新米創造神の知識無双~俺の作った世界の人間が馬鹿過ぎてすぐ滅亡しそうなんだが~
四熊
世界創造
「アークよ、お前も自分だけの世界を創造してみよ。」
創造神学校を卒業した俺に主神のゼウス様はそう言った。
正直、最初は戸惑った。新米の神様の俺にちゃんと出来るだろうか。
でも、他の神々が楽しそうに世界を作っているのを見ていると、俺もやってみたくなった。
せっかくだから、他の創造神もこぞって作っている流行りの中世ヨーロッパファンタジーみたいな世界にしよう。魔法とか剣とか、ワクワクするな。
「よし、文明レベルは中世ファンタジーで! よしよし、人間も配置しないと。あとは、モンスターとかダンジョンとかも必要だよな」
俺は調子に乗ってコマンドを打ちまくった。これで俺だけのファンタジー世界が完成だと、思ったんだが、どうも様子がおかしい。モニター越しに見ても、なんか全体的にちぐはぐな感じがする。森は生い茂りすぎてるし、山はとんがりすぎている。モンスターがやたらと人里に近い場所に配置されていたり、ダンジョンが川の真ん中に浮いていたり。
「ま、まあ、最初はこんなもんか…」
そう思ってごまかそうとした時、モニターの隅に表示された小さな村のアイコンが目に入った。そこには『飢餓による人口減少』の警告が出ていた。他の場所でもちらほら問題は起きているようだが、この村だけは人口のほとんどが餓死しているらしい。俺が作った世界で、こんなことが起きるなんて。
「おいおい、マジかよ……」
俺は初めて作ったので何かミスをしてしまったのではないかと急いでその村へと降り立った。
村はひどい有様だった。家々は朽ちかけ、道には誰も歩いていない。時折、かろうじて生き残ったらしい痩せ細った人間が、虚ろな目で壁にもたれかかっているだけだ。彼らの体は骨と皮ばかりで、顔色も悪い。
「これは…ひどいな。」
俺は愕然とした。
――一体、何が原因なんだ? 食料は無限に創造したはずなのに。
村の中心部まで歩くと、広場に山と積まれた果物の山があった。俺がコマンドで創造したはずの、新鮮なリンゴやバナナ、オレンジ、そして見たこともない奇妙な色の果物まで。だが、それらは誰にも手つかずで、腐敗が進んでいた。異臭が鼻を突く。
俺は生き残っている村人たちに話を聞こうとしたが、彼らは俺の姿を見ても何の反応も示さない。ただぼんやりと虚空を見つめているだけだ。唯一、かろうじて意識を保っているらしい老婆が、かすれた声で言った。
「……腹が、腹が、減ったんだよ。腹が減るとどんどんと弱ってみんな死んでしまうんだ」
彼女の言葉に、俺はさらに困惑した。目の前には腐りかけとはいえ、まだ食べられる果物が山ほどあるのに、なぜそれを食べないんだ?
