ー1章ー 17話 「村を築く、その第一歩」

あれから数日後――。

舞台は再びミズハ村へと戻る。


その日、タケトは村の村長であるガンジのもとを訪れていた。


【タケト】「ガンジさん、改めてよろしくお願いします。これからしばらく、この村にお世話になります」


【ガンジ】「うむ、礼儀正しいのう、歓迎するぞ。助けてくれた恩人に、礼は尽くさねばな」


ドラゴンの騒動が収まったとはいえ、村はまだ混乱のさなかだった。

氾濫した水は少しずつ引いてきてはいたが、地面はぬかるみ、そこかしこで靴が泥に沈む音が響いていた。


【タケト】「やはりこれは……。この状態で家を建てても、すぐに土台が腐ってしまいそうですね」


【ガンジ】「むぅ……それが悩みの種でのう。どうするべきか、わしも考えあぐねておる」


タケトはふと視線を外し、遠くに転がる岩を見やった。

岩肌が陽に照らされ、ほんのりと湯気を立てている。


【タケト】(そういえば、地球でも湿地に家を建てるときは高床式だったな……。床下に風が通るようにして、湿気を逃していたっけ)


【タケト】「……ガンジさん、一つ提案なんですが、このあたりにある岩を使って高台を作ってはどうでしょう?

その上に家を建てるのですが、地面と家の間に風が通る隙間を作って通気性を良くします。

そうすれば、地面の湿気から家を守れますし、今回のような災害からも家を守れます」


【ガンジ】「ほう……なるほどのう!確かに。ただ水を抜いて家を建てても、同じことが起こればまたすべてを失ってしまうからのう」


天気予報など存在しないこの世界では、予測も準備も自力で行うしかない。


【タケト】「しばらく晴れが続いていますし、今のうちに水を掻き出して、土地を乾かす作業に集中するのが得策だと思います。

家の修復はその後で。野宿のような生活が続いてしまいますが、1日も早い復興のためにも」


【ガンジ】「ふむ……住む場所がなければ畑どころではないしな。よし、村の皆にも話してみるとしよう」


その日のうちに村人が集められ、タケトはガンジに話した案を話し始めた。


【タケト】「よそ者の俺が偉そうに言えた義理じゃないが、川の氾濫なんて大雨が降っただけでも起こり得るんだ。

まして、ミズハ村は川と近い上に高さがないという状態だ。

家がなくなってしまって悲しいだろうが、今後同じことがあっても次は大丈夫なようにするべきだと思うんだ」


タケトは皆の気持ちを分かった上で、提案した。

村人にとって辛い選択なのかもしれないが、未来の村のために……そんな思いだった。


【村人A】「俺は壊れた家を何とかできないか、ずっと毎日作業してた……けど……。柱が根元から折れてて、もうダメみたいだった」


【村人B】「私は家が水浸しで、もう住めなくなった。……だから、その案に乗るわ! もう、こんな思いしたくないもの!」


【村人C】「……あぁ、そうだな。みんな家をなくしちまったんだ。どうせ家がないなら、今度はなくならないようにしてやろうじゃないか!」


【村人A】「そうだよな、ずっと壊れた家にしがみついたって、仕方ないしな!」


村人たちの心が決まった。

とにかく、もう二度と家を失いたくない。

だから今は、できる最善の案に賭けてみようと。


【タケト】「ありがとう!みんな、感謝するよ!」


【ガンジ】「何を言っておる。感謝しているのはワシらのほうじゃ。ありがとう」


翌日…………

タケトは、各家の代表者一人と家の基礎部分の測量に取り掛かった。

そして他の村人は、水の掻き出しなど土地を乾かす作業に専念してもらった。


地面の状態を確認しつつ、以前の家の大きさや柱の位置を、記憶や痕跡から割り出していく。

メモを取りながら、慎重に作業を進めていった。


【タケト】「ここが玄関だったんですね……この辺りから少し奥に柱があったのか。メモしておきます」


【村人A】「こうしてちゃんと測ると、家って結構大きかったんだなぁ……」


【タケト】「そうですね、1日も早く元の家に住めるようにがんばりましょう!」


【村人A】「ああ!よろしく頼む!」


こうして、すべての家の測量を進めていった。


測量が終わると、タケトは家の解体許可を各家族に取って回った。

中にはためらう者もいたが、「次こそ家を守るため」の言葉に、皆が静かに頷いた。


【タケト】「それじゃ、解体を始めましょう。壊すっていうより、未来のために“組み直す”って気持ちで」


解体作業は、タケトとその家の人たちで行った。

数日がかりになったが、無事終わらせることができた。


壊れた家の柱や板は、丁寧に運び出され、それぞれの家の前にまとめて置かれていった。


【村人B】「この柱、見覚えある……。俺が建てたときに、真っ先に立てたやつだ」


【タケト】「大丈夫、今度もそれをちゃんと活かします」


瓦礫は整理され、村は少しずつ整い始めていた。


タケトは額の汗をぬぐいながら、静かに空を仰いだ。

まだまだ問題は山積みだが、彼の目は確かに前を見ていた。


――復興に向けて、少しずつだが確実に動き出していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る