第11話 薬草と癒やしの力 -2

数時間後、目的の薬草を発見すると、健一は前世で家庭菜園で培った植物への知識と、創造魔力を用いて薬草を丁寧に採取・加工した。


採取した薬草を細かく刻み、創造魔力で熱した石鍋で煎じる。

独特の香りが立ち込めるが、健一は効果を信じて作業を進めた。

彼の指先は、あたかも熟練の職人のように繊細に動く。


薬草の成分が最大限に引き出されるよう、細心の注意を払った。

煎じている間も、リーアの苦しむ顔が脳裏に焼き付いて離れなかった。


「これで、あとは祈るのみである」

健一の表情は真剣そのものであった。


村人の中には、異邦人である健一を疑う者もいた。

彼らの不安な視線が健一に突き刺さる。


「真に効果があるのか? 訳の分からない薬で、却って悪化したらどうするのだ」

村人の一人が問いかけた。

その声には、疑念と焦りが混じっていた。


「(彼らの不安も当然である。だが、私はこの子を助けたい。)信じて待っていてほしい」

健一は静かな決意を表明した。

彼の目は、リーアの回復への強い願いを宿していた。

彼の言葉には、確かな責任感が込められていた。


◆◇◆


健一が煎じた薬をリーアに飲ませると、しばらくすると、リーアの額の汗が引き、呼吸が落ち着き、次第に熱も下がっていった。

村人たちは固唾を飲んで見守っていたが、リーアの容態が好転するにつれて、安堵のため息が漏れ始めた。


翌朝には、リーアは目を覚まし、弱々しいながらも母親に笑顔を見せた。

その笑顔は、村中に希望の光を灯したのである。


リーアの母親は、健一の手に縋り付いて泣き崩れた。


「健一様、本当にありがとうございます! リーアが…リーアが助かりました!」

彼女の声は、感謝と安堵に震えていた。

その涙は、健一の心に深く響いた。


村人たちは歓喜し、健一の元へ押し寄せた。

長老は深々と頭を下げ、村の若者たちも健一を称える。


「健一殿、感謝しても感謝しきれません! あなたは、この村の命の恩人です!」

長老は心から感謝を述べた。

村人たちの目には、健一への尊敬と親愛の情が満ちていた。

彼らは、健一を真の村の一員として受け入れたのだ。


「いや、私はただ、できることをしたまででだ…」

健一は、照れながらも満面の笑みを浮かべた。


健一は、前世で感じたことのないほどの深い感謝と達成感を覚えた。

それは、完璧な職務を遂行して得た評価とは異なる、純粋な「ありがとう」が、彼の心を温める。


「前世で、私は誰かの命を救うような職務を遂行したことは一度もなかった」

健一は省みた。


「常に数字や書類に向き合い、人との間に障壁を築いていた。あの頃の私は、自身の『正しさ』を振りかざすことで、かえって大切なものを失っていたのかもしれない…」

この瞬間、健一は「真面目すぎた」過去が、決して無意味ではなかったこと、そして、その真面目さが今、新しい形で人々の役に立っていることを実感した。

彼の心は、過去の重荷から完全に解放され、清々しさに満ちていたのである。

彼は、自身の人生が、ようやく正しい方向へと向かい始めたことを確信した。


◆◇◆


健一は村にとって、なくてはならない存在となった。

「森の賢者様」という呼称が定着し、彼の周囲には常に村人が集まるようになる。

彼の知恵と優しさは、村人たちの生活に深く根ざしていった。


健一の心は、リーアの笑顔と共に、さらに大きく癒やされていく。

完璧な自身を求めずとも、不完全なままの自身でも、誰かの役に立ち、感謝される喜び。

それが、彼にとっての真の幸福であった。


「この世界は、私に真の『生きがい』を教えてくれた。私は、もはや過去の自身を責める必要はないのだ」

夜、小屋で休む健一の枕元には、リルルがそっと置いていった、色とりどりの小さな花が飾られていた。

その花々は、健一の心の平穏と、新たな人生の輝きを表しているようであった。


彼は、この穏やかな日々が、永遠に続くことを願った。

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