第31話:閉会式、そして運命は覆る

「では、これをもちまして東京オリンピックを閉会いたします!」

 たちまち群衆の拍手喝采が起こる。アジア初めてのオリンピックは無事大盛況のまま獲麟を迎えた。

「そして、続いてはこちらになります、選手団の皆様もどうぞ東京湾の方へお集まりください」

 と、続いての行事があるのか突然東京湾の方を見るように促される選手団と群衆。そこに、浮かんでいたのは。

「お、おい、あれなんだ?」

「ちょっと詰めてくれよ、見えないじゃないか」

「……でっけぇ……」

 ……東京は千代田区から見て、ちょうど浦賀の方面に存在するそれは、まごう事なき軍艦大和であった。無論、大和だけではないのだが、そこに浮かんでいる大和は、あまりにも堂々としていた。涙を流している群衆すらいた。顔を青ざめている選手団がいた。

 ……そう、大日本帝国はこの8月8日を閉会式にするために敢えてこのスケジュールを調整したのだ。では、この年の8月8日には何があったのか。それは……。

「長官、うまくいきましたね」

「ああ、皆驚いているだろう」

 大和の艦橋から連合艦隊司令長官が微笑む。彼の名は吉田善吾。この大和進水を以て次の世代へと長官職を譲り渡す予定の老人である。

 ではなぜわざわざ呉で製造しているはずの軍艦大和の進水式が横須賀近海で行われたのか。それは、大日本帝国なりのペリー来寇以来の宿題の答えであった。

 浮かべる城。それを造るために、大日本帝国は製造されたのだから当然と言えば、当然と言えるのだが。

 そして、艤装を行うために行われる試験航海をかねて、呉から出張した大和は呉に帰っていった。あまりに大きなインパクトを群衆達の耳目に残して。

 そして、数ヶ月が過ぎ1940年11月5日。アメリカ合衆国大統領選挙の結果意外な人物が大統領として復帰した。ハーバート・フーヴァーである。アルフレッド・ランドンは連続して二期以上大統領職を務めることは容易に独裁政権に繋がると称して勇退、議員としてはとどまるものの、以後大統領職は二期以上務めることは不文律として禁止された。一方で、フーヴァーは名誉挽回のため血気盛んであった。その、彼がまず行ったことは……。

「日本と軍縮条約を結ぶ!?」

「本気ですか、大統領」

「君らこそ正気かね。彼らがヤマトなる新型戦艦を突如として公開した意味を考えてみたまえ。それはいわば、見せ金なのだよ」

「しかし、軍縮など行っては……」

「ああ、剣を収めることは勇気がいるだろう。だが、軍艦を製造する金があるならば、それを景気回復に使った方がいい。ニューディール政策など、まがい物に過ぎないことは死んだルーズベルトが身を以て証明しているだろう?」

「しかしっ……」

「とはいえ、軍縮をするならば退役する軍人へ生活の保障が必要になるだろう。それも、きちんと考えてある」

「はあ……」

 後に、アメリカ合衆国としては異例の保険制度が執行されたのは、退役軍人達への飴が起源だとされている。

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