進化ガチャで職業無限強化!引くたび世界最強になってすまない
すぎやま よういち
第1話 ガチャの始まり
導入
王都の一角、埃っぽい路地裏に佇む少年がいた。
名をリオ。彼の日常は、王都の貴族屋敷で雑用をこなし、日銭を稼ぐことだ。
周囲の子供たちが魔力の兆候を見せる中、リオには何もない。ただの無能力者。それが彼の現実だった。彼を包むのは、いつも微かに漂う古紙と石鹸の匂い。その日もまた、彼は使い古された雑巾を手に、黙々と床を拭いていた 。
その平穏は、突如として破られた。大地を揺るがす咆哮が響き渡り、空気が鉛のように重くなる 。
王都の衛兵たちが慌ただしく走り出す中、現れたのは巨大な魔獣だった 。黒く蠢く影が街を覆い、恐怖と混乱が瞬く間に広がる 。リオは、瓦礫と化した建物の陰で震える幼い兄妹を目にした 。かつて自分もそうであったように、無力な子供たちの姿が、彼の胸を締め付ける 。
「逃げろ!」
叫んだ瞬間、魔獣の鋭い爪が振り下ろされる 。その爪は、兄妹ではなく、彼自身を狙っていた 。
リオは無我夢中で、兄妹を突き飛ばす 。次の瞬間、焼けるような痛みが彼の全身を貫いた 。口の中に広がる鉄の味 。身体から力が抜け落ちていく感覚 。意識が遠のく中、彼の脳裏には、久留米の夕暮れの空が走馬灯のように過ぎった 。あの穏やかな日常が、なぜか遠い記憶のように思えた 。
「――助け…たい……」
その微かな願いが、暗闇の中で一筋の光を放つ 。まるで乾いた大地に恵みの雨が降り注ぐかのように、彼の全身に不可思議な力が満ちていく 。
刹那、彼の視界に謎のウィンドウが現れた 。
『【進化ガチャ】スキルを覚醒しました。敵を倒すとEP(エボリューションポイント)を獲得できます』
その文字が、彼の意識を現実に引き戻す 。痛む身体を無理に起こし、目の前の魔獣を見据える 。体中を巡る未知の感覚に、リオは困惑しながらも、ある種の確信を得ていた 。これは、ただの幻ではない 。
初ガチャ:【見習い斥候】獲得
リオは、深い傷を負いながらも、覚醒した「進化ガチャ」の力で魔獣を打ち倒した。その瞬間、彼の身体に熱い奔流が駆け巡り、意識の奥底で新たなメッセージが閃く 。
『EPを獲得しました!』
疲労困憊の体に鞭打ち、リオはガチャのウィンドウを開く 。そこには、先ほど倒した魔獣から得たであろうEPが確かに表示されていた 。
震える指で「ガチャを実行」のボタンを押す 。祈るような気持ちだった。何が出るのか、いや、何が出ればこの状況を打開できるのか 。
ガチャのルーレットが目まぐるしく回り、やがてぴたりと止まる 。彼の目に飛び込んできたのは、期待と不安が入り混じった結果だった 。
『職業【見習い斥候】(★1)を獲得しました!』
「見習い……斥候?」
思わず口に出した言葉は、周囲の喧騒にかき消されそうになるほど微かだった 。戦士や魔導士のような直接的な戦闘職ではない 。だが、この職業が示す可能性は、今のリオにとっては計り知れない価値がある 。彼の脳内に、新たな情報が流れ込んでくる 。
斥候――それは、敵の情報を収集し、地形を把握し、隠密に行動する専門家だ 。
この職業を得たことで、リオの身体には微かな変化が訪れる 。五感が研ぎ澄まされ、今まで気づかなかった風の向きや土の匂いの変化、遠くで響くかすかな足音までが明確に感じ取れるようになった 。
まるで世界がより鮮明になったかのようだ 。彼の内に秘められた「静かに暮らしたい」という願いは、皮肉にもこの斥候という職業によって、さらに多くの情報と向き合うことを強いることになるだろう 。
