第12話 距離感とタイミング

「さて話を聞かせてもらおうかな」


琴平舞衣がちょっと不機嫌そうな顔をして俺に詰め寄ってくる。彼女が言う話とはもちろん昨日の盗み聞きの件なのだが、ここで問い詰められるのは状況的によくない。だから俺は素直にそれを伝える。


「近いのでちょっと離れてくれませんかね?」


そうめっちゃ近いのだ。琴平舞衣は俺と一緒にレジに入っているのだが元々1人用のスペースなので2人では狭すぎて距離が近くなる。

だから俺はそれを伝えたのだが


「そうかな?でもここだと仕方なくない?」


琴平舞衣はあっさりとそれを受け流した。

まじかよ!肩とか触れ合ってるし、何なら顔もめっちゃ近いのに何でそんな平然としてられるんだよ!流石の俺も女子にそれも学年で1番イケてる女子にここまで近づかれると変に意識してしまうというのに!


「それより昨日の事だよ!あんな所で盗み聞きするのはよくないんじゃないかな?」


どうやら意識しているのは俺だけの様で距離が近い事よりも昨日の事の方が重要なようだ。

平然としている琴平舞衣を見ていると意識しているのがバカらしくなってくる。


「もういいよ。それで昨日のことだけど店にいたのは偶然だし何なら先に居たのは俺の方なんだけど?」

「それならメッセージくらい送ってくれても良かったんじゃない?」

「近くの席にいるよってか?何でそんな事しないといけないんだよ」


メッセージを送るなんて考えもしなかった。

というかそれに何の意味があるのか全く分からないんだが?

しかし琴平舞衣は呆れた顔をしている。


「あそこで私たちが秘密の話を始めたらどうするつもりだったの?」

「秘密の話ならカフェでなんかするなよ!」

「そういう事を言ってるんじゃないの!女子には男子に秘密にしたい話があるんだよ!だから近くにいるなら教えて欲しかったの!」


まぁ言いたい事は分かる。そういう見方をすれば俺は盗み聞きしてた事になるんだろうな。

でも秘密にしたい話ならやっぱりカフェなんかでするなよ!そう思ってしまう。しかしそれを言うと堂々巡りになるし、なにより絶対にヘソを曲げるに決まっている。


「悪かったよ。テンパってそこまで頭が回らなかったんだ。次からは気を付けるよ」

「分かればよろしい!ほんと善通寺くんはもう少しデリカシーを学んでよね!」


素直に謝ったのにこれである。やっぱり謝るべきじゃなかったとすら思ってしまった。

しかし当の本人は俺から謝罪の言葉を聞けて満足したのか次の話題に移っていた。


「それにしても何してたの?」

「何ってカフェでお茶してたんだよ」

「休日に1人で?」

「そう1人でだよ」

「よく行くの?」


なんかやたら聞いてくるな?そんなに1人でカフェに行くのが珍しいんだろうか。

まぁイケてる女子からしたら珍しいのかもしれないな。


「まぁ店の手伝いがない時はよく本屋巡りするから休憩がてらカフェとか喫茶店には行くな」

「本屋巡りとかするんだ!なんか楽しそう!」

「店舗毎に特色あるから結構面白いぞ。あと参考にもなるしな」

「参考って?」

「琴平さんは今どこにいる?」

「善通寺くん家の本屋さん。あぁ!そういうことか!」


今のやり取りでちゃんと理解してくれるあたり頭の回転は早いんだよな。ちょっとポンコツ気味なところはあるけども。


「なんか失礼なこと考えてない?」

「か、考えてるわけないだろ」

「ふ〜ん?」


琴平舞衣は俺をジト目で見てくる。こいつ意外と勘が鋭いんだよな。ほんと気をつけないと。

それにしても本屋巡りか。俺はいい機会だと思い昨日の事を伝える事にした。


「そういえば昨日、坂出さんに会ったぞ」

「え?」


俺の言葉を聞いた琴平舞衣は目を見開いて驚いている。まぁそりゃ驚くだろうな。


「まぁ向こうは俺って気付いてなかったみたいだけどな」

「どこであったの?」

「本屋で会った」

「遊びの誘いを断って本屋に行ってたんだ。

何してたんだろ?」


何やら考え込んでしまった。あんまり何を買ってたとか言うのは好きじゃないんだが、このままだと変にこじれそうなので伝えとくか。


「誰かさんと同じ様な事をしてたんだよ」

「どういうこと?」

「弁当の本を買いに来てたみたいだ」

「そうなの!?」


よほど驚いたのか俺の方に勢いよく顔を近づけてきた。俺は思わず仰け反ってしまうがそんな事などお構い無しに琴平舞衣はグイグイくる!


「何か私と彩夏がお弁当の話をした時は興味無さそうだったのに!あとでお弁当の本をこっそり買うとか可愛すぎない?」

「そ、そうだな」

「ほんと言ってくれればよかったのに!そしたら一緒に買いに行くのにね?」

「は、恥ずかしかったんじゃないか?」

「も〜ほんと奥手すぎるんだから!」


興奮しているのかめっちゃ顔を近づけてくる。

あまりにも近すぎて流石の俺も羞恥の限界が来てしまった。


「お、落ち着けって!あと近いから」


俺に言われてようやく顔が近いのに気付いたのか一瞬キョトンとしたあと、みるみる顔が赤くなっていき勢いよく俺から離れた。


「ご、ごめんね」

「いや大丈夫だから」


お互いに恥ずかしくなってしまいそれ以降の会話が続かない。しかも狭いレジスペースにいるのでそこまで距離を取ることが出来ず何とも言えない空気になってしまう。


「まぁ坂出さんも内緒にしたいだろうし、知らないフリをした方がいいんじゃないか?」

「そ、そうだね。それが良いかな?」


俺は何とか空気を変えようとしたのだが、やっぱり会話は続かなかった。ほんとどうするんだよこの空気!そう思い俺はチラッと琴平舞衣の方を見たのだが同じタイミングで向こうも見てきたようで目が合ってしまう。そしてお互いに慌てて顔を逸らすという事が何回か続いていたのだが


「くぅ〜!」


なにやら聞いたことのある音が聞こえた。

まさかと思いながら音のした方を見ると、音の発生源は俯いてプルプルと震えていた。

ほんと何回目だよ腹が鳴るの!

俺は堪えきれず声を出して笑ってしまった。


「もう!何で笑うの!こういう時は聞こえないフリしてって言ったじゃん!」

「いや流石にこれは無理だわ」

「もうほんとにサイアクなんだけど!」


琴平舞衣は机に突っ伏してしまった。

それを見て俺はさらに笑ってしまう。

ほんとタイミング良すぎだろ!


「もう少ししたら手伝い終わるからさ、喫茶店に何か食べにいこうぜ。もちろん俺の奢りで」


俺の言葉を聞いた琴平舞衣は顔だけ俺の方に向けるが不機嫌丸出しである。


「女の子に恥かかせたんだよ?」

「分かってるよ。デザートも付けるから」

「なら許す!」


もはや恒例になった感すらもあるやり取りをすると琴平舞衣は顔を上げる。

そこにはさっきまでの気まずい雰囲気は無くなっていた。


ほんと腹の音に感謝する日が来るとは思わなかったな。



=====================

新作になります。

完結目指して頑張ります。


ブックマーク、いいね、コメントしてもらえると嬉しいです。

宜しくお願いします!

=====================

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る