第13話 図書館へ行こう!


「文献を調べたいのであれば、ドムス大図書館へと行ったほうがいいかもしれない。」


エヴァユースの言葉に従い、私達はドムス大図書館へと向かった。ドムス大図書館は、その名の通り、多くの書物に溢れていた。驚いたのは、ちゃんと本であったことである。良かった、羊皮紙とか巻物だったら、ちょっと面倒だったかもしれないと、安堵した。理由は簡単である、読み方知らない。触ったことない。


司書のような人もおり、利用者もそこそこいるようで、テーブルに座って読んでいる者も多かった。


「古代史に関する書物は、この奥にある。あと、勇者についても必要か?」


書架の前でエヴァユースが振り返って尋ねてくる。私はその問いに首を縦に振った。


「是非。私はよくこの世界のことも、勇者のことも知らないので。とにかく、読んで、読んで、手がかりを探しましょう!」


私のその言葉を皮切りに、たくさんの書物を本棚から引き出すことになった。それぞれ、手分けして読むこととした。手分けしてと言っても、ネレイドは共有ができないので、私とエヴァユースが読むのだが。


テーブルの上に積まれた本は、数十冊を越え、私達はそれぞれ書物に向き直る。それから数時間、私達は書物に目を通しては、次へ、通しては、次へという作業を行っていた。


まず、分かったことは数点ある。この世界について──この世界はロムレアと呼ばれるらしい。先程、神父の話や、カピトリヌスの杖屋の店主の言葉通りに、主宰神ユピテルの命にて、双子神と呼ばれる神、ロムスとレムリアが争いの起こるこの地に降り立ち、平定したのだという。そして、人々に文明を授けたのだと。


そして、各地に都市を築くと双子神は告げた。主宰神ユピテルからの言葉である、と。国を作ってはならぬ、なぜならば、この地こそが国であるからだ。神が統治する国だからである。


そうして、この土地は都市こそあれど、国はなく、国あれども、統治者は主宰神ユピテルとのことだ。


これが、この土地の成り立ちらしい。それが、一つ目。2つめは、勇者についてだ。これも、少しだけ、支部長たちから聞きかじっていることだが、まぁ、それを絡めるのは、やはりこの、双子神が関わっているらしい。


魔王は、地母神ケレスが遺した聖樹ケレスの領域が届かぬ地にて生まれた。魔王は、モンスターを生み出し、瘴気の満ちる領域を支配し、そして、領域を越えて、ロムレアに侵攻してきた。


その間にいくつもの都市が壊滅しては生まれては、壊滅した。主宰神ユピテルが神殿に降り立ち、神託をよこした。


──再び、双子神に変わる者たちを寄越そう。その者たちは、勇者と成りて、魔王を打ち倒すだろう。


その神託の翌日に、聖樹ケレスと、宗教都市エスクリヌスに唐突に人が現れた。その者たちは、自身を勇者と呼び、魔王を打ち倒す為に来たと言った。


そして、文字通り、魔王を打ち倒した。幹部を屠り、モンスターを退け、魔王の領域へと立ち入って、打ち倒した。


それが、100年前の勇者──デュオスクロイの二つ名を持ち、本名は消え失せた、勇者である。


詳しいことは、載っていないものの、途中で勇者の記述が一人になっている。また、石像も一人のものだ。何か、理由があるのかと思うが、判断材料が足りない。


「ムメイ殿、クラウディウスについての記載を見つけた。」


目の前に座るエヴァユースがそう顔を上げて言ってきた。私は、ガタリと椅子を引いて、腰を上げた。見る、と言って覗き込むと、相変わらず、平時だと読むことができないだろう異国風の言語で書かれていた。


大体の内容は、パラティヌスの支部長が教えたくれた内容通りである。しかし、気になるのは、アウレア宮殿の建設時の記載があったことだ。


アウレア宮殿は、ブラム領主の強い願いから建てられたものである。何度も、臣下が施工を取りやめるように言っても、やめることはなかった。その上、そう進言してきた者の首を刎ねたほどである。それまでか、臣下に命じて、民を強制的に宮殿建設へ着手させた。


