爆誕☆極楽アナーキー姫伝説!

すぎやま よういち

第1話 追放姫、爆誕す!

“役立たず王女”の華麗な退場

王都ハーモニアの王宮。その最も神聖とされる大広間で、年に一度の王族式典が執り行われていた。歴代の王族たちがその才能と品格を披露し、未来の役割を内外に示す、厳粛な儀式だ。ひんやりとした大理石の床には、細やかな紋様が描かれ、天井からは王室御用達の巨大なシャンデリアが幾重にも吊るされ、煌びやかな光を放っていた。その光は、王族たちの硬質な表情を照らし出し、場に厳かな緊張感を漂わせる。漂うのは、清らかな聖香の匂いと、貴族たちの着飾った香水の混じり合った、息苦しい空気だ。

「これより、第十二王女、リリアーナ殿下による『聖歌による治癒の儀』を執り行います」

厳粛な声が響き渡る中、カグヤの二つ上の姉であるリリアーナが、優雅な所作で舞台の中央に進み出た。彼女は、透き通るような声で聖歌を詠唱し、傷ついた小鳥を一瞬で癒やしてみせた。会場からは、感嘆のため息が漏れる。彼女の動きは寸分の狂いもなく、その魔力は清らかで、いかにも王族らしい。

続いて、第十一王子、アルベールが舞台に上がった。彼は、複雑な数式を宙に描く「魔導兵器の設計図」を披露し、新たな対魔物用ゴーレムの完成を予見させた。精密な魔力制御と、論理的な思考力。まさに、王国の未来を背負うにふさわしい、完璧なプレゼンテーションだった。机には、彼が研究に没頭した証拠のように、分厚い魔導書や設計図が山と積まれていた。

「……つまんねぇの」

最前列で、あくびを噛み殺しながら、カグヤはポツリと呟いた。彼女の隣に座る侍女が、慌てて「カグヤ様!お慎みください!」と囁くが、カグヤは気にも留めない。王宮の堅苦しい食事も、彼女にとっては拷問だったが、この式典もまた、彼女の感性とはまるで相容れないものだった。

そして、ついにカグヤの番が来た。十三番目の王女、カグヤ=ハーモニア。彼女の名前が読み上げられた瞬間、会場にさざ波のようなざわめきが広がった。これまでの「粗相」の数々が、人々の脳裏をよぎる。

「では、カグヤ王女殿下。貴殿の、王族としての役割を示す魔術を披露なさい」

国王の、どこか諦めを含んだ声が響く。カグヤは、ふっと笑みを浮かべ、舞台の中央へ踏み出した。周囲の期待と不安が入り混じった視線が、まるで重い鎖のように彼女に絡みつく。

「へっ。役割、ねぇ。あたしにゃ、そんなかしこまったもんはねぇけどさ」

カグヤは、そう言って、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。その瞳は、まさに嵐の前の静けさだ。

「あんたら、いつも『秩序』だの『調和』だの言いやがるけどさ。そんなもん、ぶっ壊して新しいモン作る方が、よっぽど面白ぇだろ?」

周囲がざわつく。貴族たちの顔に、困惑と侮蔑の色が浮かぶ。

「な、何を言い出すのだ、この娘は!」

「無礼千万!」

だが、カグヤは聞く耳を持たない。彼女は、観客席の最前列に陣取る、顔色の悪い宰相に向かって、人差し指を突きつけた。

「てめぇらの未来に必要なのは論理じゃねぇ!爆発だろうがァァ!!」

「フレア・パンツァー!!」

カグヤが詠唱を終えた瞬間、宰相の豪華なローブの下から、突然、ポンッ!と乾いた音が響いた。そして、煙と共に、彼の豪華な絹のパンツが、見事に爆破されて消し飛んだ。白い煙が立ち上り、会場に焦げ付いた硫黄のような異臭が漂う。

「なっ……ななな、なんという無礼を!!わ、わたくしの……わたくしのズボンが!!」

宰相は、顔を真っ赤にして立ち上がり、慌てて自分の下半身を隠そうとするが、もう手遅れだ。会場は、一瞬の静寂の後、どよめきと悲鳴に包まれた。貴族たちの間からは、失笑と怒号が入り混じった声が上がる。

