『俺達のグレートなキャンプ71 キャンプ場の神様にゴージャスな稲荷寿司と舞を』

海山純平

第71話 キャンプ場の神様にゴージャスな稲荷寿司と舞を

俺達のグレートなキャンプ71 キャンプ場の神様にゴージャスな稲荷寿司と舞を


夕暮れ時のキャンプ場。オレンジ色に染まった空の下で、焚き火がパチパチと音を立てて燃えている。その火の光に照らされた石川の顔は、まるで何か重大な発見をした科学者のように輝いていた。両手を腰に当て、胸を張って立つ彼の姿は、まさに自信に満ち溢れた探検家そのものだった。

「よーし!今回の『奇抜でグレートなキャンプ』は決まったぞ!」

石川が突然両手を天高く掲げた瞬間、まるで雷が落ちたかのような衝撃が空気を震わせた。その声は山々にこだまし、遠くで鳴いていた鳥たちも驚いて飛び立っていく。隣のテントサイトで晩御飯の準備をしていた家族連れが、一斉にこちらを振り返った。

千葉は薪を両手に抱えたまま、目をキラキラと輝かせながら振り返る。彼の瞳には純粋な期待と興奮が渦巻いており、まるで子どもがクリスマスプレゼントを待つときのような表情だった。

「えっ、もう決めちゃったの?今回はどんな感じ?ワクワクが止まらないよ!」

一方、富山は手に持っていた飯盒をそっと地面に置くと、深いため息をついた。彼女の表情には、長年の経験から来る不安と諦めが入り混じっていた。眉間にうっすらとしわを寄せ、唇を軽く噛みしめる姿は、まるで嵐の予感を察知した船乗りのようだった。

「石川くん...また何か変なこと考えてるでしょ?」

石川はニヤリと笑うと、まるで世界最大の秘宝を発見したかのような表情で声を潜めた。焚き火の光が彼の顔を下から照らし、その影が不気味に踊っている。彼の目は異常なまでに輝いており、まるで狂気と天才の境界線上を歩いているようだった。

「今回は...『キャンプ場の神様にゴージャスな稲荷寿司と舞を捧げる』だ!」

「「え?」」

千葉と富山の声が完璧に重なった。まるで双子のような息の合いようで、二人とも口をポカンと開けて石川を見つめている。千葉の手から薪がポロポロと落ち、富山は額に手を当てて天を仰いだ。

「いや、石川、それって...」富山が言いかけたとき、石川は興奮のあまり手をブンブンと振り回した。

「考えてもみろ!俺たちは毎回このキャンプ場にお世話になってるじゃないか!」石川の声は次第に大きくなり、まるで政治家の演説のような熱がこもっていく。「天気に恵まれ、焚き火も上手く燃え、料理も美味しくできる!これはきっとキャンプ場の神様のおかげに違いない!」

千葉の目がさらにキラキラと輝いた。まるで宝石のような輝きで、彼の口元には大きな笑みが浮かんでいる。

「なるほど!確かに言われてみれば!いつも楽しいキャンプができてるもんね!」

「だろ?だから今回は、その神様に感謝の気持ちを込めて、最高級の稲荷寿司を作って、舞を踊って捧げるんだ!グレートだろ?」

富山は額に手を当て、深いため息をついた。彼女の肩は諦めに似た重さで下がり、まるで世界の重みを一身に背負ったかのようだった。

「石川くん...神様って...本当にいるのかしら?」

「いるに決まってるじゃないか!じゃなきゃこんなに素晴らしいキャンプができるわけないだろ!」石川の確信に満ちた声は、まるで宗教的な狂信者のような迫力があった。

翌朝。石川は異常なまでのテンションで目を覚ました。彼のテンションメーターは既に振り切れており、朝の爽やかな空気すらも彼の興奮に感染してしまったかのようだった。鳥たちのさえずりさえも、まるで石川の気分を盛り上げるBGMのように聞こえる。

「おはよう、未来の神様接待師たち!今日は歴史に残るグレートな一日になるぞ!」

富山は寝袋から這い出しながら、まるで二日酔いの人のようにふらふらとした足取りでテントから出てきた。髪はボサボサ、目は半分閉じており、明らかに石川のテンションについていけない状態だった。

