第23話『彼の顔は、どこか安らかに見える』
## 第23話:さゆり
わたしたち、夫婦2人。結婚当初から、一つの部屋にベッドが2つ並んでいた。一つのベッドで寝たことなど、一度もない。まだ、寝室を別にしないだけまし、と自分に言い聞かせていた。
くだらない新婚生活は、わずか半年で幕をとじる。
お互いのベッドで寝ていた。それでも、眠りは浅かった。夫の寝言? 夫の一人事? いえ、それはもっと直接的で、冷酷な現実だった。
「ん〜〜、さゆり! 愛してる!」
はぁ?
その瞬間、私は夫の首を締めつけていた! 腹が立つのを通り越して、背筋が凍りつくような感覚。冷たい汗が、背中を伝う。
(さゆり……? 誰よ、その女!)
心臓が早鐘のように打つ。夫の寝息が、耳障りなほど大きく聞こえる。私の指は、まだ夫の首に食い込んだままだった。このまま、彼を……?
いや、ダメだ。まだ、そんなこと、できない。
私は、力なく手を離した。夫は、かすかに身じろぎをしただけで、再び深い眠りに落ちていく。まるで、何もなかったかのように。
私の胸の中には、冷たい炎が燃え上がっていた。それは、嫉妬とも、怒りとも、そして、それ以上の、もっと原始的な感情だった。
(さゆり……許さない。絶対に。)
夜明けの光が、部屋に差し込む。私は、冷たい床に座り込み、ただ、静かに夫を見つめていた。彼の顔は、どこか安らかに見える。だが、私の心は、激しい嵐に掻き乱されていた。
この日を境に、私たちの関係は、静かに、しかし確実に、破滅へと向かい始めた。
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