第5話 自給自足の知恵と小さな成功 -2

リルルが興味深そうに健一の作業を見守っている。


「健一様、何をなさっているのですか?」

リルルは首を傾げた。

その小さな瞳は、健一の作業に釘付けであった。


「これは畑を耕しているのだ。ここに野菜を植えれば、安定した食料が得られる」

健一は優しく説明した。


「やはり、土をいじるのは落ち着くな。ミニトマトも、ここに植えられれば良かったのだが…」

健一は、前世のささやかな趣味が、異世界での生活の基盤を築く喜びへと繋がっていることに気づいた。


「健一様、とても器用でいらっしゃいますね」

リルルは賞賛した。


「わたくしたち精霊は、このようにきちんと場所を整えるのは苦手です」

リルルの素直な言葉が、健一の心を温める。



彼は、この小さな精霊との交流を心から楽しんでいた。

リルルの存在は、彼の孤独感を和らげ、この異世界での生活に彩りを与えていた。





健一が畑を耕していると、森の小道から一台の馬車がやってきた。

若く快活そうな青年「アレン」が行商人であった。

彼は大きな声で健一に話しかけてきた。


「おお、このような森の奥に人が住んでいるとは! これは珍しい。貴殿は旅の者でいらっしゃるか?」

アレンは尋ねた。

彼の声は森に響き渡り、健一の静かな生活に新しい風を吹き込んだ。


「ああ、まあ、そのようなところだ。田中健一という。君は?」

健一は穏やかに答えた。


「私はアレン。この辺りの村々を巡る行商人です。それにしても、貴殿の小屋、妙にきちんとしていますね。この辺りの開拓者とは一味違いますよ」

アレンの言葉に、健一は多少照れ笑いを浮かべた。

彼の几帳面さが、この世界でも注目されることに、多少の驚きを感じていた。


◆◇◆


アレンは健一が製作した釣竿や加工された石鍋に興味を示した。

彼の目は、健一の道具の精巧さに釘付けになっていた。


「へえ、この釣竿、器用な作りですね。木が滑らかに削られています。まさか、ご自身で製作されたのですか?」

アレンは感嘆の声を上げた。

彼の顔には、純粋な好奇心が満ち溢れていた。


「ああ、まあな。多少の工夫で、使いやすくなるであろう?」

健一は創造魔力を軽く用い、目の前の小石を多少整形してみせた。

手のひらから淡い光が放たれ、小石の表面が瞬く間に滑らかになる。


「な、何だ今の光は!?」

アレンは驚愕した。


「それは魔術か!? しかし、このような地味な魔術は、見たことがありませんよ!」

アレンは興奮して身を乗り出した。

その瞳は、健一の持つ未知の力に魅了されているようであった。


「地味な魔力だ。だが、私の手先には馴染む」

健一は静かに答えた。


その言葉には、この力の可能性を秘めた、静かな自信が込められていた。

彼は、この地味な力が、前世で培った自身の器用さと相性が良いことを直感的に理解していた。

この世界で、彼の持つ知識と能力が、新たな価値を生み出すことに喜びを感じていた。


健一はアレンから、この世界の村の様子や特産品、一般的な物々交換の知識などを得た。

アレンは、健一の持つ「精緻な物を製作する技術」に感銘を受け、何か製作してもらえないかと持ちかけた。


「貴殿の製作された物ならば、きっと村でも喜ばれるでしょう。いつか、何か製作してくださいな!」

アレンの言葉は、健一の心にささやかな希望を灯した。

前世では感じることのなかった、純粋な期待の言葉であった。


それは、彼の存在がこの世界で必要とされているという、確かな手応えでもあった。

彼は、この新しい繋がりを大切にしたいと心から願った。

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