第30話 勉強会と新たな作戦

「善通寺くんはテスト勉強してる?」

「まぁぼちぼちやってるよ」

「そっかぁ」


琴平舞衣は頬杖をつきながらため息をつく。

今日は土曜日で朝から2人で店番をしているのだがずっとこんな感じなのだ。

多分これはあれだな。彼女がこうなっている理由が何となく分かったので俺はそれを伝える事にする。


「勉強が苦手とか意外だな」

「別に苦手じゃないんですけど!」


もの凄く睨まれてしまった。どうやら勉強が苦手ではなかったようだ。


「まぁ冗談は置いといて」

「全然笑えない冗談はやめて」


場を和ませようと冗談を言ったつもりだったんだけど笑えなかったようだ。やっぱりコミュニケーションって難しい。俺は気を取り直して今度こそちゃんと話を聞く事にした。


「その感じだと勉強会にでも誘われたのか?」

「分かってるなら最初からそう言ってよ!

ほんとなんで毎回変なこと言うかな」


別に変なことを言っているつもりは無いのだが琴平舞衣には不評なようだ。次回からは気をつけるようにしないといけないな。

それにしてもやっぱり原因は勉強会か。


「まぁ勉強会は断り辛いだろうな」

「そうなんだよねぇ。皆でやろうって言われると断りづらいくてさ。それに1人よりも誰かいた方がやる気が出るのもあるし」

「なら今回は参加するしかないんじゃないか」


確かに1人だとサボりたくなるけど誰かいたらそうも言ってられないからな。それに勉強会なら流石にアプローチされる事も無いだろう。


「そうなんだけどさ…」

「どうした?他に何かあるのか?」

「まぁあるっちゃあるんだけど」


勉強会なら問題ないと思ったのだが、どうやら何か懸念があるようだ。俺はそれが何なのか聞いてみたのだが琴平舞衣は曖昧な返事をするだけで中々言おうとせずに何故か俺の方をチラチラ見てくる。あんまり良い話ではなさそうだがそんな顔をされたらほっとく訳にもいかない。


「ちゃんと聞くから話してみろよ」


俺がそう言うと渋々ながら琴平舞衣は何があったのか話し始めた。


「何かテスト前の1週間は毎日勉強会をやるみたいなんだよね」

「まぁテスト勉強なら毎日になるだろうな」

「土日もやるんだよ!しかも場所が大屋冨くん家になりそうだしさ」

「まじかぁ」


思っていたよりも面倒くさそうな話に俺はそれ以上何も言葉が出てこなかった。

休みの日に大屋冨の家ってのは、いくら勉強会だとしても流石にキツイものがあるよな。

なんせ大屋冨の気持ちを知ってるんだから。


「出来れば放課後だけ参加したいんだけど、流石にそれは言い出しづらくてさ」


そう言うと琴平舞衣は机に突っ伏してしまった。何か見ていて気の毒になってきたな。


「バイトって事にすれば良いんじゃないか?」

「私もそう思ったんだけどこの前使ったところだしね。それは最終手段な気がする」


まぁ確かにあんまり使い過ぎるといざという時に使えなくなるだろうしな。それに断り過ぎるのも友人関係を壊しかねない。


「姫華も何で私たちを誘うかな。大屋冨くんと2人でやれば良いのに」

「提案したのは坂出さんなのか?」

「そうなんだよねぇ」


坂出さんが言い出したとか、これはもう完全な巻き込み事故じゃねぇか!ますます気の毒になってくる。


「なんか姫華と大屋冨くんの2人で勉強会をさせる良い方法とかない?」


琴平舞衣は机に突っ伏したまま顔だけをこちらに向けて何かいい案はないかと聞いてくる。


「その2人以外の全員が断るとかしかないんじゃないか?」

「だよねぇ。彩夏には根回し出来るかもしれないけど他の人は無理だしなぁ」

「あの派手なギャルには根回しできるのか?」

「出来るけど。ていうか名前くらい覚えてあげてよ!」


俺が派手なギャルの名前を覚えていない事がバレてしまったが今はそれどころではない。

なるほどギャルには根回しが出来るのか。


「それなら2人きりには出来ないかもしれないけど、琴平さんが土日は参加しないようにする事は出来るかもしれないぞ」

「ほんとに!」


琴平舞衣は勢いよく身体を起こして驚きの声をあげる。どうやらよっぽど行きたくなかったようだ。正直自分で思い付いておきながら、俺はあまりやりたく無かった。でもこの前の事もあるし、今の彼女を見ているとやらない方が後悔しそうだと思ったのだ。


「取り敢えず琴平さんはギャルに坂出さんと大屋冨を2人にしたいって伝えてくれ。断る理由はバイトって事にすれば良いよ」

「それは良いけどバイトを理由にして大丈夫なの?」

「大丈夫だ。少なくともギャルと坂出さんから何か言われる事はないと思う」


大屋冨たちからはどう思われるか知らんがまぁ男子なので別にいいだろう。琴平舞衣が嫌われたくないと思っているのは同性の友人達に対してみたいだしな。


「分かった。じゃあ彩夏にはそう言うね」

「そっちは任せた。それで坂出さんには俺が話をするから」

「え?善通寺くんが話をするの?」


琴平舞衣は驚いているが無理もないだろうな。

今まで特に関わりのない俺がいきなり話をするとか言い出したのだ。


「今回は俺が話をしないとダメなんだよ。あと今からいう事を坂出さんに伝えていいか琴平さんの許可も欲しいというか」

「え?なに?怖いんだけど!姫華に何を話すつもりなの?」


そりゃそうなるよな。琴平舞衣には出来れば言いたくはないんだが勝手に言うわけにもいかないので、俺は恥ずかしさを押し殺して彼女にその内容を伝える。


「坂出さんには俺が琴平さんと2人で勉強したいから協力してくれって言うつもりだ」


ほんと自分でも何を言ってんだと思う。

俺が坂出さんにそう言えば確実に誤解されてしまうだろうから正直やりたくはない。

それでもこの程度で彼女の悩みがなくなるなら良いかと思ったのだから仕方がない。

それに彼女ならこれ位は許してくれるはずだ。


驚きで固まっている琴平舞衣を見ながら俺はそんな事を考えるのだった。


=====================

新作になります。

完結目指して頑張ります。


ブックマーク、いいね、コメントしてもらえると嬉しいです。

宜しくお願いします!

=====================

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る