ここは異世界ですか? ……え、デスゲーム会場?

はみ

Ep.1 ここは異世界だと思います。なぜなら異世界だと思うからです。


「んん……」


 —―—―日の眩しい光で、私は目を覚ました。

 目を開けると、太陽の光が直接目に入ってくる。


「ったぁぁぁっ……」


 その眩しさに目が眩み、思わず目を押さえて横向きになる。

 少し経ち、私は改めて目を開ける。


「ここは……」


 起き上がり、辺りを見回す。

 鳥のさえずり。たくさんの木。その間から漏れている木漏れ日。自然の空気。

 ここは、—―—―森だ。


「なんで私、こんなところに……」


 寝ぼけ眼で、これまでの行動を思い出そうとする。

 確か、この世に生を授かって……いやそこまで遡らなくてもいいか。

 えっと、数日前まで私は

 まだ主語しか言っていない、その瞬間。

 頭がズキンと痛んだ。


「っ…………!」


 …………思い、出せない。

 これまでの行動も、なにも。どうして私が、ここにいるのかも。なんで森林に来たのかも。

 必死に考えても、何も思い出せない。

 私は一体、何をしていたんだ?


「っ名前は……」


 名前ぐらいは分かるだろうと思ったそのとき。

 また頭がズキンと痛んだ。

 自分の名前すらも、思い出せない。


「……………………」


 絶望したような気持ちになり、私は目を伏せる。

 何をしていたのかも、名前すらも思い出せない。記憶が一切ない。

 分かるのは、年齢が高校生くらいだということと、性別が女性であるということだけ。それだけしか、分からない。

 と、そのとき。


「…………!?」


唐突に、一つの文が頭に降りてきた。


【あなたの名前は、フィーネ】


「…………名前?」


 それは私が欲していた、私に関する情報の一つ。


「私の名前は、フィーネ……」


 発音してみる。

 フィーネ、フィーネか。そんな名前だったのか。

 それを記憶しようとした時。

 一つの違和感に気づく。


「私、—―—―この名前に、聞き覚えがない」


 普通の人だったら、1年に一回は自分の名前を発音するだろう。自己紹介の時とか、その他色々な場面で。

 記憶がないから聞き覚えがないのも当然かもしれない。

 でも、この名前だけは明らかに発音したことがない単語だった。第六感が、そう言っていた。


「本当に、フィーネなの……?」


 本格的にその名前に対する疑いを広めていった、その時だった。

 正面のしげみから、物音が聞こえた。葉をかさこそ動かすような、そんな音。


「っなにか、いるの……?」


 私は後ろに手をつき、いつでも逃げられるようにと構える。


 ガサゴソ

「ひぃぃっ!」


 物音に足がすくみ、思わずさっき構えたばかりの手を地面から離してしまう。


「っ、ちょっ、まっ……」


 次の瞬間。

 しげみから、何かが飛び出した。


「うわぁぁぁぁぁあああああっ!!!」


 驚いて、後ろに体勢が崩れる。


「いったっ!」


 そう感じた時、また別の感触も感じた。


「!? なに!?」


 それは、私のお腹の上に乗った。


「なになになになに!? なに!!!」


 慌てて、自分のお腹を見る。

 もしお腹の上に乗っていたのが猛獣だったら、当然のごとく私は即死していただろう。それにやられるよりも前に、心臓が止まっていたと思う。

 でも、私は死ななかった。

 それは、そのお腹の上に乗っていたのが—―—―


「—―—―リス?」


 小さく、かわいらしいリスだった。

 縞模様で、シマリスというのだろうか、たぶんそれだと思う。

 毛並みが客観的に見てもサラサラで、小さな瞳がとにかくかわいい。思わず抱きしめたくなる、が。


「…………え?」


 そのリスは、私の顔を見たらすぐにまた同じしげみに消えてしまった。

 私は立ち、慌ててそのしげみに近寄る。


「…………いない」


 そのリスは、どこにもいなかった。

 一体なんなんだったんだと思い、私は初期の位置に戻る。別にその必要はないのだが。

 安堵と疑問と諦めと驚きが入ったため息をつく。

 と、そのときふと自分の服装が目に入る。


「……これ、なに?」


 私が着ていたのは、ワンピースだった。

 この晴天によく似合うような、白いワンピース。タンクトップのような短さの袖に、膝下まである丈。地面で寝ていたと言うのに、汚れの一つもついていなかった。

 首からお腹にかけて中くらいの大きさのボタンが三つほど付いており、白い生地は陽の光を吸収するかのように光っていた。

 ワンピースって、私着たことあったっけ?

 思い出そうとするが、やはり記憶がないためか全く思い出せない。

 なんなんだという諦め混じりの疑問のため息をつこうとした、その瞬間。


 一つの予想が、私の頭に降りてきた。


「もしかして、ここって…………」


 異世界?


 そんなファンタジーなことってあるのかと思う。異世界なんて、絶対に存在しないと思っていた。

 でも、さっきのリスといいこの森といいこの服装といい、それらがなぜか《異世界》という一つの可能性に集結した。なぜだかは本当に分からないが。

 だとしたら。


「私、転生してきたってこと?」


 その可能性が多いにある。根拠はないが、そう思った。

 つまり、だ。つまり、これらが表すことは。


「…………私すごいじゃん!」


 我ながらアホな感想だ。もう少し怯えたり、ホームシックになったり、そんなことをしないものなのだろうか。

 でも、もしそうなら私は大歓迎だ。ずっと憧れていたことが、実現したんだ。

 私は一人で、拳を握った。




【…………いやここ、デスゲーム会場ですよ?】


「え?」

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