D_W外伝 Coast to Coast

マリィメイヤー

WAVE.1 インパクトチーター!


コーストランナー


それは峠や公道を

限界まで攻める

速さを求めて走る


「走り屋」


である


これはそのランナーが

繰り広げる

熱き友情の物語である




〜湾岸線 ゴールドコースト〜


一人のキツネの女性が

湾岸線を走っていた


エンジンを吹かしながら

轟音と共に駆けてゆく


すると道端でうずくまっている

青いライダースーツを着た

チーターの女性を見つける


スピードを落とし

彼女に話しかける


「どうかしたの?」

「あっ…実はブーツの底が裂けちゃって…」


ちらりとブーツを見ると

完全に底とブーツが剥がれていた


「アナタ、行き先は?」

「この先のコーストクラブよ、歩いて行くにはちょっと……」

「良かったらおぶっていきましょうか?わたしの目的地もそこだから」

「えっ?!良いんですか?!」

「えぇ、大丈夫よ」

「ありがとうございます!えっと…お名前は…」



「ブッチャー、ブッチャー=オーゲルよ」



「ブッチャーさん……ありがとうございます!私、堂島 マコって言います」


「それじゃあ行きましょ、マコさん」


マコをおぶると

快調に流して走り出す


「アナタひょっとして機械人形?」


「えぇ!92年式よ!」


「通りで!どこのメーカー?」


「バイパー社!」


「バイパー社!良いエンジンね!」


「最近乗せ変えたのよ!」


快調に飛ばして行き

クラブコーストに着く


すると狼の女性と

黒豹の男性が駆け寄って来る


「遅せぇぞブッチャー!」

「なにやってたんだ?」


「てか背中の彼女は?」


「この子ココに来るまでにブーツが壊れちゃったみたいで…」


「初めまして…堂島 マコって言います…お恥ずかしい所を…」


「よくある事だしヘーキだわさ!」


(堂島 マコ?……どこかで聞いたな…)


