我が家の庭には、世界樹が生えてます

まえはらのぞみ

プロローグ 窓の外、天を衝く巨木

今、学校の窓から内海啓樹は外をぼーっと眺めていた。

どこまでも続く快晴に、遠く霞むのは広大な海原。

それが、啓樹が窓の外に求めていた景色のすべてであり、かつて容易に眺めることのできたものであった。


今はもう、その一切がかなわない。

今啓樹の視界をさえぎるのは、巨大な木の幹だった。それが生えている場所から3kmほども離れているのに、幹のささくれや傷跡が鮮明に観察できる。

視線をさらに上部へと持っていくと、木の全長を見終えるより先に窓から見える景色の限界が先に来た。

そのまま椅子にもたれかかり、天井を見上げる啓樹。


はあ、とため息をつく。

その音に気付いたのか、となりの女子が小声で啓樹に話しかける。

「内海くん?どうかした?」

「あぁ、いやね...」

ちらりと、窓の外を見る。

その視線で啓樹が何にため息をついているのかを察した女子は、「あ...」と神妙そうな声を出す。だけどちょっと笑ってないか。

「そりゃ、ため息も出ちゃうよね」

「ほんとだよ」

「おい内海、鹿波、静かにしろ」

国語教師が教鞭をこちらに向けながら厳しい目つきで2人を注意した。

「すいません」

教師は軽くため息をつき、昼食後でだれも真面目に聞いていない授業を再開した。

鹿波がさらに小声でつづけた。


「まさか、あれが内海くん家の庭に生えてる木だなんてね」


啓樹はもう一度窓の外のでかすぎる木に目を向け、ため息をついた。

あんなもんがまさか自分の家から生えてるだなんて。


しかもそれが、異世界から転移してきた世界樹だなんて。

非現実的すぎる。

「ほんと、意味わかんないよ」

啓樹は、思い悩む事すら面倒くさくなって、やがて机に突っ伏して眠った。

窓の外には、全長1kmをはるかに超える、とてつもない巨木が街を覆い隠すようにゆらゆら枝葉を揺らしていた。

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