NFT小説
塩肉
第一話 輪廻転チェーン
地球誕生以来、不老不死を叶えることができない大半の生物が採用した方法は、遺伝子に肉体を乗り換えさせ、世代を重ねていくことで「個」ではなく「種」を保つというものだ。
生物の営みが繰り返されるうちに偶然にも人類が誕生し、群れによって文明が築かれ、社会を形成した。その中では淘汰が行われ、生き残った者の間で格差が開く。
富と権力を手中に収めた者が次に欲するのは、決まって不老不死だという。
朽ちることのない身体、親はらからや知己が死に絶えても生き長らえる孤独に耐える精神。どちらも備えられたならば、人がどれだけ進化しようが唯一制御しえなかった「時間」の制約を超越できることだろう。
そして悠久を人類史の傍観者として過ごすことになる。
さて、ここに不老不死を手に入れた者がいる。後天的に備えた希有な特性は、いくら子孫を残そうが受け継がれない。
幼い子供はやがて老い、自分より先に死んでいく。寿命のある人間であれば、遺伝子という語のうちに「遺す」愉しみを得られただろうが、不死者にとっては分け与えた形質が何代にもわたって薄まりゆくのを眺めるほかはない。
長寿のうちに、文明と社会と淘汰と格差がよく作用して、科学がめざましく発展した。
それを見ていた不死者は、技術を用いて自らを模した存在を作りたいという願望を持った。
五感で得たもの全てをレコーディングし、自身のあらゆるムーブをライフログとしてディセントラライズドな分散型ストレージにアップロード。ハイスペックなコンピュータをソーラーパワーで駆動させてエンドレスに演算し、抽出される己のアイデンティティをブロックチェーンへと刻みつける。冗長化でデュアル・デュプレックス構造となったチェーンはスパイラルしながらネットワークを駆け巡り、サスティナブルなデジタルクローンのデベロップメントへと向かう。
AIがボディの用途に耐えうるマテリアルのベストパターンをサジェスチョン。
結果、短期間で物質代謝を繰り返して鮮度を保つ肉体を採用し、限度が来たら遺伝子と同等の情報を持ったチェーンを別の肉体へと託し、古い肉体は廃棄して種として世代を重ねることが最適解、ということになった。
奇しくも、完成した時点で不死者以外の人類は愚かにも死滅してしまっていたため、これを「車輪の再発明」と揶揄する者はいなかった。
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