第14話 坂出姫華と初めての会話
教室を出た坂出さんは校舎の端にある屋上に向かう階段の所で立ち止まった。屋上への扉には鍵がかけられていているのでここを登って来る人はいない。そんなに長くない時間であれば話をするのには悪くない場所だ。
「ついて来てくれてありがとう。それと昨日はあなただって気付けなくてごめんなさい」
坂出さんはそう言うと頭を下げる。律儀と言うか真面目というか、そんな事わざわざ謝る必要なんてないのにな。
「気にしないでくれ。殆んど話した事もなかったんだし、俺だって分からなくても仕方ない」
「やっぱり善通寺くんは気付いてたんだ」
「まぁ坂出さんは目立つ方だから」
「そっか。それで昨日のことなんだけど……」
坂出さんはそこで言い淀んでしまった。それを見て俺は予想通りだなと思ったので伝えるべきことをこちらから伝える事にした。
「大丈夫。昨日の事は誰にも言わないから」
俺の言葉を聞いた坂出さんは目を見開いて驚いている。そんな驚かなくてもいんじゃないか?
まぁさっさと終わらせれるならそれでいいか。
「話はそれだけ?」
「そうだけど」
「ならこれで終わりみたいだし俺は行くよ」
「何も聞かないの?」
坂出さんはそう言って立ち去ろうとした俺を呼び止めた。その表情には戸惑いが見てとれる。
まぁいきなり言われても信用はできないか。
ふむ。ちょっとでも信用してもらうために俺はもう少しだけ話をする事にした。
「俺の家は本屋をやってるんだよ。だから誰が何を買ったとかそんな個人情報を漏らす様な事は絶対にしない。そんな事をやったら信用が無くなるからな」
俺はどっかの誰かさんに言ったのと同じ様な事を坂出さんにも伝える。まぁ琴平舞衣には伝えているが例外だと思って許して欲しい。彼女も言いふらしたりはしないだろうしな。俺の話を聞いた坂出さんは少し考え込んだあと
「分かったわ。善通寺くんの事は信じる。それと疑ってごめんなさい」
そう言ってまた頭を下げてるのだった。ほんと真面目すぎない?まぁでも正直に話してもらえるのは悪い気はしない。
「そんな謝らなくてもいいのに。話した事もないやつの事なんか疑って当然だろうし」
「それ自分で言うんだ」
坂出さんはそう言うと控え目に笑った。
その笑顔を見て琴平舞衣とはタイプは違うが彼女もやはり美少女なんだと思いしらされる。
「でも今のでもっと善通寺くんの事は信用出来ると思ったかな」
「なら良かった。それに特に用がなければ俺から話しかける事もないから安心してくれ」
「分かった。時間作ってくれてありがとね」
「こちらこそ信用してくれてありがとう」
お互いに頭を下げた所で俺は大事な事を言い忘れているのに気が付いた。
「それとたぶん教室に戻ったら何があったか聞かれると思うんだよ。本当の事は言えないし、変に邪推されるのも面倒だから話を合わせておいた方が良いと思うんだけど」
坂出さんが俺に声をかけるとかどう考えても不自然だからな。何かしら呼び出した理由を作っておかないと面倒な事になる。それにもし大屋冨が勘違いなんかしたら大問題だ。
「確かにそうかもしれないわね。そうね、私が本屋で財布を忘れて困っていた所を助けてもらったとかはどう?」
「それなら不自然じゃないな。じゃあ何か聞かれたらそれでいこうか」
「決まりね!」
坂出さんはあっと言う間に理由を考えついた。
本屋で会ったのも嘘じゃないしこれなら俺が坂出さんに話しかけるのも不自然じゃない。
「それじゃあ私は教室に戻るけど」
そう言って坂出さんは俺の方を伺ってくる。
何となく言いたい事は分かった。
「一緒に戻ると面倒な事になりそうだし俺は時間をおいてから戻る事にするよ」
「それじゃ私は先に戻るから。付き合ってくれてありがとね」
坂出さんは最後にお礼を言って1人で教室に戻って行った。それを見て俺はようやく一息つくことができたのだ。初めて話したけど少し疲れる人だったな。
気さくに話してはいたが絶妙な距離感であまり踏み込ませないようにしていた気がする。
琴平舞衣たちと話しているのを聞いてた感じだともうちょいポンコツだと思ってたんだがどうやら違ったらしい。
まぁどっちにしろ話す事はもう無いだろうから俺には関係ないけどな。
そんな事を考えているとポケットの中のスマホ
が震えた。しかも1回ではなく複数回である。
たぶん催促か文句のどっちかなんだろうな。
俺はスマホを見ることなくメッセージの送り主が待っているであろ非常階段へ足早に向かうのだった。
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新作になります。
完結目指して頑張ります。
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