その上、ブラム領主はアウレア宮殿を作る際に、よく建設現場に訪れた。施工する民によく様子を聞いていたとのことだ。


──「何か見なかったか?」


──「何も起こらなかったか?」


あの暴虐非道な王がまるで民を心配するかのような言葉を掛けている事に皆、一様に薄ら寒い気持ちになったという。民が何も見ていない、起こっていないと応えると、安堵したような表情を見せたという。


そして、アウレア宮殿が完成すると、王は言った。


──この宮殿がある限り、余は不滅である。幾度の洛陽を迎えようとも、余は死なぬ。余は消えぬ。たとえ、神であっても余を冥府へと連れて行くことは出来ないのだ。


あまりにも傲慢な言葉に、当時の教皇は激怒した。もともと、迫害されていたこともあり、溜まりに溜まった不満が爆発したのだろう。教皇は、神官たちに、ブラムを領主の座から引き下ろすように命じた。それに伴い、アウレア宮殿の施工に、戦と徴税を重ねられていた民の不満も合わさって、ブラムは打ち倒された。


だが、ブラムは死の間際、告げた。


──例え、肉体が滅びようとも、余は死なぬ。再び、余はこの土地へと帰ってこようぞ。


誰もが一笑した。しかし、魔王の出現の機、ブラムは復活した。そして今も尚、ブラムは洛陽を迎えていない。


読み終えると、私達は顔を見合わせた。私は席へと座り、本を真ん中に置いて、今出た情報について思考する。


まず、気になる点は、ブラムはアウレア宮殿建設にかなりの熱意があったことだ。それについては、記載が多く残っており、クラウディウス史の考察という文献のみならず、アウレア宮殿建築資料にもその様子は描かれていた。ブラムが建築現場に訪れて、民に聞きまわっているときの様子は、何処か落ち着きがなかったという。まぁ、これは単に自分の威厳を誇示したいという現れなのかもしれないが、それにしては、民への聞き方がおかしい。まるで何かを隠している、もしくは、探しているかのような言い方である。


次に、彼の遺した言葉だ。文献を読んだが、彼の生前に魔王が出現するといった予言はない。神託もない。彼の意思を継ぐものなのかと思いはしたが、結果的に、彼が亡くなる前に家系は全滅・・・・・している。彼の血を継ぐものは、その当時にはいなかった。


火種を継ぐように意思を継ぐ者が現れるという不確定要素を自信満々に宣ったと言うならば別だが、大体のファンタジーのお決まり・・・・は、最後のセリフが関係があることが多いのだ。特に復活関係は。だから、一笑に付すなど、私にはできない。


私は一度目を閉じ、また開いた。クリアになった視界で、私は目の前に座る彼を見た。


なぜ、ブラムは、宮殿建設に向けて、熱意を注いでいたのか。そして、言葉の意味、復活した理由。それら全ては───。


「アウレア宮殿建設の理由に繋がっている。」


私の言葉に、エヴァユースも、手元の本を覗き込んでいたネレイドも頷いた。記録には、自身を称える、権力の象徴として建設されたとある。だが、それだけではないと、彼の建設時と死亡時の言動、その後、復活した話も含めて、関係ないわけがない。


──故に、もう一つ。


「ねぇ、エヴァユース司祭。不死か、蘇り関係の伝承ってないかな?」


私の問いかけに、エヴァユースは少しだけ首を傾げたものの、頷いた。


「存在する。それと吸血大公となにか、関係が?」


「推測だけど、ブラムの言葉通りに捉えるなら、関係があるかもしれない。だから、持ってきてくれると嬉しい。」


私のお願いに、エヴァユースはなるほどと納得し、席を立ち、本棚へと向かっていった。そして、数分の後、数札の本を腕に抱いて戻ってきた。そういえば、彼はこの図書館のことをよく知っている。よく利用しているのだろうか。まぁ、そこまで聞く必要はないと思うが。


私は思考を振り払い、彼が持ってきた本の一番上に置かれた一冊を手に取ると、本を開いた。


さて、記録に残されていない事実を読み解くとしよう!

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