ー1章ー 13話 「別れの朝に、厨二が響く」

 朝焼けのトリア村は、少し肌寒い風と静かな空気に包まれていた。

 ……そう、今日はタケトの旅立ちの朝だ。


 俺はまだ少し眠い目をこすりながら、村のはずれにある広場に立っていた。

 手には……そこら辺に落ちていた長い木の棒。


【リュウジ】「……よし、練習するか。どうせなら“それっぽく”構えて……」


 俺は棒を構え、見よう見まねで槍を扱うように振る。

ただ、完全に自己流だ。

俺にそんな武術経験があるわけでもない。

しかし!俺には夢があった…。

幼い頃テレビで見たあの波動……または宇宙を感じる事で繰り出されるアレを……。

いつかは出せると信じて練習した幼き日々を……。


【リュウジ】「ドラゴンファングスピアー!!」


 ──叫んだ。思いきり。


 朝の静寂をぶち破る俺の声は、トリア村中に響いた……と思う。


 その時、背後からひとつの低い声が飛んでくる。


【タケト】「……おい、リュウジ」


【リュウジ】「うおぉっ!?タケト!?いつから見てた!?」


【タケト】「……ドラゴンファングスピアーって何?」


【リュウジ】「いや……あの……勢いで」


【タケト】「……お前、もしかして厨二病発症したのか?」


【リュウジ】「ちょっ!?おま……!?」


そこにもう1人の足音が近ずいてくる。


【じいさん】「なんじゃリュウジ、病を患ったとな!?それは心配じゃ…」


【リュウジ】「いや違うからね!?病名じゃないから!なんなら世代の呪いみたいなもんだから!」


【じいさん】「それにおぬし、ドラゴンファンタジーストリップとは何なんじゃ?」


【リュウジ】「いや、もはや意味変わりすぎてるし、何か変態っぽいから忘れて欲しいんですけど!?」


 朝から非常に恥ずかしい空気になってしまった。

 だが、それでもタケトは笑いながら言う。


【タケト】「……いい名前だったぞ」


【リュウジ 】「嘘つけっ!」


【タケト】「……いや………マジで……ププッ」


【リュウジ】「おまっ…!?バカにしてるだろ?」


【タケト】「ちょっとな!あははは!」


 そんな軽口を叩きながら、タケトは荷物を背負い直す。


【タケト】「じゃあ、行ってくる。ミズハ村、待ってるだろうからな」


【リュウジ】「ああ。タケト、気をつけてな。色々大変だろうけど、俺もたまには顔出すからさ!」


【タケト】「任せろ。このハンマーで必ずミズハ村を復活させてみせる。トリア村みたいにな!」


【村長】「では、タケト。これを持っていくがよい。トリア村の誇る干しイモじゃ!」


見るからに重そうな袋をタケトに手渡す。


【タケト】「うっ……これは重い。だが、ありがたい……!」


 タケトは干しイモの束が入った袋を荷に追加し、よろめきながらも前を向く。


【タケト】「じゃあな、リュウジ。また会おうぜ。近いうちに!」


【リュウジ】「ああ。またな、相棒!」


 タケトが背を向けて歩き出す。

 その背中に、朝日が差していた。


 その姿を見送った俺は──もう一度、さっきの棒を手に取った。


【リュウジ】「……厨二病!?何をおっしゃる…ここは異世界だぞ!?幼き頃に夢見たアレが繰り出される日もそう遠くはないのだよ……(たぶん)」


 そう言って、もう一度だけ構える。


【リュウジ】「──ドラゴンファングスピアーッ!!」


 空振りだった。

 棒の先っぽが地面に引っかかって、思いきり転んだ。


【リュウジ】「いってぇぇ……ッ!!やっぱり棒じゃダメか……」


 そんな朝だった。

 少し寂しいけど、どこか温かい──新たな一歩の、朝だった。

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