6 同期との関係について思うこと
石垣島の空港は新千歳や羽田と比べると格段に小さい。だが飲食店や土産屋などは一通りそろっている。何か沖縄らしいものを買うには丁度良い所だ。
「但野さん、せっかくなんでソーキそば食べません?」
村上が但野に提案してきた。丁度彼もそこに行くつもりだった。
「後の二人は?」
遠藤と望月もそこにするようだ。4人は席をとるとカウンターで注文を取った。すると但野はカウンター横に置いてある混ぜ込みご飯のようなものが目に留まった。
「じゅーしー・・・それとスパムか・・・」
但野はソーキそばとじゅーしーなるもののおにぎりを注文した。ふと遠藤の方に目をやると彼は八重山そばなるものを注文していた。どうやら野菜が多く載っているものらしい。
「さてと、頂くとするか」
全員が揃うとそのまま但野はソーキそばにありついた。味は思ったよりあっさりしているがトッピングの紅ショウガがアクセントとしていい仕事をしている。加えて肉も箸で切れるほど柔らかく食べやすくなっていた。
「次はこっちだ」
続いて彼はじゅーしーのおにぎりにかぶりついた。味が染みていて尚且ついい具合の米の固さである。ソーキそばの付け合わせとしては丁度良い塩梅の代物だった。
「・・・後は石垣牛買って帰るだけか」
そんなことを考えていると遠藤が彼に話しかけてきた。
「そう言えばさ但野、お前今月の頭に伏古行ったんだって?」
「え?そうだけど、なんかあった?」
「いや、さっき有馬君からその時津田と色々あったって聞いてさ」
あの日のことか・・・但野としてもあまりいい思い出ではない。彼はそのことを話すのに一瞬戸惑った。
「大した話じゃないけどさ、あいつが本社の人間を馬鹿にしたから少しキレただけだ」
遠藤はどこか納得したような様子だった。但野は構わず面を啜ろうとしたが遠藤は話を続けた。
「そのあとあいつ、有馬君の教育係、外されたらしいよ」
「あいつが?まあ、仕方無いんじゃないか」
「そうかもしれないけど、あいつ本社の人のことなんて言ったのさ」
「すまん、飯食わせてくれる?腹減ってるんだよ」
但野は遠藤の話を遮るように言うと麺を啜り始めた。彼自身その時のことははっきり言って思い出したくない。むしろ自分たちが営業にどんな目で見られているのかを見せつけられたような気がして気分が悪かった。だから津田が教育係を外されたのもそれが理由なのだろうと但野は思った。
完食したところで但野は食器をすぐに片づけた。このまま席に座っていてもまた遠藤から先程の話題を振られるに違いないと思ったためだ。遠藤は性格面は良い奴だとは感じてるのだが妙なところで面倒なところがあるので但野としても長々と話をしたいとは思わない。そんなことを考えていると後ろから遠藤が急に話しかけてきた。
「なあ、津田お前になんて言ったんだよ。そんなに嫌だったのか?」
但野は面倒くさくなってついきつい口調で返した。
「すまん、言いたくないからほっといてくれ」
そう言うと但野はお土産屋の方へと歩いて行った。
遠藤が席に戻ると丁度望月と村上も食べ終わっていたところだった。望月は但野が戻ってきていないことに違和感を覚えて遠藤に尋ねた。
「但野さんどうしたんですか?」
「い、いや、ちょっとあっちの方見てる」
遠藤はお土産屋の方を指さした。
「あそうだ、帰りまでにお土産買わないと。遠藤さんは何にしますか?」
村上は相変わらずの明るい口調で遠藤に訊いてきた。
「ああそうだな、スタッフ16人だからあんまり高いもの買えないし、それ以外にも渡したい人いるからなぁ」
「じゃあちょっと見てみましょうよ」
「あ、ああ、うん」
先程但野に突き放されたような感じだったため、遠藤は彼のいる方へ行くのが少し気まずかった。だが二人は遠藤の返答も聞かずにお土産屋の方へ歩みを進めてしまった。
「ああもう。仕方ない人達だな」
お土産屋の一番目につくところには紅芋のタルトが陳列されていた。余程有名なのだろう。しかし見るからに生ものである。今買って帰る頃に賞味期限切れというのは流石にアウトだ。
