【母親】子どもを「産み」「育てた」母親は、自分を『創造神』だと錯覚することがある

晋子(しんこ)@思想家・哲学者

子どもは母の身体を通って現れた独立した生命である

母親は、自らが子どもを「産んだ」「育てた」という経験を通じて、知らず知らずのうちに、自分を“創造神”のように錯覚してしまうことがある。


これはごく自然な錯覚でもある。なぜなら事実として、子どもは母の身体から生まれ、母の手で育てられ、母の言葉によって世界を認識する。つまり子どもの最初の世界は、母親そのものなのだ。母親の感情が空気となり、母親の表情が天気となり、母親の言葉が法律となる。そうした時間を長く過ごすうちに、母親自身が「この子の世界は私が与えてきた。私こそが創造者である」と考えてしまうことは、ある意味で当然の帰結なのかもしれない。


だが問題はここからだ。


母親が自分を「神のような存在」だと信じ始めるとき、その母性は容易に“毒”に変質する。

本来、愛とは相手を自由にするものであるべきだが、毒親の愛は、相手を縛るものである。

「あなたのためを思って」「愛しているからこそ」「間違えないように」

こうした言葉の裏には、「私が正しい、私の言うとおりに生きよ」という支配の欲望が潜んでいる。


そして、この支配には「悪意」がない。

むしろ「善意」である。

ここが毒親の恐ろしさであり、不可避性である。


「私はあなたの人生のために尽くしてきた」

「私は人生のすべてを犠牲にしてあなたを育てた」

「あなたが私に感謝しないなんておかしい」


このように、母親の愛はいつしか“恩”となり、“犠牲”となり、“正しさ”として子どもに向けられる。

そしてその“正しさ”に従わなければ、子どもは「恩知らず」「親不孝者」として非難される。


この構図の本質は、「愛」と見せかけた「支配」である。

母親は子どもを無条件に愛していると信じている。だが実際は、「条件付きの愛」になっていることが多い。

「私の言うことを聞くなら可愛い。反発するなら許さない」

「私の理想通りに生きるなら褒める。違う道に進むなら軽蔑する」

このようにして、子どもは母親の“枠組み”の中でしか愛されない存在になってしまう。


さらに厄介なのは、こうした毒親の多くは「自分が毒親だ」という自覚がないという点である。

むしろ「私は一生懸命やってきた」「誰よりもこの子を愛している」「私こそが正しい親だ」と信じ込んでいる。


だから子どもが距離を置こうとすると、母親は怒る。

「なぜ? 私は間違っていない。あなたが私を避けるなんて酷い」

母親にとっては、“神である自分”を否定されるようなものなのだ。

そのため、子どもが自立しようとすると、「裏切り」「非道」と受け取ってしまう。


では、子どもはどうすればいいのか?


まず第一に、子どもは「母親は神ではない」という真実を見抜かなければならない。

たとえどれだけ感謝すべき点があっても、母親は万能の存在ではない。

間違えることもあれば、欲に支配されることもある。

時に、子どもを傷つける存在にもなり得る。


そして第二に、「愛されるために従う」という姿勢を捨てることである。

子どもは“存在しているだけで価値がある”。

母親の期待に応えなくても、反抗しても、自分の人生を歩んでも、それだけで人間としての価値は変わらない。

たとえ母親から嫌われたとしても、自分の人生にとって「自分の選択」が最も尊重されなければならない。


母親にとっても救いがある。


それは、自分が「神ではなかった」と気づいたときだ。

子どもは神の創作品ではなく、母の身体を通って現れた独立した生命である。

自分の所有物ではなく、自分とは異なる運命を歩む存在である。

この事実を受け入れるとき、母親もまた“支配者”から“見守る者”へと変わっていける。


親が神をやめること。

子どもが偶像を壊すこと。

そこに、真の親子関係が生まれる。


毒親とは、「神の仮面をかぶった不安な人間」である。

その仮面を脱ぐことは恐ろしいことかもしれない。

しかし仮面を脱いだあとにしか、ほんとうの親子の関係性、ほんとうの愛は生まれないのだ。

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