「オレはスイフト!スイフト=ストリートだわさ!」

「俺は秋山 セナってモンだ、よろしくな!」


「足回りならこの近くに良い店知ってるからそこ行こうぜ、歩いていけるから!」


「それならそこ行きましょ」


歩くと意外にも早く

目的の場所へ着く


看板には

「ガレージハウス コースト」

と書かれていた


「ここだ、俺のいきつけさ!」


ガチャリと扉を開けると

銀色のキツネの男性が出迎える


「おう、いらっしゃい…って…セナ、お前か…」


「よう!フミさん!」

「紹介するよ、藤原 フミさんだ」

「よう、小僧共」


「こんちわ〜!スイフトだ!」

「ブッチャーです」


「で…セナ、今日は何の用だ?」

「あぁ、この子のブーツが壊れちまってよ、今日はブーツ買いに来た」

「ブーツか…同じ奴の方が良いか?」

「なるべくなら……」

「どれ……」


フミがブーツを調べる


「マペットコーポか…同じ値段でこれより良い奴があるぜ…」


「ほら、これだ」


フミが持ってきたものは

明るい黄土色のブーツだった


「グリップよりお前はドリフトのが良いと思ってな…靴底見る限り……」

「あっ、ありがとうございます!」


「それよりブッチャー…つったか?足裏見せろ」

「あとそこのカザマも」


スイフトとブッチャーが

みんなに靴底を見せる


「おいおい…ツルツルじゃねぇか……」

「……やっぱりな…」


「しかも軍用ときたもんだ……」


「ほらよ、コイツに履き替えな」

「同じ型でレース用だ」


「値段は?」


「一万GDだ」


「買ったわ」


「なぁなぁ!オレは?!」


「足の裏ひっぺがして専用のラバーくっ付けて溝を彫る、時間かかるぞ……」

「やってくれ!!」

「しゃーねぇな……手間賃かけて二万GDだ」

「一時間かかるから、残りはクラブで待ってろ」

「おう、頼むぜ!」

「待ってるわね、スイフト」

「ありがとうございました〜」


三人がガレージハウスを

後にする



〜クラブ コースト〜


「とりあえず時間潰しに何やるかだな…」

「まぁ適当に潰せば良いでしょ」

「せっかくですし、何か食べましょうよ」

「お前、機械人形じゃないのか?」

「はい、マペットコーポ製です」

「俺ら機械人形なんだよ、しかも同じバイパー社!」

「通りで……でもブッチャーさん静かですよね?」

「わたしにはネジ巻き機構もあるのよ、今それを使ってるわ」

「…初めて聞きました、エンジンが二つあるなんて……」


すると店員が

注文を取りに来る


「ハイオク二つとカルボナーラとコーヒーお願いします」


「かしこまりました、少々お待ちください」


店員が戻ると

マコが話し始める


「……ブッチャーさん、ひょっとしてこの間ピット=インヒッターとレースしました?」


「えぇ、負けたけどね……」


「良かったら、今夜雨月峠でバトルしてくれませんか?」


「えっ…」


「アナタとならきっと最高のバトルになる、お願いします…」


「……」


「やっと思い出したぜ、お前……」


「お前、『インパクトチーター』の堂島マコだろ?」


「インパクトチーターって?」


「雨月峠最速のランナーだ…あまりにも強烈なドリフトと走りからその名が付いた」


「そうなの?アナタ」


「はい……でも、実は最近走りを楽しめないんです……」

「だから、もう引退しようかなって…」


「マジかよ……いくらなんでも勿体なさ過ぎるぜ…」


「だから……私の最終戦、バトルしてください!」


「どうする?ブッチャー…」



「分かったわ、受けましょう」


「…ありがとう……それじゃあ今夜、雨月峠で」


「えぇ」


「お待たせしました、カルボナーラとコーヒー、それとハイオクです」


「あぁ、ありがとう」


三人の前に料理と

ハイオクが二つ置かれる


「ブッチャー、今から走りに行かなくて大丈夫か?」


「その前にメンテナンスがあるから走れないわね……」


「おいおい、ぶっつけ本番かよ…」


「大丈夫よ、何とかなるわ」


「何とかなると良いんだが……」



するとスイフトが戻ってくる



「おーっす!戻ったぜ!」

「?、どうしたんだ?そんなツラして…」


スイフトがマコの隣に座る


「今日ブッチャーとマコがバトルする事になった…」


「おいマジかよ?!頑張れよブッチャー!!」

「お前は気楽で良いよな……」

(でもそういう所好きだぜ……)


