宝石のような3年間
ミナ
エピソード
春の風がやわらかく吹き、校庭の桜は満開だった。
新しい制服を着た未来は、少しだけ緊張しながらも、期待に胸を膨らませていた。
「未来、こっちだよ!」
クラスの賑やかな声が聞こえる。振り返ると、そこには笑顔で手を振る健人がいた。
彼はクラスのムードメーカーで、誰からも好かれる人気者。スポーツも勉強もできて、何でもそつなくこなす。
そんな彼の存在は、私の毎日を明るく照らしてくれていた。
授業の合間や休み時間、放課後の部活。
健人はいつもみんなの中心にいて、クラスの空気を盛り上げていた。
そんな彼の笑顔を見るだけで、私は胸が熱くなるのを感じていた。
ある日、私はうっかりお弁当を忘れてしまった。
昼休み、教室の隅でひとり落ち込んでいると、健人が自分のおにぎりを半分差し出してくれた。
「これ、食べなよ」
彼の優しさに、胸がぎゅっと締め付けられた。
隣にいるだけで幸せだと思った。
そんな日々が続き、私はいつの間にか、健人のことが気になって仕方なくなっていた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
季節が巡り、未来と健人の関係も少しずつ変わっていった。
中学2年生の秋、体育祭の準備に追われる日々の中で、私は健人の笑顔にますます惹かれていった。
「未来、こっち来て手伝って!」
健人の声に振り返ると、彼はみんなの前でリーダーシップを発揮していた。
誰もが彼の周りに自然と集まってくる。そんな健人の姿に、私は胸が高鳴った。
でも同時に、彼はみんなの人気者すぎて、自分とは違う世界の人だとも感じていた。
「私なんかが近づいていいのかな」
そんな気持ちが、私の中にじわじわと芽生えていった。
ある放課後、二人で帰る道すがら、健人がふと真剣な表情で言った。
「未来ってさ、いつも元気だけど、たまには悩むこともあるよな?」
その言葉に私は驚いた。彼が私のことをそんなふうに見てくれていたなんて、思ってもみなかったから。
「うん、もちろんあるよ」
私は素直に答えた。
その日から、私たちの距離は少しだけ近づいた気がした。
だが、そんな幸せな時間も長くは続かなかった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
冬が近づき、中学3年生になった私たちは、受験や卒業に向けて忙しくなっていった。
健人は変わらず明るくて、クラスのムードメーカーとしてみんなを引っ張っていたけど、私は少しずつ彼との距離を感じていた。
放課後、友達と話す健人の笑顔はまぶしかった。
でも、その隣に私はいなかった。
「未来、高校はどこに行くんだ?」
そんな質問を聞くたびに、答えられない自分がいた。
健人はすでに進路を決めていて、希望校も人気のあるところだった。
私はまだ自信が持てず、迷い続けていた。
「一緒の高校に行けたらいいのに」
そんな思いを抱えながら、私はただ彼の背中を見つめていた。
卒業式の日。
健人は私に言った。
「高校は別々だけど、また会おうな」
その言葉の裏に隠れた寂しさを、私は感じ取っていた。
そして迎えた春。
それぞれ新しい制服を着て、別々の高校へと歩き出した。
私たちの3年間は、確かに宝石のように輝いていた。
でも、その輝きは遠くなっていく。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
高校生活が始まって数か月が過ぎた。
新しい環境に戸惑いながらも、未来は必死に自分の居場所を探していた。
教室の窓から差し込む陽の光は柔らかくて、どこか懐かしい気持ちを呼び起こす。
だけど、心の奥にはどうしても晴れない影があった。
健人のこと。
彼と過ごした日々の記憶は鮮明で、時に胸を締めつける痛みとなって襲いかかってきた。
スマホを開けば、いつもと変わらない彼の投稿。
友達と笑う写真、新しい学校での楽しそうな様子。
それを見てはため息をつき、また画面を閉じる。
「もっと頑張っていたら、違っていたのかもしれない」
未来は自分を責める気持ちを、何度も何度も繰り返した。
それでも、心のどこかでこう思っていた。
「君と出会えたから、私は勝ち組なんだ」
その言葉が、彼女の心を少しだけ救っていた。
ある放課後、学校の帰り道。
未来は駅のホームで、偶然にも健人と再会した。
「久しぶりだな、未来」
彼の声は変わらず温かくて、どこか安心感をもたらした。
「うん、久しぶり」
ぎこちないけれど、未来は笑顔を返した。
話すことは多くはなかったけれど、二人の間に流れる時間は柔らかく穏やかだった。
その瞬間、未来は気づいた。
過去の痛みも、未練も、今の自分の一部なのだと。
そして、もう一歩前に進む勇気を持とうと思った。
「これからも、前を向いて歩いていこう」
未来はそう心の中で誓った。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
春が再び訪れ、季節は巡っていった。
未来は高校生活にもすっかり慣れ、新しい友達や環境に少しずつ心を開いていた。
けれど、あの3年間、健人と過ごした日々は、今でも胸の奥で宝石のように輝いている。
「ありがとう、健人。君に出会えて本当によかった」
未来は静かにそう呟いた。
卒業後のそれぞれの道は違っても、二人の心に刻まれた思い出は永遠に色褪せない。
未来はもう、過去に縛られることなく、自分の未来へと歩き出していた。
その背中には、かけがえのない宝石の光が降り注いでいた。
そして、どんな時も自分らしく輝くことを誓いながら。
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