「わ、わたくしのお気に入りのローブが、この、この破廉恥な……!」

「カグヤ様!一体何を……!」

しかし、カグヤの暴走は止まらない。彼女は、満足げに笑い、さらに次々と爆発系の魔術を放ち始めた。

「次はお前か、堅物じじい!」

「エクスプロード・ウィッグ!!」

隣の伯爵の立派なカツラが、ボフンッ!という音と共に爆発四散。白い粉が舞い、伯爵は素頭を晒して唖然としている。

「あらよっと!」

「ファイアー・スツール!!」

王妃の座っていた豪華な椅子が、ドカン!と音を立てて木っ端微塵に砕け散った。王妃は、間一髪で侍女に支えられ、尻もちをつかずに済んだが、顔は怒りで蒼白になっている。

会場は完全にパニック状態だ。悲鳴と怒号、そして、時折聞こえる爆発音。王宮全体が、カグヤの魔力によって揺れているかのようだ。漂う微かな土の匂いと、焦げ付いた木材の匂いが、混沌を増幅させる。

「カグヤァァァァァッ!!!」

国王の怒声が、大広間に響き渡った。彼の顔は、かつてないほど真っ赤に染まっている。女王(母)は、冷たい目でカグヤを睨みつけた。彼女の目は、まるで感情を持たない氷の彫刻のようだ。

「カグヤ。貴様には、もはや王族としての資格はない。貴様の魔力は制御不能。品格は微塵もなく、秩序を乱すことしかできぬ。このハーモニアにおいて、貴様が担うべき役割など、何一つとして存在しない」

女王の言葉は、氷のように冷たく、カグヤの心臓を直接叩いた。周囲のざわめきが、まるで遠いこだまのように聞こえる。その言葉は、カグヤの存在そのものを否定するものだった。胸の奥が、ぎゅっと締め付けられるような痛みを感じた。しかし、カグヤは、その感情を表に出さない。彼女は、無言で肩をすくめた。その表情には、ほんの少しだけ、寂しさが滲んでいるように見えた。

だが、すぐにその感情は、不敵な笑みに変わった。

「上等じゃん。あたしが外で“自分の役割”探してくるわ。世界ごと巻き込んでな!」


盗賊団の姉御として成長

夜の帳が降りた砂漠は、日中の焼けつくような熱を嘘のように吸い込み、肌を刺すような冷気に包まれていた。微かに漂う土の匂いは、昼間の喧騒とは違う、静かで荒々しい砂漠の息吹を感じさせる。カグヤは、そんな砂漠の真ん中に立つ盗賊団の野営地で、焚き火の番をしていた。赤々と燃える炎が、彼女の顔を照らし、その瞳の奥には、故郷を追われた悲しみと、この場所で生き抜くという強い意志が揺らめいていた。

彼女がこの盗賊団に拾われたのは、ほんの数ヶ月前のことだ。ボロボロの衣服を身につけ、砂漠を彷徨っていたカグヤを見つけたのは、盗賊団の親分であるウーゴだった。ウーゴは、岩のように隆起した筋肉を誇る男で、見た目はまさに「筋肉ダルマ」という表現がぴったりだった。しかし、その豪胆な見た目に反して、彼は意外なほど情に厚く、カグヤを盗賊団の一員として迎え入れてくれた。

「おい、カグヤ!今日の飯はまだか!腹が減って力がでねぇ!」

ウーゴの野太い声が響く。カグヤは焚き火の上の鍋をかき混ぜながら、にやりと笑った。

「心配いらないよ、親分。今日はとっておきの新作さ。カグヤ特製、『黒焦げ風ウニ丼』!」

その言葉に、盗賊たちが一斉にざわめく。

「黒焦げ風だと?また姉御の奇妙な料理か……」

と、誰かが呟いた。バイが顔を青くして駆け寄ってくる。バイは元神官という異色の経歴を持つ下っ端盗賊で、その線の細い見た目とは裏腹に、なぜか「ロリババア萌え」という独特な性癖の持ち主だった。

「姉御!前回の『毒々しい緑のシチュー』で、親分が三日三晩、腹を下したのをお忘れですか!?もう勘弁してください!」

バイが必死に懇願するが、カグヤはどこ吹く風とばかりに鼻を鳴らした。

「うるさいね、バイ。芸術は爆発だ!料理だって同じさ。それに、あのシチューで親分は三日間も断食できたんだ。健康に良いじゃないか」

「そんな健康はごめんです!」

バイの悲鳴が砂漠の夜に響き渡る。しかし、ウーゴは豪快に笑い飛ばした。

「ガハハハハ!良いじゃないか、カグヤ!お前の料理はいつも度肝を抜かれるぜ!今回も期待してるぞ!」

その言葉に、カグヤは満面の笑みを浮かべた。彼女は親分からの信頼を得るために、料理だけでなく、持ち前の交渉術も駆使してきた。時には、他の盗賊団との縄張り争いを言葉巧みに収め、時には、街の商人を相手に破格の条件を引き出す。そのカリスマ性は、盗賊団の誰もが認めるところだった。

