気配のする家

@TiA-Tech

祖母

あの家は、ひとの数だけ呼吸していた。

親戚の一同が集い賑わった祖母の家。

病で祖父が逝き、そのあとを追うように祖母もいなくなった。


葬儀の日。

親族が集まり、祖母は「急死」とされたが、

私と姉だけは、知っていた。

姉がぼそりと言った「ばぁちゃん、自殺なんやって」

親族が何度も祖母の死因を何と聞かされているか、と聞いてきても

ただ「急死って聞いた」と繰り返した。


そのあと、その家には誰も住まなくなった。


私は昔からあの家に妙な圧を感じていた。

薄暗い2階の書斎で、背後をすり抜ける何かを感じたこともあったし

階段にはいつも何かが居座っているようで、登るのが億劫だった

けれど家族に言っても「気のせい」で片づけられた。


高校の頃、私は豚インフルエンザにかかり、祖母の家に隔離された。

本当に一人きりの七日間。

昼間でもどこか薄暗い。階段を上がるとき、首筋に指がかすめるような感覚がある。


既にこの世に居ない祖父母の寝室で寝る、

それを不気味に感じてはいけない義務が

家族である私にはあったのだが、

正直言って心地いいものでは決してなかった。


ひとりの時間が、なにかを呼ぶ。

見られてる気がする。常に誰かの視線が、部屋の四隅にあって

私は毎晩、テレビもスマホも見る気にもなれず

力尽きるように眠っていた。


あの家は、旧家のような立派な家で、ひとりで住むようにはできていなかった。

人が集まり、声をあげ、笑い合うために作られた家だった。

でも祖母は、孤独の中に取り残されていった。


──ある日、法事終わりに父とふたりでテレビを見ていたとき。

廊下を白い布が横切った。


「おとん、廊下になんかおるわ」

「気のせいや」


そう言った父の声に、どこか不自然な硬さがあったのを、あとになって思い出した。

たぶん、父も何かに気づいていた。


正体なんて、どうせわからない。

でもあの家の気配は、たぶん祖母でも祖父でもない。


親戚達の中では、今ではすっかり『祖母は急死だった』、と事実は塗り替えられている

でも、もしかしたら

こういう事は世の中ではよくある事なのかもしれない。

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