WAVE.2 Crazy for Love!



これから暑くなる

八月の初頭


四人は夕陽をバックに

クラブハウスで話していた



「ふぅ、今日も走ったね〜!」

「やっぱりココ走るのは楽しいわね」

「まぁ俺はまだ走れるがね〜」

「オレは早く燃料補給したいのだわさ…」

「カザマは燃費わりいからな〜」


「そうだ、改まってお願いがあるんだが……」

「どうしたのセナ?」

「今夜行木峠に行かないか?」

「いいけど…」

「何か理由でもあるのかしら?」

「着いたら話すよ」

「分かったわ」

「てかスイフトちゃん?!」


彼女はすぐ近くの自販機で

ハイオクを飲んでいた


セナが駆け寄る


「なぁスイフトちゃん!今日行木峠行くよな?!」

「ん?あぁ、行くぜ!」

「そう来なくちゃな!」


「でも準備とかどうするのよ?」


マコとブッチャーが

話しながら近づく


「そこは俺のチーム『行木ナイトスターズ』に任せてもらうぜ!」


綺麗な白い歯を見せながら

グッと親指を立てる


「んじゃチームに連絡入れてくるよ、ちょっと待っててくれ」


セナが携帯を取り出し

電話し始める


するとマコがブッチャーに

耳打ちする


「これ、何かありそうじゃない?」


「確かに何かあるわね」


「一応これ、渡しとく」


マコが小型の

マイクセットを渡す


「これなら離れてても聞こえるわ」

「ありがとう、使わせてもらうわね」


「話ついたぜ、これで俺たちが着く頃には準備終わってるはずだ!」


「よっしゃ!早く走りにいこうぜ!」


よほどワクワクしているのか

スイフトのエンジンが唸りまくる


「スイフト…かなり元気ね」

「ったり前だわさ!今夜全力出せそう!」

「無茶しないでね」

「分かってるって!」


「分かったんだか分かってないんだか……」



──────

────

──


〜午後十一時 行木峠〜


四人が着くと

たくさんのギャラリーが

集まっていた


「すごいヒト!」

「ずいぶん集まったわね……」

「ココも走り屋多いのか?」

「あぁ!もちろん!」

「そしてこの俺がここのコースレコード保持者だ!」

「マジかよ?!スゲーじゃん!!」

「そこでだスイフトちゃん!」


セナが改まって立つ


「俺とココのヒルクライムで勝負してくれないか?」


「良いぜ…丁度全力で走りたかった!」


「それで…俺が勝ったら結婚を前提に付き合ってくれ!!」


セナは大声で

頭を下げながら言う


「けけけ、結婚?!」


「アナタが動揺してどうすんのよ、マコ…」


「だ、だって!ここで告白だなんて!」

「それほどセナは自信があるって事でしょ?」


スイフトが口を開く


「なぁ…結婚ってなんだ??」


聞いていたヒト達の足が崩れる

セナのサングラスがズレる


「スイフト…意味分かってる…?」


マコがスイフトに聞いてみる


「オレそういうのよく分かんないんだよな〜」

「えぇー…と、とりあえず受けない方が良いよ!」

「相手のホームコースだから分が悪いよ…」

「それに」

「大丈夫だよ!」

「えっ?」

「要は勝ちゃいいんだろ?」

「絶対に勝ってやるのだわさ!」


「大丈夫かなぁ……」


するとマコにブッチャーが

耳打ちをする


「このレース、わたし達も追いかけるわよ」

「えっ?!大丈夫なの?!」

「大丈夫よ後ろ走ってたら」

「…分かったわ、ちゃんとマイクセット付けてね……」


「レース始めるぞー!」


スイフトとセナが並ぶ


その後ろにブッチャーと

マコが並ぶ


「お前らも走るのか?」


「特等席からの観戦よ、邪魔はしないわ」


「ちゃんと着いてこいよ!」



V8とロータリーの

エンジン音が響き渡る


「カウント始めます!」


「3!」



「2!」



「1!」




「ゴーッ!!」



爆音と共に四人が駆け出す


「ブッチャー!聞こえてる?!」

「えぇ、無線は良好よ!」


「マコはこの勝負どう見る?」


「セナはグリップ走行で隙の無い走りよ、かなり手強いと思う」


「スイフトがどう出るかね…」



(悪いがスイフトちゃんこの高速セクションでちぎらせてもらうぜ!)