食事が終わると

クラブを出る


「それじゃあ今夜十時、雨月峠で」

「分かったわ」


「じゃあわたしも整備に行ってくるわね」

「あぁ、ドラッグレースの奴らに気をつけてな」


そういうと二人は行ってしまった……


「俺らどうする…?」

「ならさ!一緒にアロン峠攻めようぜ!」

「良いぜ!久しぶりだな〜アロン峠は!」

「オレのマスター達も紹介するのだわさ!」


そういうと二人は

アロン峠へ向かった…



〜ワーカーズ 事務所〜


「ただいま」


「あっ!ブッチャーさんおかえり!」

「おう、帰ったか!整備すんぞー」

「それなんだけど、今日バトルする事になったからそのセッティングお願い」


「バトル?どこでするの?」


「雨月峠よ」


「雨月かぁ……かなりテクニカルなコースだよ」

「そんな難しいのか?」

「うん、特に『C-124』って所のカーブが難所なんだ」

「そこでたくさんの車やランナーがスピンして事故ってるから気をつけてね」


「分かったわ」


ブッチャーが作業台に乗ると

ケイとフィギュアが

メンテナンスを始める


「今回のコース、加速重視で馬力を下げる」

「下げる?!なんでだ?」

「今のブッチャーのスピードと合わないんだ」

「だから少しだけ馬力を下げて、加速重視にする」

「フィギュア、今回の峠は起伏が滑らかだから足回りを重点的にやるよ」

「あぁ、でも足回り変えただけでそこまで変わるのか?」

「変わるよ、それはブッチャー自身も分かってると思う…」

「GX-Rにも勝ってるからね」

「確かに…それも前のエンジンでだからな…」

「たった150馬力ぽっちでその倍以上ある奴らに勝ってるから、そこは彼女の卓越したセンスだと思う」

「ブッチャーの、彼女のそのセンスとスキルに賭ける」

「分かった、俺らも出来る限りやろう」


ガチャガチャと

エンジンと足のサスペンションを

調整する



〜一時間後〜


「……終わった」

「最善は尽くした、起動するぞ」


フィギュアがネジを巻き起動する


「ん……終わったわね」


「どうだ?足の調子は?」


「少し柔らかい、わたし好みね」


「最善は尽くした、勝ってこいよ」

「あとこれも」


フィギュアが

ブッチャーの身体に

ライト付きのハーネスを

取り付ける


「……なにこれ」


「雨月峠はライトが少ないから、これで夜道を照らして」


「分かったわ」


「よし!行ってこい!」


「言われなくても」



そういうと彼女は

事務所を後にした


「ぼくも雨月峠行こうかな……」

「行くか?乗っけてくぜ?」

「それなら行こっか!」

「よし!行こう!」


──────

────


〜深夜十時 雨月峠〜


暗い雨月峠に

まばらに人が集まっていた

所々でレースの

準備をしている


『こちら第一コーナー、車とランナーは無しだ』

『C-124、こっちもナシだ』

『ゴール地点もいけるぜ!』



するとブッチャーが

少し遅れてやってくる


「来たわね、ブッチャー」


「えぇ、来たわ」


「ルールは先行後追い形式、簡単に言えば先行は相手をちぎれば勝ち、後追いは抜かせば勝ちよ」


「今回は私が先行で行かせて貰うわ」


「分かったわ」



〜C-124地点〜


「なぁ、ここでホントに良いのか?セナ〜?」

「あぁ、ココが一番の見どころだ!それだけあってヒトも多いだろ?」


「あれ?スイフト!お前も来てたのか!」

「おっ!フィギュアじゃん!」

「ん?知り合いか?」

「あぁ、ブッチャーの主人だ!」

「こりゃどうも!俺セナって言います」

「どうも〜俺はフィギュア、ワーカーズの社長だ!」

「おぉ、あのワーカーズの!」

「あともう一人来てるんだが…」

「あっ!いたいた!フィギュアーっ」


ケイがフィギュアを見つけ

駆け寄ってくる


「げっ?!お前!クレイジーピンク!!」

「あ、あはは…どうも……」

「ん?ケイ、知ってんのか?」

「前に車でレインバトルしてて……」

「その時に…なんというか……色々と…」

「セナ、何があったんだ?」

「オレのチームの一人がコイツに負けて逆ギレ起こしてケンカになったんだ…」


セナが頭を抱えながら話す


「しかも相手はライオンの男性…なんだが、逆にソイツに返り討ちにしたんだよ……」


「マジかよ…」


「えへへ…若気の至りってやつ……」


ケイが苦笑いで返す


「そろそろレースが始まるぞ!ガードレールの外に出ろーっ!」


「ほ、ほら!早く!ぼくたちも移動しなきゃ!」

「ったく…調子良いんだからよ…」




〜雨月峠 スタート地点〜


「カウント始めるぞ!」


「5!」


「4!」


「3!」


「2!」


「1!」



「ゴーッ!!」



二人が走り出す


爆音を鳴らすブッチャーに対して

キィィィンと音を鳴らしながら

マコが飛び出す


峠にタイヤのスキール音が

鳴り響く


(馬力が若干落ちたか?だが加速のおかげてコーナーの立ち上がりが早い!)


(しかも足回りがかなり安定してる!流石よフィギュア…!)



(よし!今日も乗れてる!このままちぎらせて貰うわ!)


曲がりくねった道を

マコは物凄い勢いで

通過していく


ブッチャーも負けずに

コーナーをクリアしていくが

軽くふらつく


『こちら第一コーナー!前はマコだ!ブッチャーがぴったり張り付いてる!』



(なかなかやるわね!流石ピットとやり合っただけある!)



(くっ!曲がるタイミングが分からない!無謀な挑戦だったか…?)


(アロン峠以外で走る事がこれほどのハンデとは知らなかった……!)