「石川、朝からそのテンション...」

千葉は既に起きて、石川と同じようなハイテンション状態だった。まるで石川のテンションが感染したかのように、彼の目も異常に輝いている。

「石川!昨夜考えたんだけど、普通の稲荷寿司じゃダメだよね?神様に捧げるならもっと特別じゃないと!」

「そうだ千葉!さすが俺の相棒!」石川は千葉の肩を力強く叩いた。その衝撃で千葉の体が揺れ、まるで地震が起きたかのようだった。「というわけで、今日は町まで買い出しに行くぞ!最高級の食材を揃える!」

「最高級って...お金大丈夫?」富山の声は震えていた。彼女の脳裏には、家計簿の数字が踊っているのが見て取れた。

「心配するな富山!神様への投資だ!きっと何倍にもなって返ってくる!」石川の声には、まるで怪しい投資話を持ちかける詐欺師のような怪しさがあった。

一時間後、三人は車で最寄りの町へと向かっていた。石川の運転する車内は、まるでロックコンサート会場のような興奮状態だった。千葉は後部座席で身を乗り出し、まるで映画の名場面を語るように稲荷寿司のアイデアを語り続けていた。

「ねえ石川!マツタケを入れたらどう?それとも金箔?いや、両方?」

「おお!金箔!それだ千葉!ゴージャス度が一気に上がるな!」石川の目は運転中にも関わらず、まるで宝石を見つけた海賊のように輝いていた。

「ちょっと待って!金箔って食べ物用?そんなの売ってるの?」富山が運転席に向かって身を乗り出した。彼女の声には、まるで崖っぷちに立たされた人のような切迫感があった。

「売ってるに決まってるじゃないか!この世にないものはない!」石川の声は、まるで全知全能の神のような自信に満ちていた。

結果的に、三人は町の高級食材店で、普段なら絶対に買わないような食材を大量に購入することになった。店員さんも、三人の異常なテンションと購入する食材の組み合わせに困惑していた。特上のお米、最高級の油揚げ、松茸、ウニ、イクラ、そして本当に食用の金箔まで。レジでの合計金額を見た富山の顔は、まるで死刑宣告を受けた囚人のように青ざめていた。

「これで本当に大丈夫?お財布が...」富山の声は震え、まるで今にも泣き出しそうだった。

「富山!神様への捧げ物にケチっちゃダメだ!グレートな結果が待ってるぞ!」石川の声は、まるで宗教的な指導者のような説得力があった。

キャンプ場に戻ると、石川は早速舞の練習を始めた。彼の動きはまるで古代の巫女のように神秘的で、同時に現代のダンサーのようにエネルギッシュだった。しかし、客観的に見ると、ただの変なおじさんが一人で踊っているようにしか見えなかった。

「よし!稲荷寿司と一緒に舞も捧げるからには、適当じゃダメだ!本格的な舞を踊らなければ!」

「本格的って言っても、僕たち舞なんて踊れないよ?」千葉の声には不安が混じっていたが、それでも期待の方が大きかった。

「だからこそ練習だ!YouTubeで神楽の動画を見て覚えるぞ!」

石川はスマートフォンを取り出し、神楽の動画を検索し始めた。隣のテントサイトの家族連れが、明らかに三人の方を見て何やらひそひそと話している。その視線は、まるで動物園の珍しい動物を見るような好奇心と困惑が入り混じったものだった。

「あの...石川くん...周りの人たちが見てるわよ...」富山の声は小さく、まるで恥ずかしさで消え入りそうだった。

「気にするな!きっと俺たちのグレートなキャンプに興味を持ってるんだ!」石川の声は、まるで有名人になった気分で浮かれているようだった。

三人は午後いっぱいかけて、見よう見まねで舞を練習した。石川は右手にうちわ(扇子の代用)を持ち、左手で架空の袖を翻すような動きを繰り返していた。その姿はまるで、現代版の天狗のようだった。千葉は飛び跳ねるような動きを取り入れ、まるでバレエダンサーとカンガルーを足して二で割ったような独特なスタイルを確立していた。富山は恥ずかしそうにしながらも、小さく手を動かしており、その姿はまるで初心者の社交ダンス教室の生徒のようだった。