セナがぐんぐんスピードを上げる

スイフトも負けじと加速する


(早ぇな……でも抜かせないスピードじゃない!)

(セナに出来てオレに出来ない訳ねぇ!)


低速セクション入り口の

第一ヘアピンが見えてくる


「ここからスイフトが仕掛けるわよ!」


セナがグリップ走行で

ヘアピンを抜けたのに対して

スイフトは溝を走って

駆け抜ける


「スイフトが加速した?!」

「あれは溝を使って走ったのよ」

「わたし達も飛ばすわよ!」


マコとブッチャーも

ヘアピンを駆け抜ける


(ぐっ…この身体だと低速セクションじゃキツイか……!)


(!……分かったぜ、セナ!てめぇの弱点が!)


「スイフトに本当に勝ち目あるの?ブッチャー?」


「えぇ、彼女もそのチャンスを見つけたはず!」



テクニカルなコーナーを

次々と二人はクリアしていく

じわじわとスイフトが追い上げていた


(クソっ!離すどころかもうここまで!地元のメンツと付き合いにかけて負けてられねぇ!!)


「マコ!スイフトが抜きに行くわよ!」


セクション終わりの

長い右コーナーに

二人が侵入する


(ここさえ抜けちまえば勝てる!)


セナが侵入した時

スイフトはその隙を

見逃さなかった


彼女の目が

カッと見開く


セナの僅かに開いたインに

スイフトが身体をねじ込む


(なっ?!オレの膨らんだインから?!)


(低速セクションで分かった…左は完璧だったけど、右は僅かに膨らんでいた……!)


「セナは確かに上手かったわ、でも右コーナーで僅かに膨らみがあった……」


(要するに)

「要するに」



(右コーナーがヘタクソだって事さ!)

「右コーナーがヘタクソだって事よ」


「なんて観察力…」


「暑苦しいクセして、なかなか冷静なのよね」


(あとは駆け抜けるだけ!!)


曲がりくねった

中速セクションを

ドリフトで走り抜ける


「負けてたまるかよぉぉおお!!」


(くっ、足のグリップがヤバい!!)


(でも行くしかねぇだろ!!)


「スイフトちゃんはオレのモンだああああ!!」


しかしシャツに壁の凹凸に

引っかかりビリリと破ける

そしてそのままバランスを崩す


「ぐっ!」


しかしスピンせず再び立て直す


(危ねぇ!!ギリギリだったぜ…だが……)


(こりゃ、もう勝てねぇな……)


無事二人がゴールすると共に

ブッチャー達も走り終える


セナがスイフトに近づき

話しかける


「いい走りだったぜ、流石にやられたよ」


「オレも勝てて満足なのだわさ!」


「次は俺が勝つからな!」


「いーや!次もオレが勝つのだわさ!」

「ははは!なーに言ってんだ、カザマのクセにナマイキだぞ〜!」


スイフトの首に腕をかけ

グリグリと拳を頭に軽くあてる


(そんなお前も好きだぜ、スイフトちゃん)


(そういや新しいアロハシャツ買わなきゃな…また七千円コースか…お気に入りだったんだがなぁ……)


──────

───


〜次の日 クラブコースト〜


「昨日のバトル凄かったわね!」

「俺もまさか抜かれるとは思わなかったぜ…」

「オレも満足のバトルが出来て良かったのだわさ!」


「ねぇ、ちょっと提案なんだけどさ」

「ん?どうしたんだ?」


「私達でさ、チーム作らない?」


「「「チーム?!」」」


「オレは賛成だわさ!」


「俺は…まぁ、他の奴らも兼用してるし…いいぜ」


「ブッチャーは?」


「入るわ」


「決まりね!名前どうする?」


「うーん…名前ねぇ……」


しばらく

四人が黙り込む


するとブッチャーが口を開く


「coast 2 coast」


「良いわねそれ!」

「いっつも俺ら海岸線走ってるからな!」

「早速ステッカー作るのだわさ!」

「色はどうする?!」

「オレンジにしましょ」

「良いねぇ!受付で作ってくるよ、デザインなら任せな!」



こうしてチーム

「coast 2 coast」が

結成された


後にこのチームが

ウィズメック中に名が知れるとは

今は誰も知らない……


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