これは、彼にとっての新たな一歩 。無能力者だった少年が、絶体絶命の危機の中で掴み取った、ささやかな希望の光だった 。彼に与えられたこの力が、この先の道でどのような意味を持つのか、リオはまだ知らない 。ただ、今は、この得たばかりの力をどう使いこなすかを考えるしかなかった 。
弱き者の逃走
「見習い斥候……これか」
リオの口元から漏れた声は、自身でも驚くほど乾いていた 。
職業を得たとはいえ、身体能力が劇的に向上したわけではない 。いや、むしろ、その微かな変化が、絶望的な現実をより際立たせた 。魔獣は、まだそこにいる 。その巨躯が、瓦礫と化した街並みをさらに破壊していく 。
口の中に広がる鉄の味と、身体の奥底から込み上げる疲労感 。逃げ出す子どもたちの悲鳴と、衛兵たちの絶望的な叫び声が混じり合う 。リオは歯を食いしばった 。
弱いが、逃げ足だけは速い。
その言葉が、まるで呪文のように彼の脳裏をよぎる 。見習い斥候として得たのは、直接的な戦闘力ではない 。だが、この研ぎ澄まされた五感と、身体の動きを最適化する感覚は、確かに彼の足を軽くした 。
「ハァ……ハァ……!」
土煙が舞い、視界を遮る 。しかし、リオの耳は、魔獣の地響きのような足音のわずかな変化を捉えていた 。風の音が、彼の頬を撫でるように通り過ぎる 。その風が運ぶ、焦げ付くような硫黄の匂い 。あれは、魔獣が吐き出す炎の残滓か 。
彼は、瓦礫の山を飛び越え、細い路地を駆け抜けた 。足元に転がる石の感触、壁のひんやりとした質感 。全身の感覚を総動員して、魔獣の動きを予測する 。背後で、建物の崩れる轟音が響き渡る 。ゾクリと背筋を冷たいものが走る 。命の危機に瀕した際の恐怖が、彼の心臓を激しく打ち鳴らす 。
だが、その恐怖が、かえって彼の五感をさらに鋭敏にさせた 。
(右だ……!)
直感的に路地を右に曲がる 。間一髪、魔獣の爪が壁を削り、耳元を通り過ぎる「ズシュッ!」という音が響く 。粉塵が舞い上がり、彼の目と鼻を刺激する 。思わず咳き込みそうになるが、呼吸を乱してはならない 。
路地を抜けた先は、ごった返す人々の波だった 。人々が魔獣から逃げ惑い、阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっている 。リオは、その人混みを縫うように駆け抜ける 。まるで水の中を滑る魚のように、彼は人々の間をすり抜け、魔獣の視界から消えることに成功した 。
「やった……のか?」
肺が焼き切れるような痛みを感じながら、彼は建物の陰に身を潜めた 。全身から汗が噴き出し、衣服が肌に張り付く 。口の中はカラカラに乾き、唾液を飲み込むのも辛い 。それでも、彼は生き残った 。絶望的な状況の中、己の新たな力を信じ、がむしゃらに逃げ続けた結果だった 。
身体は鉛のように重いが、心臓はまだ力強く脈打っている 。
しかし、これは一時的な安堵に過ぎない 。この街はまだ、魔獣の脅威に晒されている 。そして、リオの「静かに暮らしたい」という願いは、この混乱の中でますます遠ざかっていくように感じられた 。
ヒロイン登場①:ミリア
死力を尽くして魔獣の猛攻を凌いだリオは、薄汚れた路地裏で息を整えていた 。全身の筋肉が軋み、肺は燃えるように熱い 。魔法剣士という名に相応しい戦い方ができない苛立ちが、彼の胸中で渦巻いていた 。そんな彼の視界の端に、ふわりと舞い落ちる白い光があった 。
「リオ!無事だったの!?」
はっと顔を上げると、そこに立っていたのは、見慣れた顔 。亜麻色の髪をなびかせ、騎士見習いの制服に身を包んだ少女――彼の幼なじみ、
ミリアだった 。
彼女の瞳は、安堵と心配がないまぜになった複雑な感情を湛えていた 。王都の騎士団に憧れ、共に剣の稽古に励んだ、かけがえのない友 。彼女の周りからは、微かに、だが確かに、清らかな聖なる香りが漂ってくる 。