食事が終わり、焚き火を囲んで談笑していると、バイが興奮した様子で駆け寄ってきた。

「姉御!とっておきの情報ですぜ!すぐ近くの火山に、とんでもないお宝が眠っているとか!」

カグヤの目がキラリと輝く。

「火山だと?そいつは面白い!ナイス、バイ!熱いところは爆発映えするんだよ!」

その言葉に、盗賊たちがどよめいた。ウーゴは腕を組み、ニヤリと笑う。

「ガハハハ!さすがはカグヤだ!血が騒ぐぜ!」

カグヤは立ち上がり、大きく伸びをした。夜空には満月が浮かび、砂漠の景色を幻想的に照らしている。漂う微かな土の匂いが、新たな冒険の予感を運んできた。彼女の心臓が、高鳴っていた。盗賊団の姉御として、この砂漠で、彼女はさらなる高みを目指すだろう。


カグヤの交渉術は、荒くれ者の集団である盗賊団の中でも抜きん出ていた。ある日のこと、近くの街で商談をまとめるため、カグヤとウーゴ、バイの三人は街へ繰り出した。街は石造りの建物がひしめき合い、乾燥した気候と相まって独特の土の匂いが漂っていた。人々は簡素な機械を使い、例えば水汲みは手動ポンプで行われており、その重労働は彼らの生活の厳しさを物語っていた。魔物の脅威も深刻で、街の至るところに魔物よけの護符が貼られ、人々の表情には疲労の色が濃かった。

商談の相手は、街で一番の商会長を務める男だった。太鼓腹に豪華な衣装をまとった男は、カグヤたちを見るなり、ふんぞり返って言った。

「おや、盗賊のお出ましとは。一体何の用かね?」

ウーゴが今にも殴りかかりそうな勢いで睨みつけるが、カグヤは涼しい顔で前に出た。

「商会長殿、ご機嫌よう。我々は、お宅の商売に協力しに来たのですよ」

カグヤはそう言って、今回の目的を説明した。それは、盗賊団が手に入れた希少な鉱物を、通常の半額で商会長に卸すというものだった。商会長は、カグヤの言葉に半信半疑といった表情を浮かべた。

「ほう?盗賊が商売とはね。信用できるとでも?」

カグヤは、ふっと笑みを浮かべた。

「信用するかどうかは、商会長殿の判断次第。ですが、この鉱物がどれほどの価値を持つか、ご存知のはず。そして、我々が他の誰よりも迅速に、そして確実にそれを手に入れられることも」

彼女の言葉には、有無を言わせぬ迫力があった。商会長は、カグヤの目力に気圧されたように、ごくりと唾を飲み込んだ。カグヤは畳みかけるように続けた。

「それに、最近街を荒らしているグリフォンは、我々が始末しましょう。その代わり、この鉱物の取引を独占させてほしい。どうです?悪い話ではないでしょう?」

商会長の顔に、驚きの色が浮かんだ。グリフォンは街の人々を大いに苦しめており、討伐隊を出しても歯が立たなかったのだ。

「グリフォンを……だと?」

カグヤは自信満々に頷いた。

「ええ。我々盗賊団は、見た目以上に腕が立つ。それに、グリフォンの素材は、そちらで高く買い取ってくださいますよね?」

カグヤの言葉の端々に、挑発的な響きと、ユーモラスかつ辛辣な表現が入り混じっていた。商会長は、カグヤの常識破りの提案に、口をあんぐりと開けていた。その交渉の巧妙さに、バイは内心舌を巻いていた。彼女の頭の中では、新しいスキルの習得と仲間の協力について思考が巡っていた。カグヤの交渉術は、まさに試行錯誤の賜物であり、盗賊団の未来を切り開く術でもあった。

結局、商会長はカグヤの提案を受け入れた。鉱物の取引は成立し、グリフォンの討伐も請け負うことになった。街の人々が魔物によってどれだけ苦しめられているか、その具体的な被害の様子が会話から垣間見え、カグヤの表情は一層引き締まった。