原因はすぐに判明した。広場にいた数人の子供たちが、その果物の山に向かって石を投げつけているのを見たからだ。彼らはそれを遊び道具と認識しているようだった。
「待て!それは遊ぶものじゃない!」
俺は慌てて駆け寄った。だが、子供たちは俺の言葉を理解していない。相変わらず、リンゴを蹴り飛ばしたり、バナナを地面に擦り付けたりしている。
俺は頭を抱えた。どうやら、俺がコマンドで食べ物と設定しただけでは、彼らにとってそれが食料だという認識にはならないらしい。いや、それどころか、物の概念すらまともに理解していないようだ。中世ファンタジーの世界にしたはずが、知能レベルがまるで幼児以下じゃないか。
「まさか……この世界全体が、こんな状態なのか?」
俺は自分の創造の甘さを痛感した。このままでは、他の村や町でも同じような悲劇が起きるだろう。俺は神として、この世界の異変を正さなければならない。まずは、この村の飢餓をどうにかすることからだ。
広場の隅で、壁にもたれかかっている一人の少女がいた。他の村人たちと同じく、ひどく痩せ細り、目は虚ろだが、どこからか急に現れた俺の存在を警戒しているような知性ある視線を感じる。彼女は俺が近づくと、ビクッと体を震わせ、さらに壁に身を押し付けた。
――ほう、比較的知性がありそうだ。
「大丈夫か? 腹が減っているのか?」
俺が優しく問いかけると、彼女は何も答えず、ただ怯えたように俺を見つめるだけだ。無理もない。見慣れない男がいきなり現れたら、警戒するのも当然だろう。
俺はゆっくりと、広場に積まれた果物の山から、熟れていて傷の少ないバナナを一本手に取った。彼女に敵意がないことを示すように、ゆっくりと、そしてはっきりと動作を見せる。
――これだけの一般的な反応を見せてくれる少女ならばちゃんと学習できるはずだ。
「いいか、これはバナナだ。」
俺は彼女に見せつけるように、バナナの先端の黒い部分を軽くつまみ、ゆっくりと下に引き裂いた。最初は硬かった皮が、ペリペリと音を立てて剥がれていく。彼女の目が、その動きを追っているのが分かった。
「こうやって、皮を剥くんだ。」
剥き終わった黄色の果肉を彼女の目の前に差し出す。彼女は目を丸くしてそれを見つめている。警戒心からか、なかなか手を出そうとしない。
「そしてこれは、食べるものだ。」
俺は自ら、剥いたバナナを一口食べて見せた。口の中に広がる甘い香りと、ねっとりとした食感。うん、美味い。
「こうやって口に運ぶんだ。」
俺が口元にバナナを運ぶと、彼女は恐る恐る手を伸ばし、俺が差し出したバナナを受け取った。その指先は震えていた。そして、俺の真似をして口元に運んだ。
一口食べると、彼女の目がさらに大きく見開かれた。その表情は、驚きと戸惑い、そして少しの喜びが入り混じっていた。
「……あ、甘い?」
彼女の声は、か細く震えていた。そのままもう一口、そしてもう一口と、貪るようにバナナを食べ始めた。あっという間に一本を食べ終えると、彼女は地面に膝をつき、嗚咽を漏らした。
「美味い、こんなに美味しいもの初めて……。お腹が、お腹が減って、死ぬかと思った……」
彼女の目から大粒の涙がこぼれ落ちる。
「な、なんでこんなこと知ってるの……? みんな食べるということを知らなくて死んで死んでいったのに」
涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、彼女はまっすぐに俺を見つめた。その瞳には、先ほどまで見られなかった強い光が宿っていた。尊敬、感謝。俺が当たり前のことを教えただけでこんなにも感謝されるなんて。
俺は彼女の頭をそっと撫でた。
「これは食べ物だ。お前たちがお腹を空かせないように、俺が用意したんだ。」
そう言って、俺は広場に積まれた果物の山を指差した。
「みんな、これを見て! これは食べ物! お腹が減ったら、これを食べるの! 私が食べ方を教えるわ」
彼女は急いでみんなに伝えなければと力を振り絞り声を張り上げ、他の村人たちにも呼びかけた。最初はぼんやりとこちらを見ていた彼らも、少女がバナナを食べている姿を見て、少しずつ興味を示し始めた。
「ほら、お前も食べてみろ。」
俺は近くにいた男にリンゴを差し出した。男は警戒しながらも、少女の様子を見ていたからか、恐る恐るリンゴを受け取った。彼は少女に教えて貰いながら食料を口の中に入れることに成功した。
「う、美味い……!」
リンゴをかじった男の顔に、生気が戻っていくのが分かった。その声を聞きつけ、他の村人たちもゆっくりと果物の山に近づいてくる。
彼女は一人ひとりに、果物の食べ方を丁寧に教えていった。皮の剥き方、かじり方、そして「これは食べ物だから、お腹が減ったら食べて」と。最初は戸惑っていた彼らも、一口食べるとその美味しさに驚き、次々と果物を口に運び始めた。
広場には、果物を食べる音と、久しぶりに食べ物を口にした喜びの嗚咽が響き渡った。俺は自分の創った世界の不完全さに呆れつつも、この一歩が俺とこの世界の住人たちとの新しい関係の始まりだと感じていた。
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