第10話:一方欧州では
大東亜方面で本朝と支那が協定を模索しつつある中、ある国家が窮地に追い込まれていた。ドイツ第三帝国である。彼らは支那政府に武器を売りつけたり、あるいは翌年に控えたアンシュルスを行うための準備をしている最中に、本朝の宇垣協定の交渉が開始されたのである。寝耳に水とはまさにこのことであった。そして彼らは漸くもう一つの協定の存在を知ることになる。東欧協定。日独防共協定を結んだその足で結ばれたその東欧諸国への大日本帝国の独立保障とも言える行為は、対外的にはソ連への警戒ということになっていたが、ドイツ第三帝国から見たら日本の背信行為に値するとも言えた。だが、ドイツ第三帝国は抗議を行わなかった。否、行えなかった。何故か。大日本帝国軍が強大であることも関係はしていたが、日独防共協定と東欧協定は連動しており、即ち東欧諸国がソ連から攻撃された際には大日本帝国は背後からソビエト連邦を叩く、という協定である以上、ドイツ第三帝国の歩武を阻止するものではないからだ。少なくとも、文面を素直に読めばそう考えられるものであった。
そして、ドイツ第三帝国は更なる賭けに出ることになる。最終的にはズデーデンを割譲するところまで列強を追い詰めることになった張り子の虎を虎に見せかけた恫喝外交の綱渡りである……。
「ドイツは、外交のみによって国土を広げる気ですな」
ある外交官が外相に尋ねた。それに対して外相は冷厳な声で、
「だから、言ったのだ。ドイツと同盟を組んだ国は負ける、と」
と告げた。そして、更に続く会話は、痛烈な皮肉で満ちていた。
「……今ひとつ、言っている意味が理解しかねますが……」
「よく言うだろう、「弱い犬ほどよく吠える」と」
「……成る程」
「とはいえ、列強が戦争をしたくないのも事実。ここは一つ、五輪を成功させるために一肌脱ぐとしよう」
そして、外相は臣民の士気が低迷しないためにも、外交官としてある国に赴くことにした。その、交渉内容とは。
「と、仰いますと?」
「少し、イギリスに行ってくる」
「……畏まりました、ご随意に」
……再び、動き出した石井菊次郎。松岡洋右はまだ、彼から学ぶことがあることが多数存在することを痛感していた。
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