斜巻雲(しゃけいうん)
チョコしぐれ
斜巻雲(しゃけいうん)って知ってますか?
自己紹介が遅れました。
私は、日本異常気象現象観測機構、通称JAMPOで研究員を務めている如月駿と申します。
“異常気象”という言葉を聞くと、台風の大型化や熱波、ゲリラ豪雨などを思い浮かべるかもしれませんが、我々が扱うのはそれとは少し違います。
“自然に擬態した、何かおかしなもの”。
“気象のふりをしているけれど、明らかに何かが違う現象”。
そのひとつが、**
■ 斜巻雲とは何か?
分類上は巻雲、つまりすじ雲の一種と考えられてきました。
しかし、斜巻雲には明確な違いがあります。
雲が水平ではなく、斜め45度で空を横切るように現れる
雲の軸が螺旋状にねじれている
出現時、気温・風向・音波の異常が観測される
目撃者の一部が、**“空から声がする”**と証言する
ここまでは“よくある都市伝説”のように聞こえるかもしれません。
けれども、私たちJAMPOは実際にこの雲を、8回観測しています。
■ メカニズム:斜巻雲が生まれる条件
私が所属する第3観測班では、以下の要因を斜巻雲の発生条件と仮定しています。
地磁気の急激な低下(平均7〜11%)
ストラトスフィア層における気圧の“歪み”
周辺に存在する未解明の“空間共鳴現象”
これらが重なると、地上と成層圏の間に“ねじれた管状のエネルギーフィールド”が生じます。
その中を通じて、空気中の氷晶がらせん状に引き伸ばされ、結果として斜巻雲のような形が生まれる……と私たちは考えています。
ただし、それだけではありません。
この雲の真の異常性は、物理では説明できない現象にあります。
■ 私が見た“異常”
2025年6月19日、佐賀県某市にある無人集落跡で、私たちは第7回目の斜巻雲を観測しました。
雲の出現と同時に、以下のような異変が発生しました。
コンパスが正反対の方角を指す
録音した空の音に、“自分の名前”が繰り返されていた
現地で撮影された全ての写真から、人間の影が消える
その後、観測員のひとりが“空の中に入った”まま、戻ってこない
それらの現象はすべて、“雲の消失”と同時に終了します。
あたかも何事もなかったかのように。
けれど、失われた人間の記録だけが、データベースに残り続けるのです。
■ 観測員の最期(田村 涼)
第6回観測時、先行して現地入りしていた研究員・田村涼は、観測ノートにこう記していました。
「あの雲は空に貼られた皮膜だ。
雲じゃない。あれは**見る者を選ぶ“窓”**なんだ。
でも、誰も気づかない。なぜなら──あの空は、最初から“こちらを見ていた”からだ。」
田村の行方は、今でも分かっていません。
GPSは断続的に“空中30m”を指し続けています。
その地点には建物も、崖も、何もない。ただ空があるだけです。
■ メモを読んでいる、あなたへ
なぜこの記録を公開するのか──と、上層部には止められました。
けれど、もう限界です。
私は、先ほどから空の写真に私の顔が映らなくなっていることに気づいています。
影も、ありません。
録音したメモからは、**“誰かの声で私の文章が読み上げられている”**のが聞こえました。
でもそれは私じゃない。もっと深い、低く、空気の奥から響くような声でした。
斜巻雲は、ただの気象現象ではありません。
それは、空の記憶装置です。
目撃者を取り込み、声を記録し、影を剥がし、すべてを「見た」という事実に書き換える。
もし、あなたの空にも斜めの雲が浮かんでいたら──
それはもう、あなたを見ているということです。
【JAMPO 注意事項:機密文書 No.872-A】
斜巻雲は、必ず北東→南西の方向に傾いて現れる。
見上げてはいけない。
影が消えたら、次に消えるのは声。
最後に残るのは、空の記録だけ。
(この報告は、如月駿の自宅から発見されたノートPCに残された音声ログを元に再構成されました。彼の姿は現在も確認されておらず、自宅の鏡という鏡すべてに、真っ白な空のような“映らない領域”が残されていたという。)
https://kakuyomu.jp/users/sigure_01/news/16818792437565304377
斜巻雲(しゃけいうん) チョコしぐれ @sigure_01
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