短編小説 鏡よ鏡よ応えておくれ
@katakurayuuki
鏡よ鏡よ応えておくれ
「鏡よ鏡よ鏡さん。明日の天気はなあに?」
「明日の天気は晴れです。」
「鏡よ鏡よ鏡さん。今日の夕飯はなぁに?」
「シェフのおすすめディナーでございます。」
「鏡よ鏡よ鏡さん。私に悪意を持っている近しい人は誰?」
「右大臣でございます」
「鏡よ鏡よ鏡さん。右大臣を失脚するための弱点はなぁに?」
「右大臣は最近商売がうまくいかず違法とされているものを取り扱っております」
「聞いたな。行け」
私は命ずると後ろに控えていた護衛が一人、音もなく消えていった。かの物に任せれば右大臣は違法の取引が露見され私に悪意を持つ者がまた一人この世から去るだろう。
この鏡は元は私のものではなかった。前任者がいたのだ。ただ、その人はこの世で美しいものは何かとか、くだらないものにしか興味がなかったらしい。
私は前任者がいないうちに普通の鏡と取り替えてしまい自分の者にした。
この鏡は便利だ。何でも答えてくれる。しかし欠点もあった。鏡に映らない物はわからないのだ。
右大臣が私を嫌っているところを鏡が見える所でしゃべったりしていたのだろう。違法取引なども鏡がそこにあったのだろう。
だいたいのところには鏡はある。だから私は人知れず自分を嫌う者。悪意あるもの。そして我が国に災いをもたらすものを影から葬っていった。
ある日。待ちに待った人が我が国に現れた。その者は使い古された旅人の杖を持ち、一見なんの力もないものだが、実は巨大な魔法を使う大魔法使いなのだが、それを他の人は知らない。だが、私は知っている。
「もし。今日はあなたに会えて光栄です。」
「こちらこそ光栄です第三王女様。私の事は羊使いのミトとでも呼んでください。」
「大魔法使いミト様でよろしいですか?」
「・・・・・・」
「実はあなたに折り入ってのお願いがあります。この国に魔物たちの軍勢が襲ってくるのです。是非、あなたの力をお借りしていただければと。勿論褒美はいかようにも準備いたします。」
「はは、やはりあなたでしたか。小さかったこの国がいつの間にか太陽が沈まない街と呼ばれるまで栄えた秘密は。王が優秀なのもあったでしょう。地理的要因がよかったのもあったでしょう。でもそれにしては栄えすぎている。醜聞があったとしても、結局は他の国がダメージを負っている。そんな事まで起きている。誰かが何かをやっている。そこまでは分かってはいましたが、もしやあなたとは思いませんでした。それで?私に魔物たちを倒せと?」
「私の願いは言いました。魔物たちの軍勢を倒してください。」
「嫌ですね。」
「何故か聞いても?」
「むしろ私のほうが聞きたいです。何故私に頼るのです。あなたが影から育てた国は大きく育ちました。太陽が沈まぬ街と呼ばれるほど。どの外敵がきてもその太陽で焼きつくすことが出来るでしょう。」
「・・・・」
そこまで言われても私は不安の中にいた。本当にこの国で魔物たちの軍勢を倒すことが出来るのだろうか?
私が今までやってこれたのは小さなパズルの一点を崩せば脆く崩れるような積み木を一つ一つ丁寧に除外してきた結果だ。
だが、魔物たちの軍勢はどうにもできない。私の理の中にいない。どこか一点だけでも崩せるポイントがあればと鏡に何度も聞いたが「わからないの」の連続だった。鏡の弱点の一つに人間基準があったのだ。人間の弱点はわかるが魔物の弱点はわからないのだ。
だから鏡に魔物を倒すことが出来る人を探してもらったのだ。
しかし彼はこの街なら。私が育てたこの街なら倒すことが出来るというのだ。
私は、今まで鏡の力を頼ってやってきた。しかし、此度の戦いは鏡の力を頼れないのだ。
迷う私に魔法使いミトは、
「何かに頼ることもできない時もあるでしょう。しかし顔をあげて外を見てください。あなたは今までこの国をここまで大きくしたのです。今までの自分の努力に賭けてみませんか?」
「一つ、聞いてもいいですか?なぜ助けてくれないのです。あなたが助けてくれれば簡単な話じゃないですか。」
「それこそ簡単な話です。自分の力で解決できるのに何故他人の力を頼ろうとするのです?」
そう言うと、会談はここまでと言わんばかりに席を立ち、どこかへと行ってしまった。
私は窓から外を見た。そこには地域では最も栄えていると呼ばれている国が見える。
「鏡よ鏡よ応えておくれ。明日の天気はどうだい?」
「明日は晴れです。」
「鏡よ鏡よ応えておくれ。兵たちの気力はどうだい?」
「意気軒昂でございます。」
「鏡よ鏡よ応えておくれ。私たちの未来はどうなるかを」
「第三王女様、あなた次第でございます」
「言うではないか。鏡のくせに」
「行くぞ。」
甲冑を身にまとい、護衛達をひきつれ、将軍達が集う前線へと足を向ける。
私が行って何かできるというわけではない。しかし後ろで待つより前線で鼓舞する方が兵たちも気力が上がるだろう。
これは私たちの戦いなのだ。
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