第2話

 

その後、ついに──

アプリで「いい感じの女の子」とマッチングした。


名前は山本ちゃん。


俺が勝手に“ちゃん”付けしているわけではない。これでフルネームなのだ。

通知にはこう表示された。


「山本ちゃんさんから新着メッセージが届きました」


──この瞬間、俺は心の底からガッツポーズした。

ここまで数えきれないほどスルーされ、既読無視され、フェードアウトされた。

その俺に、ちゃんと会話が続く相手が現れたのだ。奇跡だった。


プロフィールは、どこかゆるくて柔らかい雰囲気。

ただ、ほんのり“地雷臭”も漂っていた。

「実家で療養中」「持病があって休職中」とのこと。

でも──


写真は自然体で、飾らない笑顔が印象的だった。

変顔。団子をほおばる瞬間。家族と行った旅行の風景。

どれも“作っていない”感じがした。そこに惹かれたのだ。


何度かやり取りを重ねたある日、彼女がふと送ってきた言葉が俺の胸を貫いた。


「文吾くんと話してると落ち着くね(・ω・)ノ」


……確信した。

俺、勝った。

完全勝利。まさに社会の敗者から、アプリ界の覇者へ。

体が軽い。

足取りが違う。

こんな幸せな気持ちでアプリを開いたのは初めてだった。


「もう、何も怖くない──」


いつもは何も誇れなかった。

得意なこともなければ、会社ではミスも多いし、上司の顔色をうかがってばかり。

でも、そんな俺の元に“天使”が舞い降りたのだ。確かに、ここに。


だから俺は意を決してメッセージを送った。


「今度、一緒にご飯でも行きませんか?」


──だが、帰ってきた返信は、あまりにも冷たかった。


「ごめんね。来月まで予定がいっぱいで出かけるのは無理かも _( ┐ノε:)ノ」

…………は?


なんやその絵文字。

_( ┐ノε:)ノ ← これで謝罪のつもりか? 俺の真心、茶化してるだろ。

とはいえ、俺も大人だ。気丈に振る舞った。


「そっかー残念!また都合が合う日があったら行こうね!」


──その後、返信は来なかった。


彼女は、まるで蜃気楼のように、メッセージ欄から姿を消した。

その存在ごと、跡形もなく。

怒りと虚しさと悔しさが、胸の中でぐちゃぐちゃに渦巻いた。


──ふざけんな。


勢いで、アプリのVITHを削除。

スマホをベッドの上に投げつけた。

画面の向こうにいた“希望”が、ただの幻だったと気づくには、十分な出来事だった。


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