たまゆら婚姻譚
ミコト楚良
引田部の乙女
第1話
とある
河辺では乙女たちが衣を洗っていた。
その中のまだ少女とも言える乙女に
「そなたの名はなんと言う?」
「
乙女は、とまどいながらも名を告げた。
「そなたは誰とも結婚するではないぞ。私が、いずれ
ゆえに乙女は大王の迎えを待った。
ひとつき、みつき。
いちねん、さんねん。
妹たちが婚姻しても、乙女は「大王が私をお召しになると仰ったのです。他の方に嫁ぐことはできません」と、大王の迎えを待っていた。
じゅうねん。じゅうごねん。
父親は
「ねぇ、あーちゃん」
乙女の妹の娘は、名を
母親に頼まれて、
「なんぼなんでも
「位の高い方にはね、いろいろ御都合があるのだと思うの」
伯母は姪をたしなめる。
「
「そんなこと」
あるはずがないと
「もしかして、忘れられている?」
「あぁ、
気がつけば臥せっていたはずの母が起き上がって来て、柱にもたれていた。
「お前は娘たちの中でもいっとう賢く、うつくしい娘だった。お前の嫁ぐ日をどんなにかお父さまも待ち望んでいたか」
ごほごほと母は咳き込んだ。
「寝てなきゃだめだよ。おばあちゃま」
――もしかして婚姻の約束はすっかり忘れ去られている。
「縁談もすべて断って待っていたのに。私、もう三十路ですわ。同い年の子なんて、もう子供が成人している子もいるのに」
「今ならギリギリ間に合う。あーちゃん、都、行こ。
「そんなこと……」
「ぼくもいっしょに行くからっ」
「だめよ、だめだめ。
「行きなさい、
意外にも後押ししたのは、病床の母だった。
「私がこんな体でなければ、
「行こう! あーちゃん!」
姪は伯母の両手を握りしめた。
つややかな
――
「行くわ。都に。行って
しかし、都へ行くことを一族の者、特に
「しーちゃん、本当に、いいの? あなたまで巻き込んでは、御両親に申し訳ないわ……」
「いいの。ぼくも
娘が女の印を迎えれば、父親は婿を探す。まわりの男たちも女として扱いはじめる。
「婿候補がさ、キモいおじさんでさ。それが
「まぁ、『あそこの娘は美人らしいぞ』とか、噂だけで男性は求婚するしかないから」
「お母はお母で
始祖の男は、水の神に仕える
「お前の母親は
「お母は、あーちゃんに憧れていたもの」
「でも愛する男をみつけたから」
「そうだね。今でも
「よいことです。
「あーちゃんっ、自分に対して否定的なこと、言わないっ」
産んでいておかしくない年の子に
「
思い返すと
「しーちゃんも、いろいろ考えているのねぇ」
「なんちゃって。単純に都のおいしいものとか? めずらしいもの? 見てみたいなーって。あーちゃんの境遇に便乗させてもらった! だから気にしないで」
へへっと眉尻をさげて、
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