僕と君だけの物語

HOSHI

僕と君だけの物語

 人生とはなにか? 僕は何故なのかはわからないが、ふとした瞬間に考えることがあった。だが、この問いの答えが出たことはない。この問いを他の人にもきいてみれば、それぞれ答えは違うのだろう。僕にとって人生とはなんなのだろうか。

 ジリジリと暑い夏の日、僕は大きなリュックを背負い、勉強をするため学校へ向かっていた。こんな暑い日は、家で大人しくしていればいいのだろうが、残念ながら家にあるエアコンが二台とも壊れてしまったため、直るまでの間、こうして学校まで行って勉強するのであった。

 学校につくと、僕は学校の図書館へと向かった。僕の学校では夏休み期間は、ほとんど毎日図書館は開いているので、静かで涼しい中で勉強できるのだ。僕は、早速机の上に勉強道具を広げると、勉強を始めた。

 二時間後、勉強が一段落ついたとき、後ろから声をかけられた。

「君、最近ずっとここで勉強しているよね」

「うわっ!」

「ごめんね、急にはなしかけちゃったから、驚いたよね」

申し訳なさそうな顔をしたその子は、白いワンピースをきた女の子だった。

(制服をきていない? この学校の生徒じゃないのか? それかこの学校の卒業生?)

「あの、ここは図書館ですけど。誰かに用があるのであれば、職員室まで案内しますよ」

「いや、その必要はないから大丈夫よ。私は君に用があるのよ。川西龍吾くん」

「え?」

(ちょっと待て、今なんて言った? 僕に用があるって。それになんで僕の名前を知っているんだ? 教えてもいないのに)

「私は、君に手伝ってもらいたいものがあるのよ」

「僕に手伝ってもらいたいことですか?」

「そう、これを見てほしいんだけど」

そう言うと彼女は謎の本をカバンから取り出して、僕に差し出した。

「これですか?」

僕は、彼女から本をもらった。

「そうよ。ちょっと中を見てもらえるかしら?」

「わかりました。では、失礼します」

僕は、その本を開けてみた。そして僕は、その本を開いて驚いた。なぜならその本は、読めないくらいにボロボロで文字がかいてあるのであろう部分は汚れてしまっていてなにがかいてあるのかはわからない。

「これは……。なにがあったんですか?」

「ひどいでしょう。ちょっと色々あってこうなってね。そこで君の力を貸してほしいの」

「なんですか?」

「この本をもとの状態に戻してほしいの」

「え、この本をもとの状態に戻すんですか!? 僕、この本の内容わかりませんよ!? それなのに戻すなんて。いくらなんでも無理ですよ」

「お願い! 君にしか頼めないの。私も手助けするから」

「でも、僕、そんな本を書く才能ないし」

「この本、本当に大切なものなの! これを直せるのは君しかいないから、本当にお願いします! 直してください!」

(こんな、ここまで必死になっているんだ。本当に大切なものなんじゃないか? これは、直してあげないと可哀想だけども、僕に直せる勇気ないし)

僕は、数分間悩み続けたが、ようやく答えが出た。

「わかりました、やりましょう」

「本当!? ありがとう!」

彼女は、飛び上がって喜んだが僕の中は、不安や心配などでいっぱいだった。

(本当に直せるかな、いやでも引き受けたんだ。やらなきゃ)

ここから謎の本を直す作業が始まった。

 数分後、僕は、ボロボロになった本とにらめっこしていた。

(引き受けたのは、いいけどなんにもわからないぞ)

彼女にこの紙にかいてと渡された大量の白い紙にはまだなにも書かれていなかった。ところどころ読める場所はあるものの、すべて読めるわけではないので、全然作業は進んでいなかった。

 全然作業が進まないまま数日がたった。

(まずいぞ。全然進まない。そもそもなにがかいてあるのかわからないから、進めようにも進められないし)

「どう? 進んだ?」

「うわ! もう急に出てきて驚かさないでくださいよ」

「ごめん、ごめん。で、どれくらい進んだ?」

「全然、進んでいないんです。なんてかいてあるのかわからなくて」

「本当だ、まだ一文字もかいてないじゃない」

「ところどころ読めるところはありますけど、ほとんど読めませんし」

「うーん。読める、読めないじゃなくて、もっとこの物語に入り込んでみたら? まだ君は見える表面上の部分しか注目してないんだよ。もっとこの物語の中まで入りこまないと、これ一生終わらないと思うよ」