それは、穢れなき癒しの力が発する、独特の匂いだった 。
「ミリア……どうしてここに?」
リオが問いかける間もなく、彼女は彼の元へ駆け寄ると、傷だらけの彼の腕をそっと取った 。彼女の手から、温かい光が放たれ、リオの擦り傷や打撲がみるみるうちに癒されていく 。
「あなたを探していたの!街がこんなことになって、心配で……でも、見ていたわ。あなたが、あの魔獣と戦う姿を!」
ミリアの言葉に、リオは驚きを隠せない 。自分が魔法を使えずに剣だけで戦っていた姿を見られていたのか 。恥ずかしさと、どこか戸惑いが入り混じる 。
「すごいわ、リオ。あんなに、あんなに強くなって……まさか、あなたが【魔法剣士】だったなんて。幼い頃、魔力がないって言われてたのに……」
彼女の声には、心からの驚嘆と、そして深い
喜びが込められていた 。ミリアは、リオが無能力者だったことを知っている数少ない人物だ 。
だからこそ、彼の突然の覚醒と、その類稀なる活躍に、人一倍の感動を覚えていた 。彼女の表情は、まるで自分のことのように喜んでいるように見えた 。その純粋な眼差しが、リオの心に温かいものを灯す 。
彼の「静かに暮らしたい」という願いは、確かに変わらない 。しかし、ミリアのような大切な存在が、彼の変化を心から喜んでくれるのなら、それはそれで悪くないのかもしれない 。
「私は、【聖盾の癒し手】の職業をもらったの。だから、あなたのサポートなら任せて!それに、あなたと一緒なら、どんな困難も乗り越えられるって信じているわ!」
ミリアはそう言って、輝くような笑顔を見せた 。彼女の職業である「聖盾の癒し手」は、防御と回復に特化した、パーティーにとって不可欠な存在だ 。彼女自身も、騎士見習いとして日々研鑽を積んでいたが、まさか回復系の職業を得るとは夢にも思っていなかったのだろう 。
しかし、彼女の瞳には、迷いなど微塵もなく、ただリオと共に戦う決意が宿っていた 。
その瞬間、リオの胸の中に、これまでにない
安堵感が広がった 。一人で戦う孤独な戦いではなかったのだ 。この混乱の中で、確かな絆を持つ幼なじみが、彼の隣に立ってくれている 。
「ミリア……ありがとう」
リオの言葉は短かったが、そこには感謝と、新たな決意が込められていた 。魔法剣士でありながら魔法が使えないという弱点を、ミリアの回復力と防御力が補ってくれるだろう 。二人の視線が交錯する 。それは、かつて共に過ごした久留米の穏やかな日々とは異なる、新たな冒険の始まりを予感させるものだった 。
「さあ、行こう、リオ!私たちが、この街を守るのよ!」
ミリアの力強い言葉に、リオは静かに頷いた 。幼なじみという枠を超え、互いの背中を預け合うコンビとして、彼らの新たな冒険が、今、始まる 。
初10連:【魔法剣士(★3)】獲得(能力不足による魔法発動不可)
魔獣から辛くも逃げ延びたリオは、安全な場所に身を潜めながら、これまでの戦いを振り返っていた 。王都を襲う魔獣の掃討に乗り出したリオとミリアは、ミリアのサポートを得て効率的に魔獣を掃討することができた 。
そして、ついにその時が来た 。ウィンドウに表示されたEPの数値が、再び10連ガチャを回せるほどに溜まっていたのだ 。
「ミリア、見てくれ!」
リオが興奮気味に告げると、ミリアも目を輝かせた 。二人の間に、緊張と期待が満ちる 。
「今度こそ、魔法が来るといいわね!」
ミリアの言葉に、リオは深く頷いた 。彼は意を決して「10連ガチャ」のボタンを押す 。先ほどよりもさらに強い光が弾け、ルーレットが猛スピードで回転を始める 。祈るような気持ちで、二人はその行方を見守った 。