隣のサイトのお父さんが、ついに意を決して近づいてきた。彼の表情には、好奇心と心配、そして微妙な困惑が入り混じっていた。

「あの...何をされてるんですか?」

石川は練習を一旦止めて、まるで宗教の伝道師のような満面の笑みで答えた。その笑顔は眩しすぎて、直視するのが困難なほどだった。

「キャンプ場の神様に感謝の舞を捧げる練習をしてるんです!今夜、ゴージャスな稲荷寿司と一緒に奉納するんですよ!」

「神様...ですか?」お父さんの声には、明らかな困惑が含まれていた。

「そうです!このキャンプ場にはきっと素晴らしい神様がいらっしゃるんです!だから俺たちはいつも楽しいキャンプができるんですよ!」

お父さんは苦笑いを浮かべながら、まるで関わらない方が良いと判断したかのように、そそくさと自分のテントに戻っていった。

夕方になり、いよいよ稲荷寿司作りが始まった。三人の気合いの入り方は異常で、まるでオリンピックの料理部門があったら金メダルを狙えるほどの真剣さだった。

「よし!神様に捧げる最高の稲荷寿司を作るぞ!」石川の声には、まるで戦場に向かう戦士のような気迫があった。

三人は分担して作業を進めた。富山が特上米を丁寧に炊き、千葉が具材の準備をし、石川が油揚げを愛情込めて煮込んだ。しかし、その具材の豪華さは常軌を逸していた。

「石川!このマツタケ、本当に稲荷寿司に入れるの?」千葉が手のひらサイズの巨大なマツタケを両手で抱えながら困惑していた。そのマツタケはまるで小さな傘のようで、一個で一人前の料理ができそうなサイズだった。

「当然だ!神様にはゴージャスな物を捧げなければ!」石川の目は、まるで宝石商が最高級のダイヤモンドを見るときのように輝いていた。

富山は心配そうに見守りながら、まるで医者が重篤な患者を診るような表情で言った。「でも味の組み合わせ、大丈夫かしら...」

「富山!味なんて二の次だ!大切なのは気持ちと豪華さだ!」石川の声は、まるで芸術家が作品について語るときのような情熱的なものだった。

そして、運命の瞬間がやってきた。金箔の登場である。石川は食用金箔の小瓶を手に取ると、まるで魔法の粉を扱うかのように慎重に蓋を開けた。

「いよいよだ...」

石川は稲荷寿司の上に、惜しげもなく金箔を振りかけ始めた。最初は控えめだったが、だんだんとエスカレートしていく。

「もっと!もっと豪華に!」

気がつくと、稲荷寿司は金箔でほぼ見えなくなっていた。まるで黄金の塊のような稲荷寿司が、焚き火の光を反射してキラキラと輝いている。

「うわあ...これはもう稲荷寿司じゃなくて、黄金の彫刻品だよ...」千葉が呆然と呟いた。

「すごいキラキラしてる...でも食べ物に見えない...」富山も同じように呆然としていた。

「よし!これで神様もきっと喜んでくれるぞ!次は舞の本番だ!」石川だけは満足そうだった。

日が完全に暮れると、石川は三人を焚き火の前に集合させた。キャンプ場の他の利用者たちも、何事かと遠巻きに見守っていた。その視線は、まるでサーカスを見るような期待と不安が入り混じったものだった。

「それでは始めよう!キャンプ場の神様への感謝の奉納を!」

石川は黄金に輝く稲荷寿司を焚き火の前に丁寧に並べた。その光景は、まるで古代エジプトの黄金のピラミッドを小さくしたような神々しさがあった。三人で円陣を組むと、石川が大きく深呼吸をした。

「キャンプ場の神様!いつも素晴らしいキャンプ体験をありがとうございます!」石川の声は山々にこだまし、まるで神に届くかのように響いた。

「今日は感謝の気持ちを込めて、最高級の稲荷寿司と舞を捧げます!」千葉も負けじと大声で叫んだ。

「...えっと...いつもお世話になってます...」富山だけは恥ずかしそうに小声で呟いた。

そして三人は練習した舞を踊り始めた。石川はうちわを激しく振り回し、まるで嵐を呼ぶ祈祷師のようだった。千葉は飛び跳ね続け、まるで重力を無視したダンサーのようだった。富山は恥ずかしそうにしながらも、優雅に手を動かしており、その姿は意外にも美しかった。

焚き火の光に照らされた三人の舞は、確かに神秘的に見えた。しかし、客観的に見ると、やはりただの変な人たちが変な踊りを踊っているようにしか見えなかった。

周りで見ていた他のキャンパーたちからは、困惑しながらも温かい拍手が起こった。

「おお!観客がいるじゃないか!」石川はさらにテンションを上げ、まるでロックスターのように振る舞い始めた。

「みんなも一緒にやりましょう!キャンプ場の神様に感謝を!」千葉が手を振って観客を巻き込み始めた。

すると、最初は遠巻きに見ていた家族連れの子どもたちが、面白そうに近づいてきた。子どもたちの目は純粋な好奇心で輝いており、大人たちの困惑とは対照的だった。

「お兄ちゃんたち、何してるの?」

「キャンプ場の神様にお礼をしてるんだよ!君たちも一緒にやってみる?」石川が優しく声をかけた。

気がつくと、キャンプ場の半分以上の利用者が焚き火の周りに集まっていた。子どもたちは石川たちの真似をして舞を踊り、大人たちも笑いながら手拍子を叩いていた。まるで即席の祭りのような雰囲気になっていた。

「これは予想外の展開だな!」富山が驚いていた。

「でも楽しい!みんなでやると本当に神様がいるような気がしてくる!」千葉が興奮していた。

そのとき、空から雷のような声が響いた。

「やりすぎじゃーーー!」

全員が空を見上げた。雲の隙間から、まばゆい光が差し込んでいる。

「え?今の声...」誰かが呟いた。

再び空から声が響いた。

「わしがキャンプ場の神様じゃ!お前たちの気持ちは嬉しいが、金箔まみれの稲荷寿司はやりすぎじゃーーー!」

「「「神様!?」」」

三人の声が完璧にハモった。

「特にお前じゃ、石川!わしは質素な神様なんじゃ!普通の稲荷寿司で十分じゃったのに、なぜ金の延べ棒のような物を作ったんじゃ!」

石川は慌てて言い訳をした。「で、でも神様にはゴージャスな物を...」

「ゴージャスすぎるわ!わしの目が痛いじゃないか!それに舞も激しすぎて地震が起きそうじゃ!」

神様の声は続いた。

「お前たちの気持ちは十分伝わった。これからは普通の稲荷寿司で頼むぞ。それと舞ももう少し控えめに。わしは静かに見守っているのが好きなんじゃ」

「はい!神様!」三人は慌てて返事をした。

「でも、みんなを楽しませてくれてありがとう。それだけは評価するぞ。じゃあ、わしはもう休むからな」

光が消えると、辺りは静寂に包まれた。しばらくして、子どもの一人が言った。

「本当に神様がいたんだ!」

大人たちも感動していた。そして全員で、今度は控えめに手を合わせて感謝の気持ちを伝えた。

結局、金箔まみれの稲荷寿司はキツネたちが美味しそうに食べてくれた(キツネには金箔の価値は分からなかったが)。

翌朝、三人がテントから出ると、昨夜の騒動が嘘のように静かな朝を迎えていた。

「結果的に神様に会えたけど...怒られちゃったね」千葉が苦笑いを浮かべた。

「でも、神様がいることが証明されたじゃない!」富山も今回は満足そうだった。

「次はもう少し控えめにしよう...」石川も反省していた。

「で、次はどんなキャンプをするの?」千葉が期待を込めて聞いた。

石川は少し考えてから言った。

「次は『キャンプ場の神様と静かにお茶を』だ!」

「それは普通のキャンプじゃない?」富山がツッコんだ。

「普通が一番グレートなんだよ!」

三人は笑いながら、次回のキャンプに思いを馳せた。きっと今度は、もう少し神様に優しいキャンプになるだろう。

~俺達のグレートなキャンプ71 完~

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『俺達のグレートなキャンプ71 キャンプ場の神様にゴージャスな稲荷寿司と舞を』 海山純平 @umiyama117

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