第41話 縁日の灯りの下で

「そうなのか。そんなの全然気が付かなかったよ」


「全く……相変わらずの能天気無防備なクズ勇者ぶりね。まあ貴方らしいけど」


 面目ない……まあ、俺の実力なんてそんなもんだ。

 優れた冒険者は、魔力やスキルを察知するのにも長けていた。

 俺以外の三人は、そんな人知を超えた領域にいたのだ。


 でも、だとすると……


「じゃあ、今の子も転生者だっていうことか?」


「まだはっきりとは分からないけど、その可能性はあるわね」


「そっか。私も少し感度を上げておこうかなあ。もしかしたら、どこかで会えるかも分からないしなあ」


「だよね~。むっちゃクチャ可愛かったし興味はあるよねえ、抱きついちゃいたいほどに。それにさ、何となく似てなかった? リリーに?」


「そうね。私もそう思ったわ。同じ金髪だったし。けど、だとしたらびっくりね」


 リリーか……確かに、話し方は似ていたな。

 それに、金色で長い髪の毛だって。

 けど、それだけで決めつける訳にはいかないだろう。

 この世界だって金髪の人なんて、ごまんといるのだ。


 それからも休息をしながら縁日を歩いていると、暗くなった空に星が瞬き始めた。


「痛っ!?」


 不意に、麗が声を上げて立ち止まった。


「どうかしたのか?」


「足が痛いの。草履なんて普段は履かないからかな」


 見ると草履の鼻緒の傍から、うっすらと血が滲んでいた。

 いわゆる靴ずれ、というやつだろう。

 見るからに痛そうだ。


「じゃあ少し休んで、後からゆっくり来なさいな」


「うん。花火の場所は、私達で探しておくよ」


 あと少ししたら、打ち上げ花火が始まる。

 その前に、観る場所を確保しておきたいのだ。


「じゃあ俺は、麗といるから。後でまた合流しよう」


「……いいの、翔?」


「ああ、一人だと暇だろ? もう腹もいっぱいだし、少し休むと丁度いい」


「分かったわ。また後でね」


「じゃあね~! 二人でいいことしちゃだめよ!」


 こんなとこでそんなことすると、それこそ犯罪者の仲間入りだろ。


 華恋と愛芽瑠とは一旦別れて、その場で少し休んでから、


「救護所にでも行くか? 絆創膏でもあるかもだし」


「そうね。だったら翔、おんぶして」


「それは目立ちすぎるだろ。肩なら貸してやる」


「やだ、おんぶ」


「腹が減ったから、そんな力出ないさ。ラーメンでも食ってくるかな」


「さっきお腹いっぱいって言ってなかったけ? それにラーメンって、どこまで食べに行くのよ。まあいいわ、それで我慢してあげる」


 どんだけ上から目線なんだよお前。


 麗が白い手を肩に乗せてくると、そこだけ重みがあって、温かくなってくる。

 少し前に同じことがあったような……そうだ、七瀬さんがクラゲに刺されて、医務室に行く時もこんな感じだった。

 そう言えば七瀬さんは、ここにいるのかな。

 他の友達と行くって聞いていたけど。


 救護所で無事に応急処置を終えてから、華恋や愛芽瑠と合流することにする。

 けど人波がびっしりと厚くて、なかなか前に進めない。


「これ、花火までに間に合わないかもね」


「ああ、かもな」


 ふぉっと、手を握られる感覚が。


「…… れ、麗!?」


「だ、だって、この人込みよ。離れたら大変だわ」


 麗が手をつないできたのだ。

 少し恥ずかしいけれど、その手を振りほどけない。

 麗の言う通りだし、それに、小さくて柔らかい手、それをずっと包み込んでいたいとも想った。

 あくまではぐれないように、そう、そのためにだ。

 決して、変な意味や妄想の類ではない。


「……わ、君……」


 これ、花火の観戦エリアまで、マジで間に合わないかもな。


「黒沢君!」


 え? この声は……もしかして?

 やっぱりだ、人込みに紛れた中に、七瀬さんがいた。


「七瀬さん……来てたんだ」


「こんばんは。やっぱり、黒沢君達も来ていたんだね」


 七瀬さんも、きちんとした浴衣姿だ。

 緑色の中に爽やかな湧水が流れている、そんなような模様が涼しげだ。

 両隣にいる二人は、同じクラスにいる子だ。

 きっと友達同士で、ここに来たのだろう。


「貴方は、この前のバーベキューの時にいた方ね?」


「はい、白木です。こんばんは、七瀬さん」


 七瀬さんが静かに視線を落として、その先にあるのは……麗とずっとつないだままの手だ。

 慌ててぱっと手を離すと、麗にジロリと睨まれた。


「や、やあ。すごい人だね、あはは! くっついていないと、はぐれちゃいそうだね!」


 照れくさくて言い訳をしてみたけれど、果たして通用しただろうか。

 縁日の灯りが弱いせいだろうか、七瀬さんの表情がくぐもって見える。


「ごめんね、お邪魔して。じゃあね。二人とも行こう」


 友達二人と一緒に、ゆっくりと離れ行く七瀬さん。


「あっ、七瀬さん……」


 呼び止めようか、追い駆けようかと、迷った。

 けど、何をどう話したらいいのか、分からなくて。

 誤解を解きたい。でも、何を誤解されているんだ?

 俺は七瀬さんに、何を伝えたいんだ?


 それに、麗の小さな手が、俺の浴衣の袖を掴んでいたんだ。


「お願い翔、行かないで。今は私と一緒にいて」


「……ああ、そうだな。足は大丈夫か?」


「平気。でも、花火まであまり時間がないから、華恋や愛芽瑠と合流をするのは難しいわ。この近くで観ない?」


「だな。そうしようか」


 混雑している中で、できるだけ空いている場所を探して、そこで花火が始まるのを待つことにした。


「ねえ翔、訊いてもいい?」


「何をだ?」


「七瀬さん……ううん。ウェンディのこと、好きだったの?」


 唐突な質問に、心臓がトクンと跳ねる。


「な、何だよ? 何で今、そんなことを訊くんだ?」


「気になるから。ウェンディとは、一夜を共にするくらいまでいった仲だったんでしょ?」


 そうだった。

 WEBに投稿している小説にはその下りがあって、こいつはそこを読んでいるんだった。

 結局火事のお陰で、一線は超えないままだったのだけれど。


「まあ……そうだな……嫌いではなかった……どっちかと言えば、好きな方だったかな」


「……それって、今でも……?」


「それは……どうかな。けど、前の世界のラガードと俺とは、別の人間だからさ」


「だからなんなの? 私はレイラ・アシュリー、貴方のことが大好きだった。そして今、白木麗になっても、それは同じ。貴方はどうなの?」


 ウェンディは初恋の人だった、それは多分間違いない。

 でも、それから沢山の出会いがあって、その時の青い想いは薄らいでいったように思う。

 けど、この世界でまた七瀬さんと再会して、その頃の記憶が呼び覚まされていることも確かだ。


「お……俺は、その……」


『ドパアアア~~~ンンン!!!!!』


 話す言葉が見つからない俺、そんな俺のことをじっと上目使いで見つめる麗。

 そんな二人の頭上で、綺麗な光の華が咲いた。





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