一つ、また一つとアイコンが確定していく 。
『魔法【ファイヤーボール(★1)】を獲得しました!』
『スキル【剣術指南(★2)】を獲得しました!』
『職業【魔導騎士(★4)】を獲得しました!』
次々に表示される結果に、リオとミリアは息をのむ 。
「ファイヤーボール!やったな、リオ!」ミリアが満面の笑みを浮かべる 。
「そして、魔導騎士……!」
リオの身体に、新たな力が奔流のように流れ込んでくる 。それは、先の【魔法剣士】の覚醒を遥かに凌駕する、強烈な感覚だった 。
剣術と魔法、その両方を極める【魔導騎士】 。
彼の持つ剣は、まるで魔力を帯びたかのように輝き、指先からは微かな熱が感じられる 。口の中に広がるのは、焦げ付くような硫黄の匂い 。それは、炎の魔法の力が彼自身の血肉となった証だ 。
同時に、彼の脳裏には、過去の記憶が鮮明に蘇る 。幼い頃、父が彼に言った言葉が、まるでつい昨日のことのように響く 。
「お前がいれば、家は大丈夫だ」
あの時の父の言葉は、彼にとって重圧でもあった 。しかし、今の彼は、その言葉の意味を、違う形で受け止めていた 。この力は、彼自身の力を求めるだけでなく、大切なものを守るための力なのだと 。
だが、魔法【ファイヤーボール】と職業【魔導騎士(★4)】、そして【剣術指南(★2)】という強力なスキルを手に入れたリオは、高揚感に包まれていた 。
だが、その喜びは束の間、新たな現実に直面することになる 。
「ファイヤーボール……!」
手のひらに炎の球を生み出したリオは、その威力を試そうと、近くにいた魔獣へと狙いを定めた 。しかし、彼の魔力が剣に集中していく感覚とは裏腹に、炎の球は瞬時に萎み、消え去ってしまった 。
「な、なんで……?」
ミリアが怪訝な顔でリオを見る 。リオ自身も困惑していた 。魔力は全身に漲っているはずなのに、なぜ魔法が発動しないのか 。彼の脳裏に、かつての無力な自分が重ね合わされる 。その瞬間、彼の脳内に新たなメッセージが閃いた 。
『警告:使用する魔法に対応する魔力が不足しています。』
その文字を見た瞬間、リオは目を見開いた 。
「そうか……!【魔力】の能力が足りないんだ!」
彼はハッとした 。職業【魔法剣士】や【魔導騎士】は、確かに魔力を扱う素養を与えてくれる 。
そして、【高速詠唱】は魔法の発動を速めるスキルだ 。しかし、実際に魔法を行使するために必要な「魔力」という名のステータス自体が、まだ不足しているのだ 。
まるで、高性能なエンジンを積んだ車があっても、燃料が足りなければ走れないのと同じだ 。
口の中に、言いようのない悔しさが広がる 。せっかく魔法が使えるようになったと思ったのに 。目の前にはまだ、王都を蹂躙する魔獣の群れがいる 。
「リオ、どうしたの?」ミリアが心配そうに尋ねる 。
「いや、俺の魔力が……足りないんだ。魔法は、使えるようになったけど、その魔法を使うための【魔力】という能力が、まだ足りてないみたいだ」
リオは苦渋の表情で答える 。この状況で、最も効果的な攻撃手段である魔法が使えないというのは、あまりにも痛手だった 。彼は、再び剣を構え直す 。今は、得たばかりの【剣術指南】と、ミリアとの連携を最大限に活かすしかない 。
「だが、これで分かった。魔力も、ガチャで引き当てて強化しないと、本当に魔法剣士にはなれないってことだ!」
彼の瞳に、新たな決意が宿る 。目の前の魔獣を倒し、EPを稼ぎ、次こそは「魔力」の能力を引き当てる 。そして、真の【魔導騎士】として、この王都を守り抜くのだと 。
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