「他は・・・」
奥の方へ行くとソーキそばの袋麵が置かれていた。日持ちするしこれでよいかと思ったがよく見ると2食で550円である。少々割高だ。
「なんでこう、絶妙にコスパ悪いんだよ」
そうつぶやくと目の前に蛇の姿が飛び込んできた。遠藤は思わず「わっ!」と声を上げてしまった。
「どした?ああハブ酒か」
彼の声に但野が反応したようだ。
「ああ但野、お前何買う?タルトはもう少し後に勝った方が良いかなって思うけど」
「って言ってもなあ、うち人数少ないから別になんでもいいと思うけどなあ。やっぱ紅芋タルトが安牌かな」
但野はいつもと変わらない口調で遠藤に話した。その様子を見てもう先程のことは気にしていないようだと感じ、遠藤は胸をなでおろした。
「ああ忘れてた!田中課長に石垣牛買わないといけないんだった」
「石垣牛?あの高級な?」
「え?」
遠藤は精肉売り場の方に案内した。どれも霜が降っていて柔らかそうな見た目をしているがその分価格も高い。
「わやだなこれ。こんな高いもん買わせようってのかようちの課長は」
「まあ冗談だと思うけど、どうする?」
「クール便で送るって言っちゃったからなあ。てか俺課長の住所知らんぞ!どうしよう!」
但野が狼狽している横で遠藤はふと時刻を確認した。
「やば、但野、そろそろ戻らないと1時間経つぞ」
「マジかよ、じゃあお土産はまた今度にすっか」
「そうだな。さて女性陣は・・・」
遠藤は村上と望月を探そうとしたところで二人の姿が目の前に飛び込んできた。二人の様子を見るにもう買い物は済ませたようだ。
「それじゃあ戻ろうか」
「はい!」
村上は勢いよく返事した。
店舗に戻ると丁度アンダーソンが客対応をしていた。相手は恰幅の良い白人男性とその妻と思わしき女性だ。アンダーソンは流ちょうな英語で車について説明している。男性も対応に満足しているのか、笑顔で何か返している様子だった。
「So have a nice trip!」
アンダーソンがそう言うとその夫婦はレンタカーを発進させた。
「ああ4人ともお帰り。ランチはどうだった?」
彼の問いに遠藤は答えた。
「Yammy!そう言えば、ここって結構外国のお客様来るんですか?」
「そうだな、3日に1組くらいかな。でも先月は結構多かったな。こっちにもインバウンドの波が戻ってきてるのかも」
「そうですか、俺英語あんま話せないので大分不安です」
「まあ困ったら俺達呼んでよ。みんなある程度英会話はできるから。店長も奥さんニュージーランドの人なんだって」
「へえ意外ですね」
「おっと、じゃあ残りの3人にも休憩させてあげないとね。じゃあ午後もよろしく頼んだよ」
「はい」
但野は業務がひと段落したところで事務所でさんぴん茶を飲んでいた。開發の言った通り沖縄の暑さは段違いだ。こんな環境で水分を我慢していては命が持たない。
「さんぴん茶か。下手すりゃ財布が素寒貧になりそうだ」
そんなことをつぶやきながら休んでいると望月が事務所に入ってきた。どうやら彼女も一息つきに来たようだ。
「あ、お疲れさまです」
「お疲れ。沖縄どう?」
「湿度が高いので慣れるまで時間かかりそうです」
「確かに」
そんなことを言っていると但野は壁に何かが這いよっているのが見えた。望月もそれに気づいたのか、それを見るなり悲鳴を上げた。
「おいおいどうした?」
彼女の悲鳴に気づいたのか、平安名が事務所まで入ってきた。だが壁にいるものを見るなり彼は笑い声をあげた。
「ああヤモリか。こっちじゃあ毎日見るよ」
「そうなんですか?私こういうの苦手で」
「俺らにしてみりゃ友達みたいなもんだよ」
そう言うと平安名は慣れた手つきでヤモリを掴んで窓から放り投げた。
「社長から聞いたけど、北海道ってゴキブリもいないらしいね。逆に何がいるの?」
「熊ですかね」
但野は淡々とした様子で答えた。
「熊?俺見たこと無いけど怖い?」
「いない方が幸せです」
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