第12話 幕間2


──正直、困ってる。


あの人のこと、ちゃんとパパとして見れなかった。

最初に会ったときから、変な感じだった。


どこかぎこちなくて、妙に真面目そうで、でもどこか不器用で。

その“ズレ”が、不思議と心地よかった。


目をそらさずに話すくせに、急に黙ったり、照れたりして。

「営業やってる人なんだな」って思ったのに、

ぜんぜん口がうまいわけじゃなくて。

──むしろ、こっちのペースに巻き込まれてくるタイプ。


ベッドの中でも、そう。

無理に触ろうとしないし、変な要求もなかった。

優しかった。

すごく、ちゃんとしてた。

それが逆に、怖かった。


“ちゃんとしてる人”に優しくされると、

こっちの「ちゃんとしてなさ」が浮き彫りになるから。


私は、お金が目的で。

向こうはきっと……寂しいのか、

それともただ、誰かと一緒にいたかっただけなのか、

理由はよくわからない。


──でも、あれは。


“そういう関係”じゃない時間だった、と思う。


「文吾くん、あったかいね」


思わず言葉にしたその一言に、自分で驚いた。

言ったあと、なんか変にドキッとした。


たぶんあの時、心がちょっとだけ緩んだんだと思う。

それはまずい。


気持ちは、邪魔になるから。

線を引けなくなると、結局、自分が苦しくなる。


だから、いつものお手当とは違ってお小遣いとして切り出した。

自分の中の線をはっきりさせるために。


でも──

ちょっと期待してしまう自分がいた。


別れ際

「また会ってくれる?」って、口にしたとき、

わたし、何を期待してたんだろう。


彼が返事に詰まったのを見て、

ちょっとホッとした。


でもその直後、胸の奥がきゅっとなった。

──だめだってわかってる。


文吾君は違うかもって。

でも、でもさ……


また会いたいと思ってる自分がいる。

そんな自分が、いちばん怖い。


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パパ活から始まる恋 @karasu16384

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