第38話:パレスチナ独立
1941年9月11日、今尚独立記念日として讃えられるその日は正しくパレスチナ人が勝ち得たものであった。まあ無論、背景には大日本帝国が存在したのだが、彼らはひとまず、独立国として聖地を中心とした国家を形成することができたのだ。当初、それを苦々しく見ていたユダヤ人も、自分たちの国が出来るということを知った途端反対意見は散っていったという。
そして、パレスチナが早速歴史の表舞台に出る事態となった。それは……。
「まさか、恩人と仇敵の同盟をこの地で行うことになろうとはな」
「大統領、抑えて、抑えて」
「別に、怒ってはおらんよ。私の顔は元々険しい方なのだ」
「しかし……」
「そんなことより、なぜ此所なんだね。あまりにも日本からは遠くないか。第一……」
「実は、日本側の指定でして」
「はぁ?」
「英日同盟をパレスチナで執り行いたい?」
「はい、どうやら大日本帝国側は弱腰のようですな」
「……厄介なことになった……」
「は?」
「首相にとってはグッドニュースだろうが、私にとってはバッドニュースだ……」
「何か、拙いことでも?」
「君ぃ、私の前職は知っているだろう?」
「……ああ、そういうことですか」
「ああ、そういうことだ」
「確かに、それは厄介ごとですな」
「……暗殺は、さすがにされないだろうが……」
「それは大丈夫でしょう、何せあそこはインドではなくアラブですから」
「……君ぃ……」
「それでは行って参ります、叔父上」
「……普段通りで行ってこい、あと叔父上はよせ」
「しかし……」
「儂はもう引退の身だ、いつも通りの呼び名で構わんよ」
「……そうですか。それでは行ってくるよ、菊爺」
「おう」
白鳥敏夫が全権委任大使として赴いた日英同盟の成立は、思ったより難航していた。無理からぬことだ、一度もつれた糸をほどく場合、丁寧にほどくより糸の距離に余裕がある場合は一度切ってしまいつなぎ直した方が時間の節約になるという事例の通り、こじれにこじれた日英関係の着陸は非常に難解であった。一応、イギリス側が乗り気なのが救いであったが、イギリスの外交戦術を考えれば乗り気なイギリスほど不気味なものは、なかった。
一方のイギリス側代表、ハリファックス伯ことエドワード・ウッドもまた、非常にこの英日同盟には不安を感じていた。国民の大多数が望んでいる英日同盟であり、首相であるチェンバレンも全権委任大使という形でゴーサインを出している英日同盟関係になぜ彼が不安を感じるのか。それは……。
「ガンジーが半裸姿でイギリス国王兼インド皇帝の名代である総督と対等に交渉している。このような光景はインドの不安定と白人の危機を招く」
……以上の問題発言を始め、「ガンジーは狂信的托鉢」などといった差別主義者である、インドの徹底的な強圧支配を希望し、インド独立の最大の敵となる帝国主義者、サー(失笑)・ウィンストン・ナマエムダニナガイ・チャーチルの存在である。
正直、所詮は家祖が傭兵に過ぎないチャーチル一派など無視しても良かったのだが、いくらマールバラ家は家祖がただの傭兵だったにもかかわらず女王殿下にお駄賃で貴族にして貰ったという情けない伝説を持つとはいえ一応、とにかく、とりあえずは、公爵家の家長である。海賊風情が貴族になれることからも判る通り、イギリスの貴族位などハリボテ以下の価値しかない上に、その精々300年程度の歴史しかない噴飯ものの浅さとはいえイギリス国内ではそれなりに厚遇されていたらしく、幅を利かせていた。もう言うまでも無いだろう、肌の色でしか人間を判断することの出来ないレイシストであるチャーチルはインド人と同じ肌の色である日本が大嫌いであった。
そして、厄介なことにチェンバレンが退官もしくは死去して選挙になった場合、チャーチル一派が首相になる確率がそれなりに存在しており、折角の英日同盟が反故になる可能性もあった。故にハリファックス伯は「ある条項」を追加することにした。その、内容とは……。
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