第11話 吸血大公とは。


魔術師協会へと行き、窓口にて、支部長を呼ぶと再び、書斎のような場所へと通された。


「おや、ムメイ様。どうかされましたか?」


アポイント無しに訪れたにも関わらず、嫌な顔一つせずにパラティヌスの支部長は私達を出迎えてくれた。私は突如来たことの非礼を詫つつ、手紙を渡した。


「昨日、吸血鬼に襲われたんです。あ、返り討ちにしましたので、安心してください。その時に手紙をコウモリから渡されまして。拠点の場所も書かれていたので、支部長さんは知ってるのかな、と思いまして。」


先日の件を話すと、パラティヌスの支部長は私の言葉に驚き、心配の言葉を述べつつも、手紙を受け取った。そして、手紙を開き、目を通し終えると、顎に手をやった。私が読み解くのに時間がかかった手紙をそう時間をかけずに読み終えたので、ここの世界の人は遠回しな表現が好きなのかもしれない。もっと!わかりやすく!お願いします!私も大概、説明はわかりにくいって言われますけど!それよりも分かりにくいって、上司達怒るよ?


ちょっと見せてみたいけど。どんな反応をするかなあ。そんな場違いなことを考えていると、パラティヌスの支部長が口を開いた。


「そうですね。知っているのかと問われれば、肯定しましょう。知っている上で、何故伝えなかったのかというと、こう早く辿り着くとは思っていなかったと。その上で、どうして、倒せていないのか。それは、何度も復活してくるので厄介といいましょうか。」


パラティヌスの支部長の表情には、疲労が見えている。厄介と言う言葉に彼の本音が漏れている。そりゃあ、襲ってくる上に討伐したらまた復活するとか、地獄でしかない。発狂ものである。それと、私は試されていたらしい。謝罪を受けるが、私は手を横に振って、その謝罪を受け取った。理由はわかる、だって、私、まだ弱いもんね。100年の勇者がどこまで強かったのか分からないけれども、仲間はネレイドのみだ。つまり、戦力が乏しいですね!


「そうなんですね。ちなみに、ここって何処なんですか?」


私がそう尋ねると、パラティヌスの支部長はデスクから地図を取り出して広げた。私はデスクに近づくと、その地図を覗き混んだ。同じように、私の頭の上のネレイドも覗き込む。


パラティヌスの支部長が指を指したのは、英雄の都カエリウスとパラティヌスの間にある遺跡群の一角だった。古城ドミティウスもその一角にあるらしいが、どちらかというと、この拠点は、カエリウスの隣の都市である、宗教都市エスクリヌスに近い。そして、吸血大公は、クラウディウスの遺跡群の一つたる、アウレア宮殿を拠点としているらしい。


「あの、一つ気になったことがあって、その手紙に、吸血大公の名前として、ブラム・クラウディウスと書かれていますが……、その、かつてあったという都市クラウディウスと関係があるのですか?」


「ムメイ様は鋭いですね。流石は勇者様です。」


急に褒められてしまい、思わず面を食らったが、パラティヌスの支部長の表情は曇っている。その反応を見て、やはり、感は当たっていたのだと理解する。


「お話いただけませんか。特に関係なくても、私は知りたいです。」


私は胸に手を当て、そう言い切る。支部長は視線を少し彷徨わせたあと、軽く頷いて顔を上げた。


「少し長いお話になりますが、まぁ、昔話と思ってお聞きください。」


そう言って、パラティヌスの支部長は話を切り出した。彼の話は、こうだ───。


かつて、パラティヌスとカエリウス、は一つの都市であり、クラウディウスという領主が代々治めていた。侵略と防衛を繰り返し、勝利も敗北も味わっていたクラウディウスだが、巨大な都市を建設するほどに、栄華を誇っていた。民は苛烈ではあるが、繁栄のもとに慕っていた。


そして、それは、ブラムという男が領主となった時に、崩れ落ちる。まず、ブラムは、先代領主である叔父を暗殺した。そして、そのまま、領主となり、侵略を繰り返した。度重なる戦で、民は辟易し、徴税も嵩んだ。


