第18話 俺はもう一度宣言する

「何でそんな不機嫌なんだよ?」

「別に不機嫌じゃないし!」


そう言いながらも唇を尖らしている琴平舞衣を見て俺は思わずため息をついてしまう。

どう見ても明らかに不機嫌じゃねぇか!


昨日オススメのライトノベルを貸す約束をしたので昼休みにこうして非常階段にやって来たのだが何故か琴平舞衣の機嫌が悪いのである。

俺がここに来た時にはすでにこの状態だったのだが、一応会話をしてくれているので俺に対して怒っているとかでは無いようだ。


理由が分からないのでどうしたもんかと考えながら弁当を食べていると琴平舞衣がチラッと見てきた。しかし俺と目が合うとプイッと目を逸らされてしまった。弁当を食べていた手が思わず止まってしまう。

あれ?もしかしたら俺が何かしたのか?しかし心当たりが全くないんだが?まさかの事態に俺が困惑していると


「ごめんね。何か態度悪くて」


ソッポを向いたままの琴平舞衣が俺に謝ってきたのだ。それに俺は少し安心する。


「別にいいよ。そんな時もあるだろうからな。

ただ理由が分からんのは困る。俺が何かしたとしても謝れないからな」

「別に善通寺くんに対して何かある訳じゃないんだけど……」

「じゃあ何があったんだよ?」

「………」


琴平舞衣は黙り込んでしまった。どうやら俺が何かしたのではないようだが俺には言いにくい事のようだ。さっきまでの態度と今の会話で何となく原因が分かった俺は彼女に確かめる事にした。


「朝のことが原因か?」


俺の言葉に分かりやすく肩をゆらす。俺は思わずため息を付きそうになったが何とか我慢した。これ以上ヘソを曲げられても困るからな。それにしてもやっぱりあれが原因だったか。

琴平舞衣が不機嫌だった原因は坂出姫華が俺に挨拶をした事のようだ。


昨日の今日で俺もまさか声をかけられるとは思ってもいなかったが、朝登校すると坂出さんが俺に挨拶をしてきたのだ。まさかの事態に俺は驚いてしまったが坂出さんはいたって普通だったので俺も普通に挨拶を返したのである。


「挨拶しただけだろ?」

「だって昨日まではそんな事してなかったじゃん!」

「それは俺も驚いたけど」

「それに何か仲良さそうだったし」

「どこがだよ!あれのどこが仲良しに見えるんだよ?」

「そんなことない!何かデレデレしてた!」

「してねぇよ!」


琴平舞衣はとんでもない事を言い出した。

俺のどこを見てデレデレしたって言うんだよ!

普通に挨拶を返しただけじゃねぇか!

俺は我慢していたため息をついてしまった。

そんな俺を見て琴平舞衣はバツの悪そうな顔をしている。どうやら自分でもおかしな事を言っているのが分かっているようだ。


「何があったか知らないけど、俺が坂出さんに話しかける事はないから安心しろ」


取り敢えず俺はそんな言葉をかけた。

たぶん俺の知らない所で何かあったんだろう。

いきなり坂出さんが俺に挨拶したことで昨日の事を蒸し返す奴がいたのかもしれない。

坂出さんと大屋冨の事を考えると琴平舞衣にとってははあまり良いものではなかったのかもしれないな。


しかし俺の言葉を聞いても琴平舞衣は唇を尖らせたままだ。どうしたもんかと困っていると俺はふとある事を思い出した。


「俺は琴平さんの協力者だろ?だから琴平さんが困るような事はしないから」


初めてここで話をした時に琴平舞衣に言われた言葉である。


『もうちょっと協力者としての自覚を持って欲しいんだよ!』


あの時も似たような理由で拗ねていた事を思い出した俺は改めて協力者だと伝えたのである。

そんな俺の言葉を聞いた琴平舞衣はようやく尖らしていた唇を元にもどしてくれた。


「そうだよ!善通寺くんは私の協力者なんだからね!」

「そうだな。その通りだ」

「分かってくれれば良いんだよ!」


どうやらもう大丈夫そうだな。いつもの調子に戻ってきたみたいだ。それにしてもこれだけ機嫌が悪くなるとか何があったんだろうな。

気にはなるが怖いので絶対に聞かないけど。


「そういや昨日話してたオススメ持って来てるから」

「ほんと!ありがとう!めっちゃ楽しみだったんだよね!」


これ以上この話題を引っ張るのも良くないと思った俺が話題を変えると、琴平舞衣はそれに食い付いてくれた。


「取り敢えず1巻を何冊か持って来てる。面白かったやつを教えてくれれば続きを貸すよ」

「分かった!早速今日から読むね!」


ご機嫌な彼女を見ていて俺は気になった事を聞いてみた。


「そういや前に買ったやつはもう読んだのか?」

「うん!全部読んだよ!」


琴平舞衣は俺が渡したライトノベルを見ながらあっさりと答えた。全部読むとかなかなかやるじゃないか!


「続きが気になるのがあればそれも貸すから遠慮なく言ってくれ」

「いいの?」

「もちろん。そうやってライトノベルにハマって貰えるのは嬉しいからな」

「やった!ちょうど続きが気になってるのがあったんだよね!ありがとう!」


勢いよく俺の方を見てきた琴平舞衣に思わず笑みがこぼれてしまう。どうやら俺が思っていた以上にハマっているようだ。


「『おさこい』は2巻までなんだよね?」

「だな。3巻が出るはのはもうちょい先だ」

「なら『親友ポジ』は?」

「それなら3巻まで出てたはずだから明日持って来るよ」

「ほんとに?ありがとう!あの2人の掛け合いが好きなんだよね!」

「わかる!そこが人気の作品だしな」


琴平舞衣が選んだ『親友ポジションも楽じゃない!幼馴染みとの恋を応援します』は冴えない主人公が親友であるイケメンとその幼馴染みの恋を応援する話なのだ。だいぶコメディよりなのだが主人公に協力するヒロインとの掛け合いが人気の作品である。


「読んだら感想会しようよ!」

「いいな。なんか楽しそうだ」

「でしょ!絶対やろうね!」


今まで誰かと感想を共有したいとは思ったことはないのだが、楽しそうにしている琴平舞衣を見たら断るの気など起きなかった。

彼女となら感想会も悪くないなんて思ってしまうのだった。




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新作になります。

完結目指して頑張ります。


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