第17話:ミュンヘン会談

 1938年9月29日のことである、ミュンヘンにて行われた会談によってズデーデン地方のみならずチェコスロヴァキアの全面的占領を認める羽目になった。通称、「ズデーデンの栄光」である。とはいえ、ヒトラーは望む望まざるに関わらずここで進軍を停止せざるを得ない事情が存在した。何せ、ポーランドを始めラトビア、リトアニア、エストニアなどの東欧諸国家は大日本帝国が独立保障をしており、その上独ソ不可侵条約を結んだ場合、それは即座に日独防共協定の破棄を意味するからだ。だが、小さな事件が起きた。通称「新聞規制事件」である。そう、ヒトラーはチェコスロヴァキアの新聞が自身を嘲弄したことを決して忘れてはいなかったのだ。だが、この事件は小さなものとして処理されることとなる。なぜならば……。

「全く……」

「寝た子を起こす真似をするなとあれほど……」

 列強は、チェコスロヴァキアを見捨てる代わりに一時の安寧を手にした。見捨てられたチェコスロヴァキアはたまったものではないが、この当時のドイツ第三帝国は戦力を過小評価されている上に東の方にはもっと危険な蛮族が存在した以上、チェコスロヴァキア程度の代償で済むのなら、というのが列強の判断であった。

「それはそうと、かの外務大臣様はどこにいらっしゃる」

「ああ、それならばカノッサ古城跡地にいらっしゃるようだが」

「何故、そんなところに……。まあいい、急ぐぞ」

「おう」

 そして、彼らは「外務大臣様」の言行の真意を尋ねるためにカノッサ古城跡地に向かった。


「イシイ外務大臣、勝手に出歩かれると困ります!」

 イシイ外務大臣、つまりは石井菊次郎のことであったが、彼らは日本の外務大臣が結んだ協定の真意を問い質すことにした。その理由は言うまでもあるまい、「東欧協定」がドイツを刺激しかねないということと、同時に本当にソビエト連邦を縛り付けるためだけの、つまりは悪用しないと言えるのかということだ。

「おや、皆さんお集まりで、如何なさいました」

「秘書のやったことなどとは言わせませんよ、あの協定はどういう意味なんですか!」

「……どの、協定ですかな?」

「東欧協定です!あれは本当にそのままの意味で構わんのでしょうな!?」

 東欧協定は、根本的に防共協定であったが、それが日独防共協定とリンクしている以上、ドイツの東方への歩武に正当性を与えかねなかった。だが、石井菊次郎ははっきりとこう告げた。

「ええ、大日本帝国の親書は基本的に、裏読みをしても意味が無いものですので」

「……全く……」

 ……そう、ドイツ以外にも漸く東欧協定の真相が知れ渡ることとなったのである。それは、彼らの埒外のものであり、同時にその協定が秘める意味が恐ろしいものであったのだ、彼らがざわつくのも無理のないことであった。

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