その上、ブラムは、宗教都市エスクリヌスを執拗に攻撃した。神々を冒涜し、教会を迫害した。民が、抗議しても、エスクリヌスの領主たる教皇が警告文を出しても、攻撃の手は止まらなかった。


ブラムは、戦で敗北をすると、すぐに徴兵し、執拗にその民を襲った。その兵は野党のようだったという。そうして、それは、勝利を掴み、都市一つを手中に収めるまで続いた。


そんな暴虐をしても、ブラムは止まらなかった。自身を称えるためか、権力の誇示か、その都市予算から黄金宮殿と呼ばれる宮殿──アウレア宮殿を建設した。それにより、民はとうとう我慢ができなくなり、反旗を翻した。そうして、とうとう王を討ち取った。それからは、度々領主が重なり、カエリウスとパラティヌスは分裂し、現在のような形になった。


それから、200年前のことだ、魔王の出現とともに、人々が生命力を吸われ、その吸われた人物も人々を襲い、生命力を吸う、そうして、次の人も同様に、という事件がパラティヌスで起きた。カピトリヌスでも、同様の事件が数件起きたが、パラティヌスほどではなかった。


当時の領主が調査をする中で、魔王の幹部の仕業であることが分かった。血を媒介に生命力を吸うモンスター、吸血鬼ヴァンパイアと名付けられ、教会の神聖術で治癒すれば、モンスター化しないことが分かった。


されど、幹部の顔も分からないまま、100年が過ぎ、勇者が現れた。勇者は、拠点を暴き、その正体を白日の元に晒した。拠点たる古城ドミティウスにて、眷属とともに勇者の仲間を出迎え、吸血大公と名乗ったのは、ブラム・クラウディウスと更に宣った。


しかし、その顔は確かにブラムの肖像画にそっくりであり、眷属の一人に、ブラムの娘であったクラウディアがいた事に、信憑性が高まった。


パラティヌス出身の勇者の仲間の一人が、それを問うと、ブラムは高らかに語った。死から、魔王の力によって蘇ったと。そして、自身が生きる為に生命力を吸っているのだと。


──余の民を、余がどうしても、問題なかろう?


そう平然と告げたブラムに、誰もが憤ったことだろう。そうして、激しい戦いの末、勇者は一度目のブラムの討伐を終えた。


「そうして、ブラムは何度も復活し、勇者様を付け狙った。ブラムは暴君であると共に、非常に執着が強い性格だったと言います。是非、気をつけて。」


パラティヌスの支部長は、表情がまだ曇っている。心配と、苦悩が入り混じった複雑な表情に、私はそれを拭ってほしいために、表情を緩め、元気よく頷いた。そんな私の様子に、支部長は少しだけ表情が緩んだ。


「そうですね、良ければ、教会へと行くと良いでしょう。力になってくれるはずです。私から、教会の神父には伝えておきます。」


そんな提案に、私は頷いた。仲間ゲットのイベントであると、表情が緩む。先程の話で言うと、神聖術なるものを教会は使い、おそらく、破邪系の力なのだろうと言うことは、推測できる。よくあるファンタジーで言うところの、僧侶という役割だ。楽しみすぎる。回復系魔法が魔法としては、神聖術の中になるのかもしれないと思うと、ここで力を貸してもらえることは有り難いのだ。だって、私、神様信じてないからね。神話とか伝説とか魔法とか大好きだけど、神様を信仰することだけは出来ないのである。こればっかりは仕方ない。


「では、ムメイ様。お気をつけて。」


そんな鼓舞を受け取り、私は満面の笑みを浮かべた。デュエム嬢ロリの安寧を守るためと、喧嘩を売られたので、買うしかないのである。だって、売られた喧嘩は買うものでしょう?


私はパラティヌスの支部長に教会の場所を聞き、魔術師協会を出た。最後まで、彼は親切に、かつ、頭を下げて見送ってくれた。そんな彼にネレイドは、触手のような腕を伸ばして、手を振っていた。


そんな微笑ましい様子を見ながら、そういえば、カピトリヌスの支部長も、丁寧だったけど、ちょっと胡散臭かったな、なんてふと黒ずくめの魔法使いを思い返して、ちょっとだけ、あの顔面を拝みたくなったのだった。

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