Lily and Spider Lily〜出会いと別れの異世界生活譚
つくし
第1話 目覚めと揺れ
少年は目を覚ます。
視界いっぱいに広がるのは、小豆色の空。
点々と立つ木々は葉をつけず、ただの飾りのように固まっている。
少年は立ち上がりしばらく考えた。
自分は誰だ?
ここはどこだ?
解らない。
直前の記憶は?
自転車で高校からの帰宅中、気づいたらすぐ隣に車が迫ってきていた。
そうやって自分と話して自分の存在を確認していたとき、どこからか声が聞こえてくる。
「あれ?起きたの?起きたのなら早く言ってよ!」
見渡しても声の主は見つからない。
「おーい!」
視線を少し下にずらすと小さい生き物がいた。
人の胴体に人の四肢、可愛らしい少女のような顔、きれいな赤髪、頭からは一本のツノが生えていて、身長は140センチくらいだろうか。
なにより特徴的なのは、体操着のような短パンに、胸辺りにOniとプリントされたTシャツを着ていることだ。
「君は鬼か?」
「まあ、そうだよ。正確には子鬼ね!...ヘルヴィンっていうの」
「俺は瑞稀だ」
「そう。じゃあ早く行くよ、瑞稀さん。後がつかえちゃうよ!」
そう言って、子鬼の少女は歩き出す。
意外にも速くて、会話もないまま二人は進んでいく。
・
「着いた!」
赤髪の少女、ヘルヴィンは大きな声で言った。
そこは、緩やかな流れの川で、底と向こう岸が見えない。
すぐ近くには木造りのそれっぽい小舟が浮かんでいた。
少女は軽快に小舟に飛び乗り、瑞稀に手を差し出す。
瑞稀がヘルヴィンの手を取ると自身の身体が軽く感じられた。
ヘルヴィンと瑞稀は向かい合わせに座った。
少女が
すぐに瑞稀が口を開く。
「ここはどこ?」
「三途の川だよ。向かう先は最初の十王様の審判殿。十王様って言ったけど十回も審判を受けるわけじゃないから安心して。最近は死者が多くて忙しいから審判は一回だけだと思うよ」
瑞稀は半ば納得する。
続けて質問する。
「ヘルヴィンはなんでこんなことをしてるの?」
「ガイドのこと?それなら...仕事だからだよ。死者にとって冥界はわからないことだらけでしょ?死者がちゃんとせずに好き勝手にさまよい始めたら冥界はギュウギュウになっちゃう」
「そんなもんか。...向こう岸に着いたらすぐ審判か。どれくらい漕げば着くんだ?」
子鬼の少女はさも当たり前かのように「七日」と言った。
「七日!七日間も漕ぎ続けなきゃいけないのか?大変だな。代わろうか?」
「だめ!」
「なぜ?」
「決まりだから。それに瑞稀さんの体力じゃ絶対に漕げない」
「いや、流石にヘルヴィンよりは体力あるぞ。これでも毎日の筋トレを欠かさずに行ってきた」
瑞稀は小さな少女を見つめて言った。
「それじゃあ...私と腕相撲をして勝てたら代わってあげる」
「望むところだ」
少年は意気揚々と、手加減はしないという誓いの旗を自分の心に掲げた。
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