街を後にする道すがら、ウーゴが感嘆の声を上げた。

「さすがだな、カグヤ!あんたの口車にかかれば、どんな頑固な商人でもイチコロだ!」

バイも興奮冷めやらぬ様子で続いた。

「姉御の交渉術はまさに芸術ですぜ!元神官の私でも、姉御の言葉には引き込まれてしまいます!」

カグヤは満足げに笑った。

「あたりまえだろ?言葉は最高の武器なんだ。時には剣よりも鋭く、時には盾よりも強固に、相手の心を操ることができる」

彼女の言葉には、過去の経験が現在の行動にどう影響しているかという、深い洞察が込められていた。盗賊団の一員として、そして姉御として、カグヤは常に成長し続けている。彼女の内面的な葛藤や、故郷を追われた経験が、彼女をより強く、より賢く、そしてより魅力的な存在へと変貌させていた。

「さあ、次はグリフォン退治だ。派手にいこうじゃないか!」

カグヤの言葉に、ウーゴとバイも雄叫びを上げた。夜空には満月が輝き、砂漠の冷たい風が、彼らの新たな冒険の始まりを告げるように吹き抜けていった。


禁呪書との出会い

アスファルトがひび割れ、鉄骨が錆びた廃墟の街、カザリオン。かつての賑わいは影を潜め、風が吹き抜けるたびに、瓦礫の隙間から乾いた土の匂いが立ち上る。カグヤは、この街の探索を始めてから数日が経っていた。彼女の目的は、この地に眠るとされる「古代の遺物」を探し出すことだ。ウーゴとバイは、警戒しながらも彼女の後を追う。廃墟となったビル群の間を縫うように進むと、突然、バイが声を上げた。

「姉御!あそこを見てください!」

バイが指差す先には、かつて図書館だったであろう建物の残骸が、辛うじてその形を留めていた。崩れかけた壁には蔦が絡みつき、窓ガラスはすべて割れている。その入り口からは、微かな土の匂いと共に、埃っぽい空気と、古びた紙の匂いが混じり合った独特の香りが漂ってきた。ウーゴが警戒しながら呟く。

「こんな場所に、一体何があるんだ…?」

カグヤの胸は高鳴った。この場所には、何か特別なものが眠っている。そんな予感が彼女の好奇心を刺激した。

「行こう、二人とも。何か面白いものが見つかるかもしれない」

図書館の内部は、想像以上に荒廃していた。本棚は倒れ、大量の本が床に散乱している。紙魚が這い回り、ネズミの糞がそこかしこに転がっていた。その中で、カグヤの視線は、一際異彩を放つ一冊の本に釘付けになった。それは、まるで漆黒の皮膚を持つかのような表紙に、不気味な文様が刻まれた古書だった。周囲の埃まみれの本とは明らかに違う、禍々しいオーラを放っている。カグヤはゆっくりとそれに近づいた。

「姉御、あれは……」

バイが震える声で呟いた。その本からは、ただならぬ魔力を感じたのだろう。ウーゴも眉間に皺を寄せ、警戒を強めている。カグヤは、本に手を伸ばした。触れると、ひんやりとした感触が指先に伝わる。まるで生きているかのような、奇妙な感覚だ。表紙には、見慣れない文字でこう記されていた。

「禁呪書:アナヒメの心臓」

その禍々しい名前に、カグヤの心は一層掻き立てられた。彼女は本を開いた。すると、中に記された文字が、まるで意思を持っているかのように輝き始めた。

「選ばれし混沌の器よ。我を目覚めさせよ――」

その言葉が、カグヤの脳裏に直接響き渡る。ゾクリと背筋を冷たいものが走った。しかし、彼女の好奇心は、恐怖を凌駕した。カグヤは、さらにページをめくろうとしたその時だった。

空間が歪み始めた。図書館の壁が、天井が、床が、まるで波打つ水面のように揺らぐ。ウーゴとバイが叫び声を上げた。

「姉御!何が起きてるんですか!?」

「これは……まさか、次元崩壊!?」

カグヤの手に握られた「禁呪書」が、より一層強い光を放ち始める。その光は瞬く間に彼女の全身を包み込み、周囲の景色をすべて飲み込んでいった。強烈な光と、耳鳴りのような轟音がカグヤの意識を奪い去る。彼女は、光に包まれながらも、その奥底で、未知の世界への扉が開かれる予感を感じていた。

