ー1章ー 15話 「失われた森に、再生の火を」

翌朝。

 昨日の遠吠えが嘘だったように、トリア村には静けさが戻っていた。

 静かすぎて逆に「死んでないよな……?」と森の様子を見に行きたくなるほどだった。


【リュウジ】「さてと、下見に行きますかね……」


 俺はスライムたちの出動準備をする前に、

 “再生すべき場所”をちゃんと見ておこうと思った。



---


 森に入ると、昨日と同じようにクラウガとリュナが距離を置いて座っていた。

 こっちに気づいた2頭は、昨日よりほんの少しだけ穏やかな目をしていた。


【クラウガ】「来たか、人間。今日はうるさくはしていないぞ」


【リュナ】「約束は守るわ。でも、まだ安心はしていないわよ。

 この森が、本当に蘇るなんて……まだ信じられない」


【リュウジ】「まあまあ、今は信じてなくてもいい。

 でも、再生するためには“どこ”を戻せばいいのか、ちゃんと見させてくれ。昨夜は暗かったからな」


 2頭は一瞬だけ目を合わせて、静かに頷いた。



---


 そして、俺たちは森の奥へと進んでいった。

 途中まではスライムたちが活動して再生されていたが、ある境目を超えると、空気がガラッと変わった。


 そこは──

 乾ききった土と、むき出しの岩。

 木の幹は黒く枯れ、地面はひび割れ、生命の気配が一切なかった。

 吹き抜ける風が音を立てるだけの、死んだ空間。


 でも、不思議と“何かが息づいていた気配”が残っていた。


そして更に辺りを見渡すと…


【リュウジ】(ん?なんだあの大きな窪みは……。池があったのか?)


もしそうなら、森に住む魔物や動物にとって理想的な環境だったはず。

そう思ったが、今は森の再生が優先だ。

ひとまず今後の課題として覚えておくことにした。


【リュナ】「ここが、私たちの群れの居場所だった。

 夜は月がよく見えて、子どもたちはよく月に向かって遠吠えをしていたわ」


【クラウガ】「そしてこの東の岩陰の丘は……俺の寝床だった。ひんやりしていて静かだったからな」


 ……どちらも、譲れない理由がある。

 どちらも、大事な思い出を背負っていた。


【リュウジ】「なるほどな……そりゃ、争いにもなるわけだ」


 その言葉に、クラウガもリュナも言葉を返さなかった。


---


【リュウジ】(人間だって、帰る場所がなくなるのはつらい。魔物も、それは同じだ。……いや、むしろ、もっと切実かもしれない)


 俺はそう思いながら、静かに手を握った。


【リュウジ】「よし、分かった。ここを目標に森を再生していく。

 少しかかるかもしれないけど、必ず“住める森”にするから」


【リュナ】「……本当に、そんなことが?」


【クラウガ】「言うは易し、だ。だが……試す価値はあるな」


 信じ切ってるわけじゃない。

でも、完全に疑ってるわけでもない。

そんな中間の空気だった。


【リュウジ】「ま、見てろよ。俺たちの“ぬちゃぬちゃプロジェクト”がどれだけすごいか──見せてやる」


【クラウガ】「……その名だけは、ちょっとやめてほしい」


【リュナ】「本当に、もうちょっとどうにかならなかったの?」


【リュウジ】「いや、わりと気に入ってる!というか、それ以外表現しようがない!お前らも見ればわかるさ」


あきれたように2頭が首を振る。

でもその背中は、昨日より少しだけ穏やかだった。



---


 村へ戻る帰り道、俺は一人つぶやいた。


【リュウジ】「よし。トリア村・森の再生プロジェクト……始動だな。

 “ぬちゃぬちゃの奇跡”起こしてやるぜ!」

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