「物語に入り込むですか?」

「そう、もっと想像してみるとかさ。この物語と心を通わせるんだよ」

「心ですか、わかりました。もっとこの物語に入り込んでみます」

「うん、頑張って」

僕は彼女に言われた通り、もっと物語に入り込んでみることにした。 

(見える部分を使って、その情景などを考えるんだ)

僕は、見えている文字をノートに書き出していった。「海に行った」や「初めて挑戦した」など、とにかく読み取れる部分をかいていく。そしてそのとき、どんな気持ちになるか、どんな景色をみるか、どのようなことを話すか、僕は自分の体験したことや、今まで読んできた物語、友達からきいたことなどをもとにその文字に関連することを書き足していく。

(ここの文章では、初めて海に行ったってかいてある。その後は汚れのせいで見えないけど、でも自分の体験したことなどを思い出して書くんだ。僕が初めて海に行った日、暑い夏の日だった。波の音や楽しそうに遊んでいる人達の声が聴こえてきたな。それから海に入ったときとても冷たくて気持ちよかったな)

僕は、こんな感じで自分がその時思ったことや、こんな景色が見えていたな、など思い出しながらかいていった。そしてまたその本の文章を書くと、なんとなくだが、汚れの下にかいてある文字が見えた気がした。

(表面だけじゃなくて中にも注目すれば、見えない部分も見えていくのか)

僕は、なにもかいていなかった真っ白な紙に初めてペンを走らせた。その本の文章に合うように、かいていった。

(この調子でかいていこう、なんとなく楽しくなってきた気がする)

僕は、そのあとも書き進めていった。

 数日後、僕はようやく本を完成させることができた。

(やっとできた、もう書きすぎてなんてかいたかは覚えていないけど、とても不思議な物語だったな)

僕が達成感を味わっていたときに急に背後から聴き覚えのある声が聴こえてきた。

「できた?」

「うわっ! だから驚かさないでくださいって何回も言いましたよね」

「ごめんね、つい癖で」

「それ、本当に反省してます?」

「反省はちゃんとしてるよ。で、どう?」

「完成しましたよ、ほら」

「うわー、本当だ! すごいね、本当にかいちゃうだなんて」

「まあ、大変でしたけど。でも完成できて良かったです」

「でもね、まだ完成じゃないんだよ」

「え、どういうことですか?」

僕は、まだやることがあるときき、驚いた。

「今から君には、この本を読んでもらおう」

そう言って、彼女は、僕がかいた本を僕に手渡した。

「読むんですか? 自分がかいたものを?」

「うん、君には、知って貰わなくちゃいけないことがあるからね」

「知って貰わなくちゃいけないこと?」

僕は、どういうことかきいたが彼女は、読めばわかると言って教えてくれなかった。僕は、困惑しながらも本を開いて物語を読み始めた。主人公は、川西美樹という自分と同じ名字の女の子だった。

(かいているときは、そこまで内容はみなかったからな。どういうことがかいてあるのかは、わからないんだよな)

読み進めていくと、女の子が体験したことなどがたくさんかいてあった。小学校に入学しただとか、初めての友達ができたとか、そういえばこんなことをかいたような気がする。

(なんか普通の物語とは違うんだよな、この女の子の体験談ばっかりだし)

そのあとも、校外学習に行って、様々なことを学んだ、友達と初めて遊んだとか体験して感じたことなどがたくさん書かれていた。だが、その先からかいた覚えのないような文章があった。

中学に上がった二ヶ月後に、弟が生まれた。名前は、家族みんなで考えて川西龍吾になった。龍吾といつか一緒に遊びたい。

(僕、こんな文章かいたか? しかも僕と同姓同名の弟だし。かいた覚え全く無いんだけど、知らないうちにかいてた? そういえば、後半のほうをかいていたとき眠くなっていたような気がするけど。その時にこれかいた?)

