第11話 嵐の朝に揺れる運命

タイトル:占い師(イル・カルトマンテ)


第2章 叡智(えいち)


【第1話】 嵐の朝に揺れる運命


【あらすじ】

暴風が吹き荒れる朝、ロレンツォはサーカスの赤いテントを遠くに見つめながら、昨夜の不可解な幻想と催眠の体験を思い返す。時間と現実の感覚を失った彼の心に忍び寄る、不穏な影と運命の予感が刻一刻と迫る。


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翌朝、ロレンツォは遅くに目を覚ました。外では風が吹き荒れていた。それは突風を伴う凶暴な風で、ときおり吠えるような音を立てては家中の窓にぶつかり、部屋の隅々にまで響いていた。八階建ての建物の最上階にあるアパートという立地も、それをより一層大きく感じさせていた。風が吹くたびに、窓ガラスがびりびりと震えた。

ロレンツォはバルコニーに出て、手すりに身を預けた。風が彼の顔を平手で叩くように吹きつけ、髪をかき乱し、息すら奪い取った。空には分厚い雲が一面に広がり、明暗さまざまな灰色の濃淡が空を覆っていた。太陽の光はわずかにしか差し込まず、ただ雲は風に追われるように流れていく。

通りを挟んだ先、緑の帯の向こう、数日前に設営されたサーカスの広場が目に入った。そこは昨日の晩、友人たちと訪れた場所だった。今はすべてが止まっているようだった。風に巻き上げられた砂塵だけが地面を這い、全体にただ静けさが漂っていた。大きなコンクリートブロックが支柱を支え、構造全体をしっかりと固定していた。ロレンツォの視線は、占い師の赤いテントへと吸い寄せられた。係員が何人か、ロープを点検していたが、それ以外に動く気配はない。皆、トレーラーにこもって天気の回復を待っているのだろう。晴れれば、また夜には公演があるはずだ。だから天候は変わらねばならなかった。

ロレンツォは部屋に戻り、昨夜の出来事を思い返した。

セスに催眠術をかけられたのか、それともオルテンシアの赤いハーブティーに何かあったのか。あるいは両方か。まさか自分がシナモンにアレルギーを持っていたなんて? あり得ないとは言い切れない。だが、はっきりしているのは、彼が時間と現実の感覚を失ったことだった。

オルテンシアの目。優しい顔立ち。セスの手、指輪、タロットカード。中でも「運命のカード」が生きているかのように変化し、幻想の世界へと彼を導いた。そのカードの図柄すら今はもう曖昧だ。だが、そこには蛇や円環、大地・水・火・風といった世界を形作る要素が混在していた。

その風が今も彼のバルコニーの扉を叩いていた。背筋に寒気が走る。

セスが特に意味を込めて見せた2枚のカード──男女の姿。それらは「運命のカード」と結びついていた。あれは彼とオルテンシアを示していたのだろうか。それとも、そう思いたいだけなのか。



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(続く)


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