第12話:アンシュルス

「復ッ活ッ!!

 アドルフ・ヒトラー復活ッッ!

 アドルフ・ヒトラー復活ッッ!」

 ……という号外は流石に配られなかったものの、アンシュルスに於いてのヒトラーの演説はこれまで以上に切れのあるものであった。何せ、そのオーストリアなまりの演説は実にオーストリア人にとっては心地よい聞こえ方をしたからだ。

 一方で、このオーストリア合併はヒトラーにとって思わぬ副産物を生んだ。それは……。

「何?」

「それがどうやら、本当らしく」

 ヒトラーとある会談を行っている幹部がいた。名をカナリスという。

「……うーむ、今のところは損にはならんが……」

「どうでしょうか」

「……とはいえ、キャスリングを行わずにチェスをさすようなものだ、可能なのかね」

 それは、博奕に近い手法であった。無論、リッベントロップの腕次第というところも、あるにはあったのだが、そもそも話している内容はそこまで単純なものではなかった……。

「不可能ではないと思われます。あの「東欧協定」がそこまでの意図を含むのなら、ですが」

「……成る程、それならば問題ないか。日本大使には、「紅いペンキを塗るのはやめる」と伝えよ」

「ははっ」

 ……「紅いペンキを塗るのはやめる」、事実上の、独ソ不可侵条約の阻止であった。上述の会話は、アンシュルスの翌朝にまるで狙ったかのように届いた日本大使からの手紙であった。その、内容とは。

 ・日独防共協定は防共協定である

 ・東欧協定は日独防共協定を補強するものであり、邪魔をするものではない

 ・もし、万一ドイツとソ連の間で「妙な取り決め」が行われたら、日独防共協定を解除し、即刻東欧救援のために兵を熾すので、よしなに

 ……それは、ドイツ第三帝国への事実上の「脅迫状」であった。文面こそ風流で過激な表現を用いていないものの、それは文意のみを拾えば、紛れもない脅迫状であった。総統はこの文面を読み激怒するかに見えたが、彼とて一廉の政治家である、日本と独逸の軍事力の差は現段階に於いて歴然としていることは誰の目から見ても明らかであった。故に、彼は「独ソ不可侵条約」を廃案とし、同時にある賭けに出ることになる。それは……。

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