第2話
「空知らぬ雨 《空から降ったわけではない雨という意から》涙のこと。」
(デジタル大辞泉より)
アイスブルーの髪がドライヤーになびく。
首から下げた鍵のペンダントがかちゃかちゃと音を立てる。
ホテルのベランダでギフトは、朝焼けの光を見つめていた。
「うし、支度終了。」
今回はちゃんとした建物でよかった。そう思いながら、少女は廃墟を後にする。
廃ビルとは言えど、元はホテル。結構過ごせそうな部屋も多かった。
スーツケースを引きながら階段を降りる。車輪部分ががたがたと音を立てる。
エントランスに出て、彼女はあかないはずの自動ドアにずんずん向かっていった。
ぶつかりそうになったその時、その姿は消えた。
「…お腹すいたなあ」
次に彼女が目を開いた時にはまた、別の違うところに来ていた。
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私の名前はギフト。
苗字はない。名前が本当に「ギフト」なのかすらわからない。
ラーメンが好き。醤油豚骨がおいしい。
言葉遣いは、いつか「はしたない」だか「乱雑」だか言われまくってたけど直すのはくそめんどい。
縛られることが嫌い。
あとなんか変な、超能力的なものを持っている。
…いや別に、周りに褒められたわけでも、すごいと言われたこともないが。
逆に変なとこ飛ばされるし、やっても金もらえる訳でもないし正直ただの慈善活動。
そんなこんなで私の中ではこの謎の力は「移動するだけの能力」。しかも不定期だし、行き先もわからない。
だから、ただ私は「移動するだけ」のためにこんな変な力使っている。
いや…未だに、こんなもの与えるなら金くれよって思うね神様。
ということで、交通費削減のために、私は今日も人助け(orその真逆)をしていく。
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「…なんだこれ」
突然だが、少女は困惑していた。
何故なら、彼女の持っている今回の「報酬」は、よくわからないものだったからだ。
あっ……急に「報酬」って言われても意味わかんなくなりますよねすいません。
(byナレーション)
えーと、えっと…
説明しよう!!
彼女の言う「なんかよくわからん移動するだけの能力」とは
通称「プレゼント」、人の感情を糧に物を生み出す能力(で、その「生み出されたもの」=「報酬」)。
使うたびにランダムなターゲットの付近に飛ばされ、ターゲットに接触し、ターゲットやその周辺の人々に感情の起伏を生み出すことができると報酬の生成ができるようになる。(生成中はターゲットの記憶が流れ込んでくる)
報酬は、生成直後は光に包まれており、その光の色で「ターゲットがどんな感情になったか」がわかる。
つまり、人になんかして感情を動かすことができたらものがもらえる、ということ。
ちなみに、ギフトの首から下げてる鍵のペンダントはいわゆるターゲット探知機。
報酬の収納もできる。(便利だね)
で、今回鍵を使って接触して、手助けしたときの報酬が変で、彼女・ギフトは混乱しているのだが…
「さっきのばあちゃんのものではないよな絶対。」
報酬は、ターゲットの性格やその人の経験なども反映されて生成されるのだけれど…
「…だってあの、近所の子供に飴あげてそうなばあちゃんが、銃なんかに関わってるはずあるか?」
…今回の報酬、銃。
信じられます?「娘にプレゼントとして貰ったイヤリングをなくした」っつって困ってたおばあちゃんが銃に関わってるって。
本当に銃なのかと思って引き金引いたらマジモンの銃声と弾丸出たし。
そもそも銃刀法違反だし。
「どうしろってんだ…」
警察に届け出るにしても、入手方法聞いた途端怪しまれる気がする。
嘘ついてもねえ…絶対に向こうに通じないと思うし…
近くの交番をちらりと振り返る。
窓には「行方不明者を探しています」の張り紙があった。
そのチラシによると、「行方不明なのはすべてこの街の子供達」らしかった。
「探して、理由聞いてみるか」
最悪この銃で自衛すればいいし。(馬鹿)
さっきのおばあちゃんの行った方向を探す。
時刻は昼過ぎ。まだ明るいと言うのに、商店街の中には人は一人もいない。
数時間前には人が大勢いたはずなのに。
街はそんなに大きくないはずで、人通りがあるわけでもないのに。
奇妙に思いながら、通りを出た先にある階段を登る。
傍にあったマップからするに、神社があるようだ。
案内板からすぐ歩いたところに、赤い塗装の剥げた鳥居があった。
その先、狛犬の像を通り過ぎたあたりにまた階段があった。
どうやら、本社にたどり着くには階段を登らねばならないらしい。
「最近階段登ってばっかだな」
重い足をあげる。
いつしか日が傾き、暗くなる頃にやっと本殿についた。
子どもたちが肝試しに使いそうな、不気味さの漂う建物だった。
周りを見渡してみるも、生憎例のおばあちゃんはいない。
そろそろ疲れてきて、帰ろうかと思って賽銭箱に背を向けた時。
異音がした。
まるで泣いているかのような音だった。
「ゔぇァ゙ァ゙あがぅ゙あああああああああああああ」
咄嗟に身構える。本能が、後ろを向いてはいけないと警告している。
鳥肌が立つ。
黒板を爪で引っ掻いた、あの気持ち悪さに似た感情が込み上げる。
生理的な身体の痙攣を押さえつけ、本能に背き、ゆっくりと後ろを振り向く。
八本生えた腕は、蜘蛛のようだった。
ぎょろりとした目は、出目金のようだった。
前見たときに着ていた服はびりびりに破けていた。
…どこか雰囲気は似ている。
でももう面影がない。
後ろにいたそれは、まさしく怨霊だった。
「……なんかあった?ばあちゃん」
吐き気を殺しながら言う。
「ゔあああああああああああああああああああああ」
反応はない。声を音としてしか認識していないようだ。
こちらを見ると、直進してくる。
ぶつかってこようとする怪異に対して身構えたその時。
――――衝撃はなかった。
怪異はギフトのすぐ右側を通り、風だけが残る。
元はばあちゃんだったその怪異が石畳にひれ伏し、何かを探し始める。
「ない…ナ゙い…もラッダノに゙…ザがじデもラッだのニ゙…」
あ。
ふと思い、怪異に手のひらを向けてみる。
手から溢れ出る光が、怪異を包むごとに赤黒く染まっていく。
黒くなった光から、逆流した記憶が指先に触れる。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
銃は嫌いだ。あの子の頭を撃ち抜くから。
銃は嫌いだ。あの子の心臓から血を溢れさせるから。
銃は嫌いだ。あの子を痛がらせるから。
銃は嫌いだ。最後まで抗えなかったから。
私はいつもそうだった。
17であの子が生まれてからも、誰かの役に立つこと何一つできずにいた。
あの子の父親は、いつも酔っていた。
酒に、自分に。
でも、いつかは愛してくれるかもしれないと縋ったから。
いつかは幸せな生活に戻ると信じてしまっていたから。
あの人が賭けが上手くいかずに苛ついていたあの夜に、偶然拾ってしまったから。
あの子の父親は、些細なことですぐ自暴自棄になっていたから。
私が帰ったその時は、もうすでにあの子は死んでいた。
実の父親に、頭と胸を銃で撃たれていた。
あと2ヶ月生きていれば、10歳になれたのに。
いつだっただろうかあの子は、私の誕生日にビーズのイヤリングをくれた。
まだ小さいあの子が、新聞配達を手伝って得たお金で買ったものだった。
あの子が死んでしまったのは、私があの子からイヤリングをもらった夜の、ちょうど1年後だった。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
「………」
…彼女はトラウマを抱えていたんだろう。
負の感情が溢れ出し、こんな姿になって凶暴化してしまった。
だけど――――
交番に貼ってあった張り紙によれば、行方不明者はみんな8〜11歳だろう。
おそらくこの怪異は、自分の娘と同じ位の年齢の子供を襲っていたのだろう。
自分の子供を見たい、と願って。
騙しやすいように、人が良さそうなお婆さんの仮面を被って。
きっとこの怪異にとって銃は、見たくもない、思い出したくもない存在なんだろう。
しかし、暴走を止めるには恐怖が必要だろうから。
だから――――
引き金を引く。
今日で2回目の銃声が鳴り響く。
「はあ…気分わりい…」
手のひらに握られた報酬は、緑色のビーズのイヤリングだった。
ギフトはそれを、後ろに向かって投げた。
「…返すよ」
…返事はなかったが、幼い子供の笑い声が聞こえた気がした。
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第三話です。
なんかだんだん文字量が増えてきました。
前のあとがきで「主人公についてはいつか書く」っつってんですが、
その「いつか」が早くなりすぎました。
なんかごめんなさい…(?)
では〜
追伸 いつもありがとうございます!
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