そして、彼女の意識は、真っ白な光の渦へと消えていった。



異世界アーク・ディストピアへ転移

カグヤが目を開けた時、まず鼻腔をくすぐったのは、焦げ付いた肉の匂いと、鉄錆のような血の匂い、そして微かな土埃の混じった、不快な空気だった。耳元には、金属が打ち合う甲高い音と、爆発の轟音が響いている。ゆっくりと視界が定まると、彼女は自分が瓦礫の山の中にいることに気づいた。周囲には、煙が立ち込め、視界の悪い中でも、辛うじて周囲の状況が理解できた。ここは、どこかの都市のようだ。しかし、その光景はあまりにも荒廃していた。崩れ落ちたビル、ひっくり返った車両、そして、そこかしこに転がる、血に濡れた残骸――。

「くそっ、ここは一体どこだ……?」

カグヤは呻きながら体を起こした。まだ全身が痺れるような感覚がある。ウーゴとバイの姿を探すが見当たらない。その時、すぐ近くで怒号が響いた。

「てめぇら!よくも俺たちのシマを荒らしてくれたな!」

「ふざけるな!そっちこそ、先に手を出したのはどっちだ!」

カグヤの目の前で繰り広げられていたのは、まさにマフィアの抗争だった。二つの勢力が、互いに銃火器や、異世界特有の武器であろう鈍器を振り回し、血みどろの争いを繰り広げている。彼らが身につけている衣服は、汚れ、破れてはいたが、その素材や装飾は、この世界の文化や生活水準を垣間見せる。そして、そこかしこに転がる、故障したであろう奇妙な機械の残骸が、この世界の技術レベルを示唆していた。人々が普段どのような機械を使い、それがどのように生活に影響しているのか、カグヤの脳裏には様々な疑問が浮かび上がった。しかし、それも次の瞬間には吹っ飛ぶことになる。

彼女が落下した場所は、よりによってその抗争の真っ只中だったのだ。


爆裂姐御、爆誕

「くっそ、最悪のタイミングじゃないか!」

カグヤは悪態をつきながら、とっさに身を低くした。しかし、彼女のすぐ近くに、片方のマフィアの一員が振り上げた刃が迫る。反射的に、カグヤは手に力を込めた。体内に、あの「禁呪書」から流れ込んだであろう、得体の知れない力が満ちるのを感じる。

「うるさいね!こっちは寝起きなんだよ!」

彼女は叫びながら、その力を解き放った。

《爆裂(エクスプロージョン)!!》

カグヤの掌から放たれたのは、強烈な光と、全てを飲み込むような轟音だった。それは、まさに天地を揺るがすほどの爆発。マフィアたちは何が起こったのか理解する間もなく、その衝撃波に吹き飛ばされる。肉塊と瓦礫が宙を舞い、瞬く間に、抗争の場は静寂に包まれた。焦げ付いた匂いが一層強くなり、土の匂いと混じり合う。

煙が晴れると、そこにはクレーターのように抉られた地面と、意識を失って倒れるマフィアたちの姿があった。カグヤは、ふう、と息を吐いた。

「ったく、派手にやりすぎたか?」

その時、瓦礫の陰から、恐る恐る数人の男女が姿を現した。彼らはこの都市の住民なのだろう、皆、痩せ細り、その顔には飢えと疲労の色が深く刻まれている。彼らは、カグヤと、その背後に広がる爆発の痕跡を交互に見て、目を見開いた。

「な、なんて力だ……」

「ま、まさか……救世主様か!?」

住民の一人が、震える声で呟いた。その言葉に、他の住民たちもざわめき始める。彼らの目は、恐怖と同時に、希望の光を宿していた。この都市は、長年にわたるマフィアの抗争と、魔物の脅威に苦しめられてきたのだ。彼らは、カグヤの起こした爆発を、天からの恵み、あるいは新たな秩序の到来と解釈したようだった。

その中に、抗争に巻き込まれていなかった、マフィアの生き残りのような男が、血を吐きながら這い出てきた。彼はカグヤを見上げ、その目に狂信的な光を宿した。

「姐御ォ!あの爆発……美しかったス!!」

男は、全身から血を流しながらも、崇めるようにカグヤに膝をついた。その言葉に、カグヤは呆れたような、しかしどこか満足げな笑みを浮かべた。

「うん。アタシ、ここ気に入ったかも!」

カグヤは、見上げた空に二つの月が浮かんでいることに気づいた。赤と青の、奇妙な光。この荒廃した都市「アーク・ディストピア」で、彼女は新たな居場所を見つける予感がした。彼女の心臓が、高鳴っていた。これは、始まりだ。

よっしゃ、アーク・ディストピア!今度はアタシが、このクソ世界の秩序ってやつを、逆にしつけてやる!

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