、開始早々に崩れ去った瞬間だった。
しかし、俺は諦めるつもりはない。
なぜなら、これは俺の人生の目標なのだから。
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