《感情を捨てた天才令嬢、異世界学園都市で魔法と科学を融合します》
@kamiya7
第1話「空手少女、決勝戦で死す」
歓声が、遠ざかっていく――。
張り詰めた空気の中、真白な道着を纏った少女が、静かに立っていた。
その名は、白鷺美咲(しらさぎ・みさき)。高校空手全国大会、女子個人組手・決勝戦。
静かに構えを取るその姿は、まるで澄んだ水面のように凛として、美しかった。
対峙するのは、前年優勝者・如月沙耶。どちらが勝ってもおかしくない、全日本が注目する一戦だった。
「……来いよ、美咲。お前の“全力”、見せてみろ」
「……うん。見せてあげる。私の、全部を――」
審判の手が振り下ろされる。瞬間、二人は同時に飛び出した。
美咲は、空手を愛していた。厳しい父に稽古を叩き込まれ、悔し涙にまみれながらも、道場に通い続けた日々。
それは、誰かに勝つためじゃない。
“自分に負けないため”だった。
踏み込み。
突き。
引き手。
回避――そして、“突き”のタイミング。
心が、時間の流れを超えたように澄み渡る。
(これで……決める)
だが――。
その瞬間、彼女の動きがほんのわずか、迷った。
(あ……)
沙耶の身体が揺れた。
強烈なカウンターが、美咲のこめかみを正確に捉える。
打ち所が悪かった。技が速すぎて、首が衝撃を吸収しきれなかった。
目の前が、真っ白に染まる。
転がる音。ざわめき。誰かの叫び。
(……なに、が……起こった……の?)
美咲は、自分の身体が倒れたことに、気づいていなかった。
ただ、遠ざかっていく音の中で、脳裏にいくつもの記憶がよみがえる。
父の背中。道場の床。指導者の叱咤。
流した汗、血、涙――
努力の果てにあったはずの“勝利”が、手から零れ落ちていく。
(勝ちたかった。……悔しい……悔しいな……)
(まだ、やれるって……信じてたのに)
その時だった。
闇でも光でもない、純白の空間が、意識を包み込む。
何もない――静寂。
けれど確かに、そこには“誰かの気配”があった。
声がする。やさしく、穏やかな、それでいて重く、心を揺さぶるような声。
「……ようこそ、彷徨える魂よ。
君は、その若き命を以て、武の道を貫いた。
その魂、しかと受け止めた」
美咲は、声の方へと顔を向けようとする。
だが、身体がない。目も、腕も、足も。
ただ、“意識”だけが、そこに浮かんでいた。
「君に問う。
もう一度、生きたいか?」
問いかけは、単純だった。
けれど、美咲の中には、すでに答えがあった。
(……まだ終わってない。私は……)
その瞬間、世界が大きく、震えた。
意識の底で、“何か”が再構築されていく音がする。
「ならば、導こう。
この魂、異なる世界の“縁”へと――」
そして、再び真っ白な世界が、美咲を包んだ。
心臓の鼓動。
ぬるい液体。
光の差す向こうから、声がした。
「おめでとうございます、姫様! 元気な女の子です!」
――泣き声が、上がった。
それは、美咲の……いや、“レイリア”の第一声だった。
(……泣いてる。私……赤ちゃん?)
混乱と驚きの中で、彼女は悟った。
自分は生まれ変わったのだ。
別の世界に。別の身体に。
そして、なにより――
(もう一度、生きることが……許された)
手も足もないこの身で、少女は静かに決意した。
今度こそ、“本当に”強くなる。
悔いなき人生を生きてみせる――と。
(ありがとう……。絶対に、無駄にはしない)
静かに微笑むような表情を見せながら、レイリア=白鷺美咲の第二の人生が、始まった。
───第一話・了───
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