(今はただ相手に『乗せられている』だけ!ジェットコースターと同じ…)


ぎりりと歯を

食いしばる


(今はまだ、耐える!)


急なヘアピンを

二人はドリフトで駆け抜ける


以前としてブッチャーは

マコの後ろに張り付いている


(なぜちぎれない?!今日の私は乗れてるはず!)


(ブーツが変わったから?!……いや違う、そんなハズない!ならどうして…)


テクニカルセクションを

ガードレールギリギリで

駆け抜ける


(マコがいけるなら…わたしだって!)


ガードレールスレスレで

曲がりきる


しかし次のカーブで

スカートが壁を擦る


(危ない…!スカートを擦ったか?!)



(これだけハイペースで走ってるのに、まだ食らいついてくる…!)


(でも次はC-124!わたしのスピードで突っ込んで曲がり切ったランナーはわたし以外に居ない!)


(ここで突き放す!)



「来たぞ!先頭は?!」


「まだマコだ!!後ろにブッチャーが張り付いてる!!」


「二人共すごいスピードで突っ込んでくるぞ!」



(そのスピードで走って来たならもう誤魔化しは効かないわよ!)


(曲がれえっ!!)



猛烈な勢いで二人はドリフトをする


マコは5cm空けて

ドリフトしたのに対して

ブッチャーは理想的なラインで

ドリフトをする


「曲がり切りやがった!」

「やりやがった!」


「いよっし!」

「ぼくたちの狙い通り!!」


「ま、曲がり切った……?!」

「さすがだぜブッチャーっ!そのままいけーっ!」




(嘘でしょ…?C-124は雨月峠最難関…)

(それを一発…しかも理想的なラインで…!!)

(私でも5cm空いたのに!)



(私は……とんでもないバケモノを相手にしてしまった……!)




(よし…リズムが分かってきた!)

(それに相手に隙が見え始めた!)

(今ならいける!!)



次のカーブでマコが

大きく膨らむ


(マズイ!集中力が!!)


ギリギリの所で壁をかわす


(いけない、集中しないと!私は今かなり乗れてる!抜かされる訳にはいかないっ!)




(どうやら立て直した様ね…でもこっちも足回りがヤバい…この一本で決めなきゃ……)


(負ける!!)


ギャリギャリとスキール音を

響かせながら峠を走る


(マズイ、足回りが……この一本で決めなきゃ!)


(負けたくない!)


(あと少しでゴール……!)


するとブッチャーがスピードを下げる


(えっ、どうして……)


(しまった!突っ込み過ぎた……!)


(スピンして逃げないと!)


マコがスピンする

しかしブッチャーは

その隙を逃さなかった


(今だっ!!)


ギリギリでマコをかわし

彼女を抜きさる



「あ、鮮やか……ね」


へたりとマコは

地面にへたり込む


「はぁ……はぁ……」


「もしアナタがスピンしなかったら……わたしは負けてたわ…」

「偶然の勝利よ」


「ううん、運も実力のうちよ」



「今無線が入った!」

「勝者はブッチャー!ブッチャーだーっ!」


周りが大歓声を上げる


「ブッチャーが勝ったーっ!」

「やったぜ!」

「ぼくたちのチューンなら当たり前だよ!」

「本当に勝つとはな……」


〜雨月峠 ゴール地点〜



「ねぇブッチャー…」

「なに?」


「私ね、走ってて思い出したんだ」

「峠を攻めて楽しかった事」

「やっぱり…私辞めたくない……」

「もっと……もっと走りたい!」


「取り消す?引退……」


「取り消すわ、もちろん」



──────

────

──


次の日の正午


「ブッチャー!いる〜?」

「マコ!ずいぶん早いのね」

「走るのが楽しくて…」

「早く行きましょ!」

「はいはい…」


マコと二人で

事務所を出る


「やれやれ……俺たちの仕事が増えそうだな」


「まぁいいんじゃない?ブッチャーさんも楽しそうだしね」


「あぁ、よく笑う様にもなったしな!」


「さて、仕事するか……」



「今年の夏は熱くなりそうだ……」



続く

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