特に何の教訓もなく、特段楽しくなるわけでもない、様々な人間の過去の話
宇宙(非公式)
ゴミ置き場(35分)
私の街には、願いが叶うゴミ置き場がありました。実際見てみると、何の変哲もないゴミ置き場でしたが、特別な力があるらしいのです。友達が言うには、願い事を書いた紙をそのゴミ置き場に入れておけば、なんとその願いが叶うようです。
子供ながら私はそういうオカルト系に冷め切っていて、遠巻きにそれを眺めては優越感に浸るなどなかなか性格の悪いことをしていました。
その都市伝説も下火になってきた頃、私はあることをしたくてたまらなくなりました。そのゴミ置き場に届いた願い事を、私の手で叶えたくなったのです。私の実家はお金持ちでしたから、小学生が欲しがる安い商品を買える程度には潤沢なお小遣いをもらっていました。
まず最初に叶えた願いは、「羊のぬいぐるみを買って」というものでした。私は休日におもちゃ屋さんでそれを購入すると、夕暮れに染まるそのゴミ置き場にそっと置きました。
翌日の放課後に見に行くと、小学校低学年くらいの男の子がそのぬいぐるみを抱き抱えて喜んでいました。「願いが叶ったよ!」とその隣の友達に自慢していました。私はとても嬉しくなりました。サンタさんになった気分です。
とはいえ私はとても感受性の低い子供でしたので、「サンタさんはこんなに嬉しいんだろうな」とサンタさんに思いを馳せることはありませんでした。
調子に乗った私は願いを叶え続けました。願い事の数はどんどん増えていき、その中から一つを選定する作業にはなかなか愉快でした。
中でも1番達成感のあったものは、友人の恋を成就させたことです。告白の場を周到に用意し、私のおかげでその二人が付き合った時は、思わず隠れている茂みから飛び出しそうになってしまいました。
しかしある日、衝撃的なお願いが私の元に届きました。
「クラスのみんなが死にますように」
と、ぶっきらぼうな字で書き殴られていました。その字には見覚えがありました。私のクラスメイトです。といっても、本当にクラスメイトというだけで、彼とは友達ではありませんでした。
彼はみんなとは離れて常に一人で過ごしていました。しかし、死んでほしいとまで思っていたとは思いませんでした。私は罪悪感と驚きと、ごく少量の怒りを握りしめて家路に着きました。
それがきっかけだったのか、私は次第に願い事を叶えることに対する情熱を失っていきました。小学六年の冬には、その存在すらすっかり忘れていました。
卒業式の帰り道、私はゴミ置き場を見に行きました。そこには相変わらず馬鹿共がもう叶わないとも知らずに吐き捨てた願い事たちがあります。その中に、あの羊のぬいぐるみがあるのを見つけました。
私は踵を返すと、家のある方向にまた歩き始めました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます