第16話 幼馴染に勉強を教わってきた


「五月の修学旅行で、葵に告白する」


 ――とは言ったものの、正直あまり自信があるわけではない。

 決心をしてから早二週間以上が経過しているにも関わらず、具体的な案が何も浮かんでいないのが何よりの証拠だろう。


 言い訳するのであれば、この二週間がとても忙しかったということだ。

 校内模試に向けた勉強会は連日開催され、自分でも驚くくらい勉強漬けの毎日だった。


 まあさすがに高校入試の時の大変さに比べたらマシなのだろうが。

 あの時は幼馴染と一緒の高校に入りたくて死に物狂いで勉強していたので、人生で一番大変な時期だったと言っても過言ではない。

 その分、苦労が報われた時の喜びも凄まじかったのだけれど。


 とはいえ、この二週間は高校生活の中でもトップスリーに入るであろう忙しさとしんどさだった。

 そして、その結果は――。


「赤点回避ぃっ!」

「よっしゃぁぁぁあああ!」


 成績優秀組は当然として、私と、笹木ささきくんの二人ともに赤点無しという快挙を成し遂げていた。


「夏帆はともかく、まさか笹木まで赤点回避するとはね」

「カンニングでもしたのか?」

「僕だってやるときはやるんだよっ!」

「その点数でドヤられても困るんだけど……」


 順位で言えば、私は真ん中よりも少し下程度、笹木くんは下の中くらいだった。

 高校に入ってからのテストで何気に一番良い順位だ。


「二人は今回のテストはどうだったの? ……って、やっぱり凄いね」

「えっへん」


 私の質問に、二人が結果が書かれた紙を見せてくれる。

 どの科目も私とは比べ物にならない高得点ばかりで、順位もかなり高い。


 梓が学年9位で、葵が4位。

 初めて10位以内に入ったということもあってか、梓も心なしか嬉しそうだ。

 葵の方は自分の順位に対して特に感じるものもないのか、そこまで喜んでいるような雰囲気はない。


「何はともあれ、これで心置きなく修学旅行に集中できる……っ!」


 告白に向けた準備もようやくスタートできるというものだ。

 決して今まで何も思い浮かばなくてサボっていたわけではない。


 修学旅行までは、あと二週間程度。

 それまでに準備しなければいけないことはまだまだ多い。

 必需品の買い物だったり、どのルートで観光するか決めたり。

 本当に二週間程度ですべて終わるのか、と不安になるレベルだ。


 その中でも最優先でやらなければならないのが、班分けである。

 同じ班のメンバーは自由行動の時に固まって動かなければいけないため、誰と班を組むのかがかなり重要になってくる。


 聞くところによると、既に班分けを済ませたクラスもあるらしい。

 うちのクラスでは明日から順次、班決めを行う予定になっている。

 しかし、班を巡る戦いは既に始まっていると言ってもいいだろう。


 担任曰く、班は基本的に当人同士の希望で組まれるため、今のうちから仲のいいメンバー同士で班を組もうと動いているところが多い。

 私の周りでも既に何組かの班がほぼほぼ出来あがっている状態なところもある。


「夏帆ちゃんのことだから、クラスの男子全員から声をかけられてるんじゃない?」

「ま、まあねー」


 笹木くんが面白おかしく指摘してくる。

 確かに、クラスメイトから一緒に班を組まないかというお誘いは多い。

 特に男子からは笹木くんと幼馴染以外の全員から声をかけられているような気さえする。

 なんだったら別クラスの男子からも声をかけられたりしたが、全部丁重にお断りしている。


 理由はもちろん、幼馴染と一緒の班になるためだ。


 同じ班になれれば自由行動も一緒だし、告白するタイミングも作りやすいはずだ。

 逆説的に、同じ班になれなければ告白するチャンスがぐっと減ってしまうということかもしれない。


 この四人は言ってしまえば勉強会を共にした戦友のようなものだ。

 直後の修学旅行で同じ班を組むというのは、どこからどう考えても自然な流れではないだろうか。

 むしろそうでないと困る。


「梅原たちは誰かと組む予定はあるの?」


 私の気持ちを察してか、梓が気を利かせて聞いてくれた。

 やはり持つべきは親友である。ありがたすぎる。


「んー、僕は今のところ決まってないけど、葵はたしか女子たちから誘われてなかった?」


 は、はあああああああああ!?


 教室の中で思わず叫びそうになるのをぐっと堪える。

 一体どこの誰が私の幼馴染を班に誘ったというのか。

 人がテスト勉強で苦しんでいる間に抜け駆けとは、とても許される行為ではない。

 知らないのかもしれないが葵は彼女持ちで、そんな気軽に誘っていい相手じゃないのだ。


「梅原が誘われるなんて意外」

「いつも絡んでる夏帆が勉強で忙しそうだったし、単に俺がひとりでいるのが珍しくて声をかけてくれただけだろ」

「そんなもん?」


 しかし、幼馴染の魅力を考慮していなかった私の落ち度でもある。

 すっかり油断していた。

 これでは私の一世一代の告白計画も……。


「まあ、全部断ったけどな」


 人知れず落ち込む私に、幼馴染がさも当然のように言う。


「こ、断ったの?」


 まさかの展開に、思わず目が点になる。

 笹木くんも知らなかったのか同じように驚いているし、梓も少しだけ意外そうな表情を浮かべている。

 唯一、当人だけがそんな周りの反応に戸惑っていた。


「そりゃあ、この四人で組むと思ってたしな……。え、もしかして他に誰かと組むつもりだったか?」


 ――ああ、もう本当にこの幼馴染ときたら。

 困ったような表情を浮かべる葵を、思わず抱きしめたくなる衝動に駆られる。

 もちろんこんな場所でそんなことは出来ないのだけど。


 それでも気を抜いたら頬が緩みそうになるのをぐっと堪えながら、私は幼馴染に親指をぐっと立てて宣言する。



「忘れられない修学旅行にしてあげるから、覚悟しておきなさいよっ!」

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