そのあともかいた覚えのない文章が続いた。

弟が生まれた三ヶ月後に、私は、事故にあって、帰らぬ人となった。龍吾と遊んだり、話したりまだやりたかったことあったのにな。

僕は、この最後の文章を読んだとき、なにかと重なった気がした。

(この弟の名前、僕と同姓同名だし、しかも母さんから美樹っていう姉がいたって。僕が生まれた三ヶ月に事故にあって亡くなったってきいたことがある。そういえば、この女の子の顔、仏壇に飾ってある写真とよくにているような、ということはこの物語は……)

僕は、女の子のほうをみた。彼女は、悲しそうな顔をして、口を開いた。

「気づいたかな?」

「もしかして僕の姉さん?」

「そうだよ、龍吾。良かった、思い出してくれて」

姉さんは、悲しそうなだけど嬉しそうな顔で頷いた。

「ということは、この本の内容は、姉さんの人生っていうこと?」

「そういうこと、ごめんね、無理して書かせちゃって。龍吾、ちょっと来てもらいたいところがあるの。私の腕につかまってくれる?」

「うん」

僕は、いわれた通り姉さんの腕につかまった。姉さんは、僕のことを確認すると、なにかのボタンを取り出して、ボタンを押した。そして一瞬で何処かに移動したようだった。

「龍吾、目を開けてみて」

僕は、姉さんに言われた通り、目を開けた。

「なんだ、ここは?」

そこは、たくさんの本がある場所だった。

「このたくさんの本には、死んだ人たちの人生がそれぞれ書かれているのよ。そしてその本は、ここで保管されるの。人が亡くなった瞬間にその人の人生が書かれた本がここに来るのよ」

姉さんは、僕に丁寧に説明してくれたが、僕は一つだけ引っかかることがあった。

「でも、姉さんが亡くなってからもう何年もたっているから、姉さんの本は、もうここに並んでいるよね? でも姉さんの本は、今は並んでいない。どうして?」

「それはね、私の本が汚されて、読める状態じゃなかったからよ。その人の人生がわからないと、ここの本棚には並べられないの。だけど、両親が私の死を受け入れられなくて、私の本が汚れてしまったの。親族などがその人の死を受け入れられないと、その人の物語は、汚れてしまったりして、読める状態ではなくなってしまうのよ。そしてその本を読めるようにするには、その亡くなった人と血がつながっている人が書き直すしかないのよ。だからあなたに頼んだの。両親は、つらすぎてかけないだろうだろうから。その本がないと存在自体なくなってしまうのよ。つまり、生きていた証がなくなるってこと」

「そうなんだ……。なんか人生って一つの大きな物語みたいだね」

「私も人生は物語だと思う。この物語の長さは人によって違う。長くなる人もいれば短く、もしくは、なにも書かれていない空白になってしまう人もいるんだよ。でもね、生きていたら、誰でも大切な物語があるんだよ。そして今、生きている人たちは、今、物語を書き続けている途中なんだ。だからその物語が素敵になるように頑張ってね」

姉さんは、そう言うと優しく微笑んで僕をもとの世界に戻して、消えてしまった。

(生きていたら、誰にでも大切な物語がある)

僕は姉さんの言葉を何回も心の中で繰り返していた。そして僕は、なにか大切なものの答えがわかった気がした。

 数日後、今日も僕は、学校の図書館に向かっていた。

(人生とはなにかときいたら人それぞれ答えは違うかもしれない。だけど、僕の中で人生というのは一つの物語だと思う。その物語の内容は人それぞれ違う。だから人生というものは、とても興味深いものなんだと想う。ただ一つちゃんと言えるのは、僕の物語は僕にしか作れないことだ)

自分の物語があれば、今、生きている君の物語もある。だが、その物語は、自分しかかけない。人によってそれぞれ違う物語。僕はどんな物語ができるのだろうか。人生は、それぞれの個性色が輝く物語だ。ならその物語を宝石よりも輝くものにしなければ損だ。今日も僕は自分にしか作れない最高の物語の続きを書くためにたくさんの挑戦をしていく。誰も真似できないような僕だけの物語を作るために。



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僕と君だけの物語 HOSHI @HOSHIZORA69

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