ー1章ー 3話「敵か味方か?話すスライムと村の決断」




あれから俺は、女王スライムと共に村へ向かった。

といっても、さすがに村の中にいきなりスライムを連れて入れば騒ぎになる。

なので、女王スライムには村の外で待機してもらい、俺だけが村に戻った。


【リュウジ】「じいさん、ちょっと来てくれないか。話したいことがあるんだ」


じいさんは不思議そうな顔をしたが、俺の真剣な表情を見て、頷いてくれた。


【じいさん】「何じゃ、改まって」


【リュウジ】「実は……村の外に“話せるスライム”がいる。敵意はなくて、むしろ……助けたいと言ってくれてるんだ」


最初は当然信じてもらえなかった。

スライムが話す? しかも協力したい?

その反応はもっともだ。


【リュウジ】「直接会って話してみてくれ。絶対、敵じゃない」


俺の押しに負けたのか、じいさんは少し迷った後、ゆっくりと頷いた。


女王スライムとじいさんが対面する。

緊張が走る。

だが、女王スライムは静かに、落ち着いた口調で話し始めた。


【女王スライム】「まずは、謝罪をさせてください。この地を荒らしてしまったのは、私たち魔物の責任です」


【じいさん】「……理由を、聞いてもいいかの?」


【女王スライム】「はい。実は、私たちは元々この地のものではありません。

王都近郊にいた魔物たちが人間の手によって外へ追いやられ、行き場を失ったのです。

食べ物を求め、草木を求めて流れ着いたのがこの土地でした」


【じいさん】「なるほど……それで草木を食い尽くした、というわけか」


【女王スライム】「ええ。その結果、土地が枯れてしまったことは、私たちも本意ではありません。

せめてもの償いとして、私たちが体に蓄えることのできる栄養分を土に還元したいと思っています」


女王スライムの言葉に、じいさんは目を細めた。


【じいさん】「そんなことが……できるのか?」


【女王スライム】「はい。ただ、養分は無限ではないので、新たに作る必要があります。そのためには、私たちが食べられる雑草や害虫を提供していただきたいのです。

そうすれば、定期的に栄養を土地に戻すことができます」


【じいさん】「……それは、助かる話じゃのう」


じいさんはしばらく考えてから、ふっと笑った。


【じいさん】「悪意があったわけではないというのは分かった。

それに、わしらもどうにもできなかった土地が、また耕せるかもしれん。ありがたい話じゃよ」


女王スライムが静かに一礼するように身体を揺らした。

俺は、ホッと胸を撫で下ろす。


その後、じいさんは村人を集めて事情を話してくれた。

当然驚く声もあったが、


【村人A】「助け合いならいいじゃないか」


【村人B】「虫を食べてくれるのはありがたい」


と、次第に好意的な空気が広がっていった。


そして今回の問題について、じいさんが静かに口を開いた。


【じいさん】「魔物とはいえ、同じ生き物じゃ。生きていくためには、ワシらと同じように食べていかなきゃならん。

少なからず、まだ納得できてない者もおるじゃろう。

じゃが、今回、旅の者であるこの若者に和解という道を作ってもらったんじゃ。

時間がいずれ、わだかまりを解決してくれるとワシは信じておる。

わがままかもしれんが、今回はわしの顔に免じて受け入れてはくれまいか」


【村人C】「まぁ、村長が言うなら……仕方ないか」


【村人D】「そうね、ここで争っても事態は変わらないし」


村人はすべてを受け入れたわけではなかったが、一定の解決には至ったようだ。


……それにしても。


【リュウジ】「え!? じいさん、村長だったの!?」


【じいさん】「言っておらんかったかのう。わっはっは」


俺とじいさんのかけ合いが、張り詰めていた空気を和らげていく。


【じいさん】「リュウジ、お主がいなかったら、こんな話にはならなかったじゃろうな」


そう言って肩を叩いてくれた村長の手が、なぜか懐かしく、温かく感じた。


【じいさん】「おぬしはこれからどうするつもりじゃ?」


じいさんの問いかけに、ハッとした。


【リュウジ】(そうだ……話の流れで旅人ってことになってるんだった!)


【じいさん】「もしおぬしが急ぎの旅ではないなら、しばらくこの村に住んでみんかの?

何もない村じゃが、住む家くらいならある。それにイモもな」


願ってもない申し出だった。

転生させられてまだ初日。

この世界のことを俺は何も知らない。

もし旅に出るとしても、情報は欲しいしな。


【リュウジ】「いいのか? 見ず知らずの俺がここで暮らしても……」


【じいさん】「なぁに。何もできないが、せめてものお礼じゃよ。気にせんでいい」


こうして俺はこの村の一員として、ここで暮らすことになった。

スライムとの共存。

荒れた土地の再生。

まだ始まったばかりだが、俺の中に少しずつ、希望という芽が育ち始めていた。


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